第9話 好きな女の子

 昼休み。


 昼飯はいつも優七郎と一緒。


 教室で他愛のない雑談をしながら食べている。


 昼飯、といってもパンと牛乳だけだが、それを食べ終えた後、


「ちょっと相談があるんだが」


 と、優七郎に改めて話しかけた。


「なんだ、相談って」


「校舎のはずれで話しをしたいんだけど、いい?」


「ああ、別に構わないけど」


 俺たちは、校舎のはずれの方に行った。


 ここならまわりに誰もいない。


「どうしたんだ。お前がここまで真剣な顔をしているのは初めて見たぞ」


 優七郎は、心配そうに俺の顔を見る。いつもは俺のことを茶化すことが多いのだが、今日は違う。


「具合でも悪いのか?」


「そういうわけじゃない」


「じゃあ、なんだ? 誰かにいじめられているとか?」


「いや、そういうことじゃない」


「新作ゲームがうまく攻略できないとか?」


「それはある。でもゲームは俺の方がうまいから、お前に相談してもしょうがないし」


「言ってくれるじゃないの」


 俺と違い、外で活動するのが好きな優七郎だが、ゲームも意外と好きで、俺とゲームをすることもある。


「それじゃ、なんだい? 想像もつかないんだけど」


「うーん。話しても笑わない?」


「それは約束できないな」


「そう言われると困っちゃうな」


「でも相談したいんだろう?」


「そうだな。恥ずかしいけど相談させてくれ」


 俺は深呼吸をする。


「お、俺さ、す、好きな人がいるんだ。そして、その子を彼女にしたいんだ」


「好きな人?」


 優七郎は笑い出した。


 恥ずかしくて、ここから走り出したい。


 そう思うが、まだなにも話が出来ていない。


「笑わないでくれ、って言ったのに」


「ごめんごめん」


 優七郎は手を振ると、


「で、相手は誰なんだい?」


 とまだ笑いながら言ってくる。


「お前も知っている、小由里ちゃんだよ」


「小由里ちゃん? ああ、お前と俺の幼馴染の」


「そうだよ」


「でも、お前って彼女と疎遠になってるじゃない。なんで急にそういう気になったの?」


 昨日の優七郎と鈴菜さんの、愛を語り合う姿を見てから、ということは恥ずかしくて、もちろん言えない。


「なんというか、やっぱり彼女っていいな、って急に思うようになったんだ」


「ふ-ん。でもお前ってさ、女性に興味がない、って言ってなかったっけ?」


 にやにやしながら言ってくる。


「い、いや、もともと興味がないわけじゃなかったんだけど」


「俺は、彼女なしでも生きていける、とも言ってなかったっけ」


「うーん、言ったかもしれない」


「それがようやく女の子に興味を持ち、彼女を作りたい、と思うようになったんだ。よかったんじゃないか」


「よかった?」


「そう。だって、女の子に興味を持つのは男の子としてあたり前だろう? そう思わないか?」


「そりゃそうかもしれないけど」


「お前もそういうところがちゃんとあってよかった。まあでも男の子が好きだとしてもそれもいいかもしれない。女の子にも男の子にも、どちらにも興味がないのが一番寂しいからな」


「そんなものかなあ」


「まあとにかくよかった。素晴らしいことだよ。女の子に興味を持つのは」


 と言って笑った。


 まあでも明るいやつだ。


 言っている内容はともかく、こちらの気持ちも明るくしてくれる気がする、


 優七郎は、ひとしきり笑った後、


「じゃあ、本題に入ろうか」


 とまたにやにやしながら言う。


「相談なんだから、これからはあまり笑わないでほしいんだけど」


「わかった、わかった」


 と言いながらも、にやにやが止まらないようだ。


 苦笑いをせざるをえないが、とにかく今は優七郎が頼りだ。


 俺は、今までの小由里ちゃんとの関係を理解してもらうところから始めた。


 のずなさんのことも密接に関係してくるので、振られたことを簡潔に話した。


「ふーん。そうか。お前もいろいろあったんだな。そんなに悩んだことがあったなんて思わなかったよ」


 先程と違い、だいぶまじめな顔になりつつある優七郎。


「お前ってそういうところ、人に見せなかったからなあ」


「まあ俺の問題だからな。一人で悩んでるしかないし」


「俺に当時相談してくれれば力になったかもしれないのによ」


「いいんだよ。そう言ってくれるだけでありがたい」


「まあでも、告白の経験があったとは。今まで想ってもみなかったよ」


「まあ振られた経験しかない男だけどよ」


「それで、今回の相談というのは、彼女にいきなり告白するかどうか迷っている、ということなのか」


「そういうことになる」


「内容は少し理解できてきた気がする」


「そうか。それはありがたい。だけど、今言ったように、俺って特に取柄がないし、彼女には嫌いって言われたままだし、今告白しても断られるだけだろうし……」


「うーん。お前さ、自分のことを根本的に理解していない気がするんだけど」


「自分のことを理解していない?」


「そうだよ。自分のことにもう少し自信を持たなきゃ」


「自信って言われてもね」


「じゃあ、まずお前のことから話すことにしよう」


「俺のこと?」


「そうだ。だけど続きは放課後にしよう。残念だとは思うだろうが」


「今日部活はないの?」


「もちろんある。だけど始まる前、少し時間があるから、お前に付き合ってやる」


 これからというところだが、もう授業が始まる五分前だ。


「あ、ありがとう」


 俺たちは教室へと戻っていった。

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