第5話 中学生の時の思い出・幼馴染との距離

 俺は小由里ちゃんに対して、恋というところまでは到達していなかったが、好意を持っていた。


 先程も、小由里ちゃんが俺に恋をしてくれるのを、ちょっとだけ期待をしていた。


 しかし、仲の良い幼馴染としての意識の方がはるかに強かった。だからこんなことを言えたんだと思うし、純粋に相談をすることができたんだと思う。


「全くあきれたことを言うんだから」


「違うの?」


「違うわ。付き合ったことなんかないわ。どうして、そういうわたしの嫌がることを言うの」


「いや、そんなつもりはないよ。小由里ちゃんなら、女の子とどう話していけば、告白がうまくいくか、教えてもらえるんじゃないか、と思ったんだよ。


「わたし、話を聞くのはもう嫌。そんな相談もうしないで」


 と言う。


「ごめん。でも俺、なんでそんなに嫌なのかわからない」


 俺がそう言うと、彼女は声を詰まらせて


「なんで、わたしの嫌がる理由がわからないの?」


 と言う。


「ごめん。わからないものはわからないんだよ」


「どうしてもわからないの?」


「わからないんだよ。だって、告白の仕方を聞いているだけだろう」


「だったらもういいわ」


 小由里ちゃんは涙を拭くと、


「森海くんのこと嫌い。大嫌い!」


 と言って、教室から走って出て行ってしまった。


 俺はなんで彼女に嫌いだと言われたのかがわからなかった。


 幼馴染で、信頼していて、いいアドバイスをしてくれそうだから、今日ここで話をしようとしていたのに……。


 期待を見事に打ち砕かれてしまった俺。


 俺に恋をしていないということを最初に聞き、その後で話をしたのに……。


 俺達は恋人どうしではなく、幼馴染どうし。恋人どうしなら、やきもちをやいて怒り出すのはわかるけど、そうでない俺になんで怒るのだろう。


 一番いいアドバイスがもらえると思ったから、相談をしたというのに……。


 なんで、なんで、こうなっちゃったんだろう……。


 しばし呆然とする。


 小由里ちゃんに嫌われてしまった。つらい……。


 しかし、やがて思い直した。


 アドバイスとか、そういうものはもういいや。とにかく告白しよう。それでいいや。


 これがきっかけで、逆に告白する力が湧いてきた気がするのだった。




 それから数日後。


 俺は、冷たい風が吹く屋上で、のずなさんに告白をした。


 ここに至るまでがまた長い道のりだった。


 告白する決意はついたものの、実際どのようにするのか、ということは何も決めていなかった。


 まずどうやって彼女を呼び出すか、である。


 一番目の案。


 朝のあいさつの後、さりげなく、


「今日の放課後、時間ある? ちょっと話があるんだけど」


 という感じで呼び出すのがいいのか。


 二番目の案。


 まだメアドやルインを聞いていないので、それらを聞き、その宛先に、


「今日の放課後、話をさせてください。お願いします」


 ということを書いて送るのがいいのか。


 三番目の案。


 いっそのことラブレターを渡し、思いをストレートに伝え、その後でその返事を聞くのがいいのか。


 今のところ、この三つの案があるが、どれを採用しようか、迷うところである。


 まず一番目の案。


 あいさつ自体は毎朝しているので、それにもう少し言葉を付け加えるだけだとは言える。ただ、そう言っても、その言葉は重い言葉だ。そう簡単に言えるものだろうか。

 現時点でも、この言葉を思うだけでも胸がドキドキしてしょうがない。


 本人を目の前にしているわけでもないのに、この状態では、言えるわけがないと思う。


 二番目の案。


 メアドやルインを聞くことは、他の人もやっているので、そこまで難しいことではなさそう。そして、それらの宛先に送信するのであれば、面と向かって話すよりはやりやすいかもしれない。


 しかし、それらを聞くこと自体、俺に出来るのか、という問題がある。


「メ、メ、メ」


 あるいは、


「ル、ル、ル」


 という感じで、「メアド」や「ルイン」という単語自体、胸がドキドキしていえないのではないか、と思う。


 それがもしできたとしても、次にくる宛先に送信をするということも大変だ。文章だけだと、かえって熱意が足りないと思われるかもしれない。


 そして、送信をするだけでも緊張して躊躇してしまう、ということは充分想像できる。


 三番目の案。


 ラブレターだが、そもそもどうやって書くのだろうか。


「好き」という単語を書くだけでも、恥ずかしくなり、顔が赤くなってしまう。

 面と向かって「好き」と言える自信が、今のところない俺にとっては、想いを伝える最良の手段ではあると思うのだが……。


 とはいっても、文章だけで想いが伝わるのかなあ、という思いもある。


 俺は思い悩んだが、結局一番目の案でいくことにした。


 メアドやルインをを聞くとか、ラブレターを書く方法もいいとは思うのだが、一方で想いを早く伝えたいという気持ちも強くなってきていて、それには一番目の案がよさそう、と思ったからである。


 ただその場で全部言うのは、難しかったので、二回に分けることにした。


 朝のあいさつをした後、一回、廊下に彼女を呼び出す。


 そこで、放課後会う約束を取り付けた後、告白する、というものである。


 俺は口上をスムーズに言えるよう、練習した。


 そして、その日がやってきた。


「厚田池さん、おはよう、ちょっとだけいい」


「うん? いいけど」


 のずなさんは、特に嫌がるそぶりもなく、俺と廊下へ行く。


 そして、すかさず、


「き、今日の放課後、時間ある? ちょっと話があるんだけど」


 と俺は彼女に言う。


 練習の成果があった。少しだけ詰まっちゃったけど。


 彼女はちょっと考えていたが、


「あまり時間ないけど、それでよければ」


 と言ってくれた。


 これは脈がありそう。


「じゃあ、放課後、屋上で」


 そう約束して、俺たちは教室へ戻る。


 よし、これで今日から彼女と俺は恋人どうしだ。楽しい毎日が始まるぞ。


 俺はそう固く信じていた……。

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