第14話・8/14修正版
その後、決闘という名のしごきは夜まで続いた。
何度も教師が止めに入ったが、ベアルネーズへやったのと同じように説教と殺気により、いかなる介入も許しはしなかった。ギャラリーも時間と共に一人消え、二人消え、残されたのはテオドールの関係者だけになった。
途中、ベアルネーズは何度も意識を失ったが、魔術で水をかけたり、電撃を放ったりして強引に覚醒させ、決闘を続けた。
最終的に失禁して、泡を吹きながら痙攣しはじめたところでやめてやることにした。
「この程度で壊れるとは……十歳の俺でも、もう少しねばったぞ」
テオドールに制服を差し出しつつ、リュカがため息をつく。
「穏便にと言っていませんでしたか?」
「殺しちゃいないんだから、充分穏便だろ?」
「西部の論法は中央では通じませんよ……」
リュカに呆れられてしまったが、テオドール的には正しい行為だったと思う。制服を着ながらレイチェルへと視線を流した。
「レイ、これでお前の護衛にも矛をおさめさせろ。罰としては充分だろ? まだ面子を保てないと言うなら、俺が相手になると伝えておけ」
最終的に、今回の決闘は引き分けで終わった。
ベアルネーズは負けを認めず(テオドールが無視した)、決着はつかなかったのだ。となれば、騎士としてベアルネーズを認めなければならず、そんな友を傷つけると言うならば、テオドールも黙ってはいられない。
という西部式の論法が成り立つ。
「はい。納得するかと思います」
「ついでに、ベアルネーズ様のご両親に今回のことを伝えておいてくれ。彼は今晩、うちで泊める」
「ま、まだ続けるのですか!?」
さすがのレイチェルも驚いていたが、苦笑で返した。
「友を作るには恐れだけではダメだ。恐怖と一緒に信頼や親愛の情があって、恐れは畏れに変わる。それに、極限状態のほうが、思想は書き換えやすいしね。そのためには、まだ彼にしなければならないことがあるんだ」
「それ、御友人の作り方ではなく人を洗脳する方法では?」
リュカのつっこみは微笑でスルーした。
「レイ、もう遅くなってしまったが、帰宅まで護衛は必要か?」
「……少しでも一緒にいたいのですが、今日のところはベアルネーズ様にお譲りします。それに護衛はいますから」
建物の陰に人の気配があった。こちらに来て話せばいいのに、と思ったが、本人たちなりに考えがあるのだろう。
「そうか。まあ、また後日、時間を作って話をしよう」
「はい」
別れようとした瞬間、リュカに脇腹をつねられた。「え? なに?」と尋ねたら、リュカが無表情に「それだけですか?」とにらんできた。言葉が足りない、と言いたいようだ。
「……レイ、その、なんだ……」
「はい……」
「また、君に会えてうれしかったよ……その、離縁した俺が言うのは変かもだけど……」
レイチェルは驚いたように目を見開いてから、悲しげに微笑んだ。
「テオ様、私、すごくとてもいっぱい怒ったんです。こんなに怒ったことなんて無いくらい怒って泣いて許せないって思いました……でも、怒ることにも疲れて、ただ悲しくて……体調を崩して死にかけました」
「ええ!?」
リュカが「本当ですよ」と怒った声音で言う。
「なにも喉が通らず、このままテオ様を想いながら死んでもいいと思っていたところにリュカ様がいらっしゃいました」
「…………」
「リュカ様は一緒にテオ様を叱りに行こうと言ってくれたんです。またテオ様に会えるのかと思ったら、死ぬわけにはいかないので、がんばって食事も摂り、先回りして中央に来ました」
クスリと笑ってから「テオ様に会えると思ったら、食事もおいしくて。中央料理もいいですね」と言った。
「本当はいろいろ言いたいこともあったのですけど、一目見たら、嬉しくて全て消えてしまいました」
全身全霊の愛情を受けとめきれず、テオドールは話題をそらすらすことにする。
「……家を飛び出してグスタフ様は大丈夫だったのか?」
「父は貴族令嬢の戦いに勝利してこいとおっしゃってました」
レイチェルは月明かりのように穏やかな微笑みを浮かべた。
「テオ様、私は負けません。必ずあなたの心を射止めてみせます」
もう既に射止められてるよ、と思ったが言わない。
言ったところで、今のテオドールにレイチェルを養える力は無かったし、そう簡単に受け入れるのは、ダメだと思った。
リュカにせよ、レイチェルにせよ、今の自分は彼女たちの想いに応えられる人間ではない。
「あ、レイママが恋しくなったら、すぐにでも……」
「ああああああああ!! それは言わないでっ!!!」
叫ぶテオドールを見て、レイチェルはいたずらをする子供のように笑った。
「お慕いしております、テオ様。また明日……」
「ああ、また明日……」
「いいですね、この言葉……また明日もテオ様に会えるんですから」
レイチェルの笑顔が綺麗すぎて、そんな美しい少女を傷つけてしまった罪悪感で死にたくなるテオドールだった。
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