第15話 幼い頃の思い出 (小由里サイド)
わたしは浜水小由里。高校二年生。
幼稚園の頃からの幼馴染がいる、
彼の名前は海島森海。森海ちゃんと呼んでいた。
幼稚園ではいつもずっと同じ組で、仲良くしていたことを思い出す。
家は隣どうししではなかったのだが、近所だったので、幼稚園から帰ってからもよく遊んだ。
恋、という言葉の意味はまだわからなかった。しかし、この頃から既に、なんとなく彼のことが好きになっていった。
優七郎くんも合わせて三人で一緒に遊んだりしていたが、好きになったのは森海ちゃんの方だった。
まあ、優七郎くん自体、最初からわたしのことに、ほとんど興味はなかったように思う。
森海ちゃんの方は、どう思っていたのかはわからない。
ただ、おままごとの世界ではあると思うのだが、
「森海ちゃん、大きくなったら絶対に結婚しようね」
とわたしが彼に言うと
「うん。ぼく、小由里ちゃんと結婚する」
と応えてくれた。
この時の彼がどういうつもりだったかはわからない。
結婚という言葉も、「男の子と女の子が仲良くする」、以上の意味はなかったのだろう。
いや、本当になんの考えもなくその言葉を使っていたのかもしれない。
ただ、わたしのことを少なくとも嫌いじゃなかったとは言えると思う。
それにしても、この言葉が今も生きていれば、いずれ彼とわたしは結婚することになると思うのだが……。
彼が覚えていないんじゃ、やっぱり無理な気はしてくる。
小学校も同じところに通うことになった。
そして、小学校一年生も彼と同じクラス。
幼いながらにうれしいと思った。
ちなみに優七郎くんとは、小学校一年生と二年生の時は同じクラスだったが、三年生と四年生の時は別クラス。
そして、相変わらず下校後は、二人でよく遊び、楽しい毎日。
二人でいるのが当たり前だと思っていた。こんな日々がずっと続くものだと思っていた。
今もそうなのだが、彼は、どちらかと言うと人と接するのが苦手な方で、仲良くしている男の子は数人程度、女の子はわたしだけ、という状態。
ただ彼はそんなことはあまり気にしていなかった。
趣味もどちらかといえばインドアタイプ。幼稚園の頃は、外で一緒に遊ぶことが多く、小学校一年生の頃までは、それが続いていましたが、次第に家で遊ぶことが多くなった。
彼はゲームが好き。わたしも結構好きな方なので、一緒にゲームをすることが小学校二年生以降は多くなっていった。
彼は、優しくて頼もしい人だと、もともと思っていた。それが彼のことを好きになった大きな理由になってくる。しかし、より一層彼のことが好きになることがあった。
小学校四年生の時。
わたしは、学校の学芸会で、クラスで行う劇の主役を演じることになった。しかし、それまで劇で主要な役になったことがなく、セリフの量も多いので、覚えるのが大変だった。
本当に主役はわたしでいいのかな、他に適任な人はいるのでは。
と思ったりもした。
そんな時、彼は、
「小由里ちゃん、心配しなくていい。俺が練習相手になってやる」
と言ってくれて、毎日、練習に付き合ってくれた。
わたし以外のセリフのところを言ってくれて、劇の全体像をつかむのに大きく役立ったし、わたしの演技について彼なりのアドバイスをしてくれた。
ぶっきらぼうなところが本来ある方。今回もそうなのかな、と思っていたが、この時は優しく対応してくれた。そして根気強く付き合ってくれて、とても助かった。
二人きりだったので、彼のことを少し意識していたりもした。
でも彼の方は全然そういう素振りがなかったので、ちょっぴり残念な気がした。
それにしても、これだけ的確なアドバイスができるんだったら、なぜ劇に参加しないのか、と思った。
彼は、練習でわたしの相手役をしている時も、演技がうまいように思えた。
わたしの相手役に推薦する人もいたのだが、
「ぼくは別にいいよ。もっと適役の人がいるはずだから」
と言って断った。ちなみに当時は俺じゃなくてぼくと言っていた。
惜しいよなあ、と言っている人が結構いた。
その後、
「森海ちゃんも劇に参加したらよかったのに」
とわたしは言ったが、
「ぼくは中に入って行動するのが苦手なタイプなんだよ」
といわれてしまった。
結局、劇では、主要な役にはならず、スタッフの役職につくこともなかった。
クラス全体の劇なので、劇の内容にほとんど関係ないような役はやっていた。
しかし、彼は自分がスタッフでないにも関わらず、頼りにされることになっていく。
学芸会の前日、トラブルがあり、舞台の設営関係が遅れて、このままでは間に合わないところまで来ていた。
森海ちゃんも手伝っていたが、その時は別の用事があって、ここにはいなかった。
「もうだめだ。明日は残念だけど、完全な形でやるのは無理だ」
というあきらめの声が充満し、既にみんなの手は止まっていた。
学級委員やスタッフの役割をした子たちも、その声に押されて、なすすべがないような状態。
すると、森海ちゃんが戻ってきた。
みんなのあきらめの声をしばらくは聞いていたが、
「みんな、ここまで来たんだ。後少しじゃないか」
と力強く言った。
みんなはびっくりした。普段そういうことを言うタイプじゃ全くなかったから。
「でももう無理だよ」
再びそういう声が充満し始めた。
しかし、彼は、
「なあに、なんとかなるものだと思うよ」
と言う、
「そんなこと言ってもなあ」
「ぼく一人でもやるよ」
そう言って、作業を一人で再開し始めた。
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