幼馴染に嫌いだと言われ、同級生に振られてしまった俺。しかし、やがて、後輩から熱い想いを伝えられ、先輩との距離も近づく。幼馴染も同級生も、このままでは間に合わない。恋、甘々でデレデレ、ラブラブな青春。

第14話 ツインテールの少女・激しいアプローチ

　でもやっぱり小由里ちゃんの顔が心に浮かんでくる。

　小由里ちゃんに完全に振られたならばともかく、可能性がある内は、彼女のことを一番に考えるべきだろう。

　でもここで断ったら、今度は居駒さんが傷つくことになってしまう。

　今までは考えもしなかったことだ。

　俺は今まで、自分が振られることはあっても、自分のことから振るなんてことは、全く頭の中になかった。

　俺の方に積極的にアプローチしてくる女性は、この世に存在しないとまでは言わないが、希少価値ではないか、と思っていたからである。

　自分がつらい目にあっているので、彼女を同じ目にはあわせたくはない。

　でも彼女がつらい思いをしない為には、彼女の想いを受け入れる必要がある。

　小由里ちゃんがいる以上、それもできない……。

　俺が黙っていると、

「先輩、どうしてそんなに悩んでいるんですか？」

　と言ってくる。

「わたし、まだまだ料理は下手ですけど、練習してうまくなります。そしたら、先輩のお昼の弁当も作ってあげますから」

　昼はパンと牛乳の毎日なので、それは助かるなあ。

　いや、いかん。彼女の好意に甘えてはいけない。

「ごめん。やっぱり俺、きみの好意は受けられない」

　そう言うと、彼女は、あっという間に悲しい顔になる。

「えーっ、わたしのこと嫌いになったんですか？　どこが嫌いになったんですか？」

　そういう顔を見るのはつらい。

「き、嫌いというか、そういう意味じゃなくて」

「じゃあ、好きってことですね」

　彼女の顔が明るくなり始める。すごい感情の変化だ。

「嫌いじゃないし、きみのこと、好意は持っている」

「うれしいです。じゃあ付き合いましょう」

　うーん、やっぱりちょっと強引な子だ。

「でも俺、どうしても小由里ちゃんのことを先に想い浮べてしまうんだ。こんな男と付き合っても続かないと思うけど」

　少し言い方を変えてみた。

「先輩、やっぱり優しいですね」

「そう思う？」

「だって今の言葉だって、わたしを傷つけたくないから言ってるんでしょ」

　この子、意外と思いやりがあるんだな。

「まあそれはあるな。きみにはもっとふさわしい人がいると思うし」

「全く先輩という人は……」

　彼女は、

「わたしにとって、ふさわしい人は、先輩以外には考えられません。わたしは先輩の為だったら何でもしてあげられるのに。どうしてわかってくれないんだろう」

　と言って、ちょっぴり寂しそうな顔になる。

「どうしても彼氏になってくれないんですか」

「ごめん。無理だ」

「これだけ先輩のことが好きなのに」

「そう言われると、申し訳ない気持ちになるけど」

「じゃあ、付き合ってくれますよね」

「それは、無理としかいえない」

「こんなに想いを伝えても無理なのですか」

　さすがに俺も疲れてくる。

　ここまで想ってくれているんだ。付き合ってもいいじゃないのか……。

　そういう気持ちも沸いてくる。

　でも俺にはやっぱり小由里ちゃんが……。

「きみの気持ちはわからなくはないんだ。でもやっぱり、きみと付き合う気にはなれない」

　そう言うと、また彼女は悲しい顔になる。

「ごめん。ちょっと言い過ぎた」

　彼女は少し黙っていたが、やがて、

「今日のところは、彼氏になってもらうのはあきらめます。でも今日のところは、です」

　とやや小さめの声で言った。

「どういう意味？」

「先輩に振り向いてもらえるよう、自分を磨いていきます」

「俺のことはともかく、自分を磨いていくのはいいことだと思う」

「そう言って下さってうれしいです」

　彼女はまた微笑み始めた。

「料理もうまくなって、お弁当を提供できるようになります」

「お弁当のことはいいから」

「いえ、きっと、おいしいお弁当を食べてもらいます！」

　やれやれ、言い出したら聞かないタイプでもあるようだ。

「わたし、絶対に先輩をあきらめません。何年かかっても、絶対先輩と結ばれます！」

　なんと言っていいのかわからなくなる。

　俺ってそこまで慕われる人間なのかなあ、とも思ってしまう。どう考えても彼女の幻想ではないか、という気もする。

　逆に、もし俺と付き合ったとしたら、たちまちの内に幻滅されるのではないか、という気さえもしてくる。

　まあでも。俺は俺だ。どう思われようと、俺の生き方を貫いていくしかない。幻滅されたら、されたらでしょうがない気がする。

　いや、俺は何を考えているのだろう。なんか。彼女と付き合っている姿を一瞬思い浮べてしまった。

　そうこうしている内に、もうあたりはすっかり暗くなってきた。

　彼女はまだ話をしていたかったようだが、そろそろ帰らなくてはいけない。

　彼女は別れ際、こう言った。

「今日は彼氏にできませんでしたけど、先輩といっぱい話ができたので、楽しかったです。ますます先輩のことが好きになりました。またよろしくお願いします」

　そして、

「先輩、だーい好きです」

　と言い、手を振って家路について行く。

　俺には、小由里ちゃんがいる。嫌われているとはいえ、やっぱり一番好きなのは彼女だ。

　でも居駒さんも魅力的だ。どうしても心が動かされてしまう。

　俺は彼女の去っていった方向を、しばらくの間眺めていた……。