第12話
両手両足を縛られ、担がれるようにして運ばれた。
ズタ袋を取られたルシアンは夜の森に転がされていた。月明かりを背に受けながら二つの影がルシアンを見下ろす。
ミハエルとシャルロットだった。
「シャル……まさか、俺に会いに?」
シャルロットは「なに言ってんの?」という顔をしていた。そんな二人を遮るようにミハエルが笑った。
「よお、随分、調子がいいみてえじゃねえか、ルシアン」
腹を蹴られ、呼吸が止まる。
「いや、ちょっ! なんすか? なんなんすか? ミハエルさん……」
「あのメスガキには世話になったからな。落とし前つけねえとよっ!」
また蹴られた。
「……シャル……助けて……くれ」
シャルロットは虫でも見るような目でため息をついた。反応すらしてくれない辺り、本気で興味が無いのだろう。ミハエルはあざけるように笑いながらシャルロットの肩を抱く。
「人の女に助け乞うんじゃねえよ、カス」
そのまま無造作にシャルロットの胸を揉みしだいていた。シャルロットも拒絶の意を見せずに受け入れている。これが寝取られというものなのだろうか。心と頭が破壊される音を聞いた気がした。
「……金なら払うので命だけは勘弁してください」
世界を遠くに感じながら無感情に言葉を並べる。今すぐ、この場から立ち去りたい。
「はっ! 安心しな、てめぇを始末したら報酬はもらう予定だ」
一瞬、なにを言っているのかわからなかった。
「最高に腐った親父みたいだな、ルシアン。自分の家から無神者が出たって事実が許せねぇらしいぜ。ウィル家の汚点だとよぉ! 元貴族様!」
笑いながら顔を蹴飛ばされ、目の前が白黒と明滅する。
(なるほど……まだ諦めてなかったか……あのクソ親父……)
ルシアンの実父は妻を愛し、息子を嫌悪していた。母が存命の頃から、ルシアンは父から命を狙われ、どうにか母によって生かされてきたのだ。絶縁した今もまだルシアンを憎んでいるらしい。
「もういい……」
全てどうでもいい。
神には愛されないし、好きになった人はクズに惚れてるし、父親からは命を狙われるし、不能になったし、頭のおかしい十二歳児につきまとわれている。自分の人生はいったいなんなのだろうか? と考えたら、むなしくなってきた。
「……殺せ。生きてるのが嫌になった」
「おいおい、ルシアン、萎えるようなこと、言うんじゃねえよ」
ミハエルはしゃがみこみ、ルシアンの髪の毛をつかんで持ち上げた。切れ長な目を炯々と輝かせながら歪んだ笑みを浮かべ、ルシアンを見つめる。
「てめぇは殺す。が、その前にあのメスガキを殺す」
「やめとけ。あいつはマジでおかしい。素手でドラゴンとか倒すんだぞ」
「てめぇに懐いてんだろ? だったらご主人様を盾にすりゃあガキは殺せる」
「俺に人質の価値なんて無い……」
「下がること言うんじゃねえよ、クソが」
腹を思い切り蹴り上げられ、勢いのまま仰向けに転がった。
「ぐっ……あいつは放っておけ……腹が立つなら俺だけ殺せ……殺せよっ!!」
「グチグチうるせえな」
不意にミハエルは剣を抜いた。脅しかなにかか? と構えた瞬間、なにも言わずにルシアンの左目を突いてきた。焼けるような痛みが左目に奔る。
「あぐあああああっ!」
「どうせくたばるなら目なんていらねえよな!!」
ミハエルは木陰へ視線を向けながら叫んだ。
「やめなさいっ!」
森の陰から、小さな影が現れる。両目に涙を浮かべたアムリだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます