第4話 中学生の時の思い出・恋への長い道
好みの女の子に告白する夢。いい夢だった。
誰だろう、と思っていたのだが、時間をかけて思い出してみると、幼馴染の小由里ちゃんではないか、という気がしてきた。いや、多分そういう気がする。
ただ、キスをしたのはよかったのだが、それが長い時間続かなかったのは残念だ。
残念でたまらない。
そう言えば今日、姿を見かけたんだよなあ。
彼女は、この頃ますますかわいくなっていて、どんどん俺の好みになってきている。
それで、夢に出て来たのかもしれない。
今日、夢を見る前に、俺は急激に彼女がほしいと思う気持ちが強くなった。
彼女にしたい女の子ということであれば、小由里ちゃんのことを一番初めに思い浮べるところだし、そうでなければいけないだろう。
しかし、小由里ちゃんのことを思い浮べることには、抵抗があった。
俺は中学校二年生の時、彼女に嫌いだと言われた。
それ以降、彼女とは疎遠になっていたのだった……。
小由里ちゃんは幼馴染。幼稚園の頃から一緒だ。ということは、優七郎とも幼馴染ということになる。
幼い頃はいつも一緒に遊んだ。三人で遊んだことも結構ある。
彼女は、おしとやかで、いつも微笑んでいて優しい子だ。
ただ異性として意識することはなかったので、自然と少しずつ疎遠になり始めていく。
小学校四年生までは、学校から一緒に帰っていたが、小学校五年生以降はそういうこともなくなった。
中学校一年生になり、同じクラスになった。
これでまた。昔のように話すようになっていきたい。そして、仲良くしていきたい。
そう思っていたのだけど……。
最初は、話をすることもあったのだが、しだいに、彼女は俺と話すのを避けるようになった。気のせいではないと思う。
俺も話しかける努力はしたのだが、なかなかうまくいかない。
彼女は、俺のことを嫌いになったわけではないと思うのだが……。
彼女とますます疎遠になっていったのは、話をすることが難しくなったのが大きいと思う。
中学校二年生の十二月……。
俺は同じクラスの厚田池のずなさんに告白しようとしていた。
髪はさらっとしていて長め。顔立ちはキリッとしているが、かわらしさもある、といった俺好みの女の子だ。
彼女と今年同じクラスになった時から、好意を持っていた。
しかし、最初の内は、それ以上のものにはならなかった。
その頃、俺と小由里ちゃんとの仲は、ますます疎遠になっていた。
小由里ちゃんとの関係が、恋にまで発展していたら、のずなさんのことを恋してはいなかったと思う。
小由里ちゃんの男子生徒の間での人気は、どんどん高くなってきていて、告白する人も出てきているといううわさも流れてきていたので、いつかは誰かと付き合うだろうとは思っていた。
そして、別のクラスの男子生徒と付き合っているといううわさが流れた。
俺はそれを聞いた時、これだけ疎遠になっているのだからしょうがない、と思った。
でも心には寂しさがあった
俺達は幼馴染なのに、小由里ちゃんがどんどん遠くなっていくような気がした。
もう俺達は、親しい関係ではないんだ……。
それが、のずなさんに心が傾いていくきっかけになったのだと思う。
のずなさんと話す機会を経ていく内に、次第にそれは、「好き」だという感情に変わっていった。
のずなさんは、なんといっても笑顔がいい。俺と話をしている時も楽しそうに見えたので、だんだん俺のことが好きなのではないか、と思うようになってきた。
俺のうぬぼれ、と言ってしまえばそれまでなんだろうが、当時の俺は、彼女に好かれているのは間違いない、と思い込んでいたのだ。
こうして、俺が彼女との距離を縮めていったと思った頃。
なんと、彼女に同じクラスや同学年の男子生徒が、告白しだしているといううわさを聞いた。
これは一大事だと思った。
このままでは、彼女は他の男にとられてしまう。
他の男と付き合いをする前に、告白しなければ、という気持ちがだんだんと強くなってきた。
しかし、なかなかその決断はつかない。
告白してOKをもらえる自信がなかった。告白をした男が、今のところすべて撃沈しているという話を聞いたからである。
俺のことがだんだん好きになってきているから、後一押し、と思うのだが、一方で、それは単なる錯覚ではないか、という気持ちも沸いてくる。
そして、そう思ってくると、彼女にするのは無理ではないか、という気持ちにもなってくる。
そのことは、優七郎にも相談はできなかった。
今思えば、ここで相談しておけば、有益なアドバイスももらえたかもしれないのだが……。
ちなみに、優七郎はのずなさんには特に興味をしめしていなかった。
多分その頃から鈴菜さんのことを意識していたからだと思う。もう「好き」という段階に入っていたかもしれない。「恋」の段階に進んでいた可能性もある。
鈴菜さんの方はどういう風に思っているかはわからなかったが、彼女の方も優七郎のことを少なくとも意識していたと思う。
まもなくクリスマスや正月がくる。
二人でその時期を過ごす為には、それまでには告白しておく必要があった。
断られる可能性が強いとは言っても、可能性がないわけではない。そのわずかの可能性にかける必要がある。でもまだ心は決まらない。
俺は小由里ちゃんに相談をすることにした。
最近は、話すこともまれになっていた。
そういう状況なので、普通のおしゃべりをすることすら難しい状況だった。
しかし、相談するとしたら、幼馴染の彼女しかいない。
なんとか俺は彼女に話をして、彼女に話しをする時間を作ってもらった。
誰もいなくなった放課後の教室。
「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」
「うん? どうしたの。めずらしいわね」
彼女は微笑んでいた。
その時までは。
「まず念の為聞くけど、俺のこと、恋していたりしてはいないよね」
隣のクラスの男子生徒とうわさになるくらいなので、まず俺に恋してはいないとは思った。
しかし、もし小由里ちゃんが俺に恋をしていたら相談はできないので、俺はそう小由里ちゃんに聞いた。
幼馴染だから、そういうことを聞くことができたというところはあると思う。
小由里ちゃんは、少しの間黙っていたが、
「そ、そんなことはない。森海くんは、仲の良い幼馴染だけど恋はしていない」
と小さい声で言った。
ちょっと残念な気持ちがした。
俺はのずなさんに恋しているのに、小由里ちゃんが俺に恋をしてくれるのをどこかで期待していたところはあった。
もしここで小由里ちゃんが俺に恋している、と言ったらどうなっていただろう。
そうなれば、のずなさんへの告白はしなかったと思う。
小由里ちゃんは幼馴染。俺への想いがあるのなら、それは何よりも優先すべきだろう。
でも彼女に、恋していないとはっきり言われたのだ。
恋人どうしではなく、ただの幼馴染。
これで、のずなさんのことをこれで相談することができる。
残念な気持ちはあるが、頼りがいのある幼馴染として接していこう。
そして、俺は、
「俺、厚田池さんのことが好きで、今度彼女に告白しようと思うんだけど、迷っているんだ」
と小由里ちゃんに言った。
その言葉を聞いた途端、彼女はちょっと悲し気な顔をした。
当時の俺は、なんでそんな顔をするのか、全くわからなかったのだけど。
「なんでそんなことわたしに聞くの」
「いや、だって、小由里ちゃん、同じ女の子だし、いいアドバイスがもらえるんじゃないか、と思って」
「わたしじゃなきゃだめなの?」
「だって、長年の付き合いだし、頼もしいから、小由里ちゃんに話すんだよ」
俺がそう言うと、彼女は更に悲し気な表情になっていく。
「他のこととは違うわ。恋愛のことだもの。恋愛のことなんか、わたしにはわからないわ」
「そこをなんとか。小由里ちゃんだったら、恋愛のことも知っているかと思って」
そう言うと、彼女は涙目になる。
「森海ちゃん、どうしてそういうことをわたしに言うの」
彼女は俺に恋をしていないと言った。それなのにどうして涙目になっているのだろう。
「だって、小由里ちゃん。頼りになるから」
「そういうことじゃない」
「そう言わずにお願い」
「もう、お願いじゃないわよ。わたし、今まで恋なんかしたことないのよ」
「小由里ちゃん、男子に人気だから、俺の知らないところで付き合っていたことがあるのかなあ、って思っていたんだ」
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