第13話 ツインテールの少女・その想い

 恋のライバル……。


 俺とは全く縁のないものだと思っていた言葉。


 それを彼女は言っている。


 正気なのだろうか。


 あまりにも現実感がない。


 俺があっけにとられていると、


「あ、わたしのことライバルになるには、役不足だと思っていますね」


 と言って、ちょっと頬を膨らませる。


 な、なんだ、この表情は。ちょっとかわいいじゃないか。


 悔しいが、少しずつ彼女の魅力に染まっていく気がする。


 こんなことじゃいけない。


「いや、そうじゃなくて。そもそも俺は女の子のことには興味がないんだ」


 よし、これならいけそう。


 そう思ったんだが。


「じゃあ、先輩、男の子に興味があるんですか?」


 うん? なんか変な方向に入り始めたぞ。


「わたし、男の子どうしの恋愛も素敵だと思いますよ。もし先輩がそういうタイプでもわたしは嫌いになりませんから」


「い、いや、そうじゃなくて」


「両刀使い、っていうのもいいですよね」


 この子は、もしかするとボーイズラブすなわちBL好きの女の子、ということなのか?


「それで、どういうタイプの男の子が好きなんですか?」


「いや、だから別にタイプとかそういうのは」


「恥ずかしがらなくてもいいですよ」


 にやにやしながら聞いてくる彼女。


「恥ずかしがっているわけじゃないんだけど」


「もう、先輩たら、恥ずかしがり屋さんなんだから」


 この笑顔はいいなあ、吸い込まれそう。


 でもこうしているわけにもいかない。彼女に心をこれ以上動かされるわけにはいかない。


 俺は咳払いをすると、


「男の子が好きかどうかはともかく、話をもとに戻させてくれ」


 と言った。


「えーっ、先輩、これからがいいところなのに」


 なにがいいところなのか、さっぱりわからないのだが。


「俺はそもそも小由里ちゃんとは付き合っていない。だからそもそもライバルではないんだ」


「そ、そうなんですか?」


「俺は中学校の時、彼女を傷つけてしまった。『嫌い』とまで言われちゃったんだ。それ以来、話もまともにできないでいる」


「仲直りしたいとは思っていないんですか?」


「もちろん仲直りはしたいと思っているよ。でも機会がなくてね。それ以来、女の子のことは興味を持たないようにしてきたんだ。だから、きみのことも興味を持たないようにしょうと思っている。だから、俺のことはあきらめてくれ」


 これで彼女は、俺に興味を持たなくなるだろう。ちょっぴり残念な気がする。せっかく俺に好意を持ってくれているのに。


 でもしょうがない。俺には小由里ちゃんがいるんだ。たとえ今は嫌われているにしても。


 居駒さん、きみはその内いい人に出会えるだろう。今は少し悲しいかもしれないけど、すぐに俺のことなんか忘れるに違いない。


 そう思ったのだが……。


「先輩、かわいい」


「かわいい?」


 あまりに予想外の返事をされて、俺は戸惑う。


「だって、先輩、浜水先輩のこと好きなんでしょ」


「そ、そりや、そうだけど」


「仲直りしたと思っているだけじゃなくて、付き合いたいと思ってるんでしょ」


「う、うん。そ、そうなのかなあ」


「だったらやっぱりライバルじゃないですか」


「そ、そんなもんかなあ」


「だって、浜水先輩も、先輩のこと好きだと思います。同じ人を好きになる人どうし。ライバル以外の何物でもないと思います」


「いや、今は嫌われていると思うんだけど」


「それは表面上だけのことだと思います。きっとその内、先輩に対する恋心が燃え上がってきくると思っています」


「そうなればいいと思うんだけど」


 俺がそう言うと、彼女は、


「ですから、そうならない内に、わたしが先輩の彼女にならせていただきます」


 と真剣な表情で言う。


「いや、だから俺は女の子には興味がないって……」


「でも浜水先輩のことが、やっぱり好きなんでしょ」


「そ、そうだけど」


「じゃあ、やっぱり女の子に興味があるじゃないですか」


「彼女には興味があるけど、女の子全般という意味じゃ……」


「とにかく、今日これからはわたしの彼氏になってください」


「どうしてそうなるのかなあ」


 俺の心は揺れ動いていた。


 女性と付き合いたい、彼女がほしい、という気持ちは昨日から急激に盛り上がっていた。


 その意味では、絶好の機会だといえる。


 彼女は決して俺の嫌いなタイプではない。むしろ好みのタイプだ。


 ちょっと押しが強いところがあり、そこはあまり好きではないけど、一途な想い、ということで理解はできる。


 でも、これが俺の本当に望んでいたことなのだろうか、とも思う。


 誰とでもいいというわけじゃない。小由里ちゃんと彼女になることこそ、俺が望んできたことではなかったのか。


 ここで、彼女にOKを出したら、それが壊れてしまう。


 俺はコーヒーを飲んで、一息入れる。苦い。


「きみの好意はうれしいんだけど」


「じゃあ、OKということでいいですね」


「いや、普通そう言ったら、断る方向だろ」


「先輩がわたしの想いを拒むことなんて、考えられませんから」


「どこまでも楽観的なんだね」


「えへへ。わたしは先輩のものなんですから」


 そう言われると、彼女の想いに応えなきゃいけないような気分になってしまう。

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