第3話 恋への道
今までの二人を、中学校からずっと見ていた俺には、全く信じられない世界だ。
しかも、
「優七郎くん、好き」
「俺も鈴菜ちゃんのことが好きだ」
という甘い言葉が聞こえてくるものだから、いったいどうなっているんだ、という気になる。
いつもは、
「なんでもっとしっかりしないの!」
「俺はゆったりした生き方がするのが好きだ。ほっといてくれ」
「あたしのこと、聞いているの! いつもあたしの言うことをきいてないんだから」
といったとげとげしいやり取りをしている二人なのに。
俺は夢でも見ているのでは、と思い、腕をつねる。
が、痛い。やはり夢ではない。
二人はキスを終えると、肩を寄せ合って、グラウンドを眺めている。自分たちの世界に入っているようだ。
うーん、なんというか。
あれほどいつもけんかしている二人が、愛を語り合っているのを見ると、なんとなくふき出したい気持ちにもなる。
しかし、一方で、親友が彼女と仲良くしているんだ、おめでとうと言いたいけど、うらやましい気持ちもある。いや、うらやましい。
複雑な気分になる。
優七郎、俺はお前も彼女がいなくて、俺の仲間だと思っていたのに。お前だけは信じていたのに……。
彼女が出来て、付き合っていくというのが理想であるならば、優七郎は今、その理想の道を進もうとしている、それならば、祝ってあげるのが親友というもののはずなんだが……。
いざ先を越されて見ると、素直に祝うことは難しいものだと思う。
もちろん、鈴菜さんのことを恋愛の対象としてみたことはない。
美少女だとは思うが、性格的に苦手なところがある。それに、いずれ優七郎と付き合うんだろう、ということは思わないではなかった。
ただいつもけんかをしているところしか見ていなかったので、そうなるとしてもずっと先のことだと思っていた。
もしくは、その内、お互いに好きな人が現れて、いつの間にか疎遠になるのでは、とも思っていた。
それが今日のこの姿だ。
先を越されたのが悔しいわけじゃない。悔しくない。いや、やっぱりちょっぴり悔しい。
いずれにしても、うらやましい、あこがれてしまう、という気持ちはどうしても心の中で暴れまわってくる。
そして、
俺も彼女がほしい!
という気持ちが湧き出し始めた。
それほどさっきの光景は衝撃的だった。
彼女がいれば、ああいう甘々なことができるんだ、と思うと、心が沸騰してくる気がしてくる。
とはいえ、今日、このまま学校にいても、どうにもならないのは俺も理解はしている。
仕方がない。明日以降、なんとかしなければ。
俺はその場を離れ、家路につくことにした。
家に帰っても、心の中は、「彼女を作りたい」という思いがどんどん強くなる一方。
しかし……。
俺はまだ女の子と付き合ったことはない。
もちろん俺も男の子だから、今までも彼女が欲しいという気持ちはなくはなかった。あこがれもないわけじゃなかった。
では、今からでもいいから、彼女を作ったらどうか、と言うだろう。
俺にも彼女を作ろうと努力した時期はあった。
しかし、俺には心の傷がある。その為、今までは、女の子のことはなるべく考えないようにしてきた。
俺はもともと、それほど女の子に興味があったわけではなかった。中学校一年生の時までは。もちろん興味がなかったわけではない。かわいい子がいれば、心が動かないことはなかったが、彼女を作りたいということまでは思わなかった。
しかし、中学校二年生の時、厚田池(あつたいけ)なずなさんに出会ってから、大きく変わった。
彼女のことが次第に好きになってきたのである。
そして、告白した。
結果は、ものの見事に撃沈。
それ以降、俺は恋というものに対するあこがれは持たないようにした。
優七郎との会話でも、女の子に関する話題はなるべくしないようにした。
告白に失敗したことは、心の傷としては残ってはいるものの、その努力の甲斐あってて、高校一年生の三学期になる頃には、別に彼女なんていなくたっていいや、と思うようになってきた。
もちろん彼女が出来るものだったら、その方がいいのだが、出来ないならそれでいいや、と割り切れるようになったということだ。
そして、このままいけば、恋人がいなくても生きていけるかもしれない、とつい数時間前までは思っていたのだが……。
今日あの二人を見て、せっかく築き上げてきたものが、無残にも打ち砕かれてしまった。
うらやましい。俺も彼女がほしい。あんな風にイチャイチャしたい、キスしたい、という気持ちが急速に膨れ上がってくる。
とにかく彼女を作りたい。彼女がほしい。ほしくてたまらない。
そう思うのだが……。
では誰に告白すべきか、という最大の問題が出て来た。
誰にでも、片っ端からするわけにもいかない。やはり少なくとも好意を持った女の子にすべきだろう。
クラスや同学年に何人かは、好意を持っている人はいる。
しかし、好意を持ったぐらいで、突撃しても、撃沈するだけだろう。熱意がこもらない告白を受けても、相手からしたら、「何を言ってるの、この人は」ということになってしまうことは、容易に想像できる。
俺の方も相手の子のことが、「好きで、好きでたまらない」状態にならなければ、告白はうまくいかなくなってしまうに違いない。
なんといっても、俺は一回告白に失敗している身だ。
誰かいないかなあ……。
そう思っていると、眠くなってきたので、そのまま眠りに入っていった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます