第3話
ルシアンはアムリを連れて広場に来ていた。
休息日となると大道芸人や露店でにぎわう場所である。今日は平日であるため、人通りは少ないが、それでもいくつかの露天商が店を開いていた。
ルシアンは露店で肉串を二本と酒を買い、店舗の脇に置かれた椅子に座ってアムリと向かい合う。
露店で売っていた肉串をアムリは、いそいそと頬張っている。小動物のように丁寧に食む姿は、およそ浮浪児とは思えない品のある食べ方だった。
「何度聞いても理解できないんだが……」
アムリの略歴とルシアンとの関係性は、既に聞いている。だが、それを信じろと言われても難しかった。
「ですから、私は十五年後の未来から転生してきたのです」
と言うことらしい。
「ルシアン様は十年後に八勇者の一人に叙されます。<
そんな話を信じろというほうに無理がある。
「俺が勇者なんてありえない。しかも邪神とか、おとぎ話の存在だろ? 詐欺師として詰めが甘いぞ」
「ですから、私に騙す気なんてありません……」
少し元気を失っていた。
「私と出会うのは今から五年後になります。奴隷としてひどい目に遭っていたところを救っていただき、片腕のなかった私に新たな義手まで用意してくれました」
「両腕あるじゃん」
「はい。五体満足でルシアン様と出会えたこと、心の底から嬉しく思っています」
肉串を持ちながら朗らかに微笑んでいた。嘘をついているようには見えないが、自分に嘘を見抜く才能があるとも思えなかった。ルシアンはコップに入ったぬるい麦酒をあおる。
「……魔術の説明だって意味わかんないし」
「ですから式を立てるんです。太古の昔は魔術式という数式があり……」
「いや、それ、ほとんど禁忌の技術だろ? 他言しないほうがいいぞ」
七神教でも王神教でも禁じられている技術を<禁忌の技術>と呼ぶ。
禁忌の技術は神の御業であり、禁忌に触れる者は神の怒りに触れ、破滅する。例えば、禁忌の技術には<炸裂する粉>や<雷と磁石の支配>や<蒸気の制御機関>などがある。その禁忌を作成すると、近場のダンジョンから魔物が大挙してあふれ出し、街を飲み込むと言われていた。
そのため、禁忌の技術に触れる者は異端者として処刑されてしまう。
「人の身で扱う分には禁忌の技術は問題ありません。そもそも魔術の中には禁忌に触れているものもあるのです。それらの技術を装置に転換すると神の怒りに触れるだけです」
と言うことらしいが、危険であることは事実だ。
「まあ、ためにならん面白い話を聞けたよ。その肉串は報酬ってことで……」
「お待ちください、ルシアン様……」
立ち去ろうとしたところを引き留められた。
「このままではルシアン様は不幸になられます。私は……いいえ、私たちは、あなた様の妻として、そんな未来だけは避けたいのです」
真摯な目で見つめられたが、かすかに苛立ちを覚えた。
「不幸には慣れてる。やっぱり他を当たりな」
「いえ、これからもっと悪くなっていきます」
「円らな瞳で嫌なことを言うんじゃないよ……」
「まずは信じていた人に騙され、ツボを買わされます」
「いや、もう買わされたけども……」
「そうなのですか!?」
そんなに驚くことなのだろうか? と疑問に思った。既にギルド中の噂だ。
「ですが、まだルシアン様の御父様から暗殺者は放たれてませんよね?」
「え? 俺、親父に暗殺者放たれるの?」
ありうるから怖い。
「はい、その結果、ルシアン様は左目を失います」
だんだん不安になってきた。
「その後、奴隷の身分に堕とされ、左腕を失います」
「え? いや、え?」
「最終的には勇者でありながら、他の勇者や王侯貴族、教皇にも怖れられ、騙されたあげく、邪神と共に死んでしまいます」
「なんで!? いや、信じてるわけじゃないけどさ……」
「ルシアン様がお持ちの
なにを言っているんだ? と否定したいのに、次の言葉を待っている自分に気づいた。
「この世界や他者を憎み、恨み、拒絶することで強くなる特殊な
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