第32話 19日目 2022年6月1日 (水)
6月になった。
手術から一ヶ月過ぎた明日は外来である。先生に聞いておきたいことを幾つかまとめておく。薬のこと、痛みのこと、腫瘍マーカーの様子、呼吸の訓練のこと、腸瘻の継続が必要なのか、あるいは外せるのか、等など
朝ご飯は海苔の佃煮と味噌汁の簡素な物。体温は36.0℃、血圧は106/68で脈拍は63と正常。朝ご飯を食べ終え、ベッドに横たわる前に聴くべきクラッシック音楽を渉猟する。
手に取ったのはベートーベンの7番交響曲をマタチッチがNHK響を振った盤である。7番には名演奏が多い。名演奏が多い曲は名曲である。そしてこのマタチッチの7番はNHK響の中でも五本の指に入る名演だと思う。テンポは速いがどこも踏み外していない、まるでペガサスが天空を駆けるさまをほうふつとさせる演奏はクライバーやカラヤンと肩を並べる名演奏の一つだ。もしも指揮者になれるなら、この曲の第四楽章をこんな風に振ってみたいもんだ。
NHK交響楽団が1984年時点でこのレベルに達しているというのはすごいことだと思う。ただ世界の一流かと言われればまだその域に達する余地と伸びしろがある。例えばウィーンフィルとかベルリンフィルとかは時折、指揮者がいなくてもいいんじゃないと思わせるけど、NHK響はやっぱり指揮者が必要で、そして指揮者の力量でものすごく演奏のレベルが変わる楽団である。
とはいえマタチッチにしてもサバリッシュにしてもスィットナーにしても或いはブロムシュテットにしても、NHK響は指揮者の解釈を忠実に音にする素晴らしい才能を持っており、指揮者も振っていて気持ちの良い楽団と思う。
指揮者で言えば北欧、旧東欧・中欧系の指揮者と相性が抜群に良い。日曜日の夜、時々、演奏をチェックしているがパーボ・ヤルヴィという北欧系の指揮者の後任にファビオ・ルイージというスーパーマリオ系・・・ではなくてイタリア系の指揮者を首席指揮者として据えることになるのが吉となるのか凶と出るのか気になる。今まであまりなかった選択だからねぇ。
NHK響は例えばロンドン交響楽団とかボストンやシカゴとか、それと同じレベルにはあると思うが、ウィーンフィルとベルリンフィルは世界中のオーケストラにとって高い壁だ。
本当かどうかはしらないけど、カールシューリヒトという指揮者がウィーンフィルを指揮してモーツアルトの交響曲を演奏した時、タクトを間違って4拍子ではなく8拍子の速さで降り始めたら、楽団員がそのスピードのまま弾き続け、半分の時間で演奏が終わったという嘘みたいな話を聞いたことがある。でも・・・ウィーンフィルならあるかもしれない、と思わせる何かがある。
そうしたストレスの負荷に耐えうることこそが能力の一つなんだと思う。物でも、使い始めは同じでありながら、一年、二年と経ってくるにつれて、そのものの本質が分かってくるものである
*ベートーヴェン 交響曲第7番 イ長調 作品92・交響曲第2番 ニ長調 作品36
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 NHK交響楽団
DENON 33CO-1002
昼ご飯は焼きうどん。簡単だし、消化に良い。五反田周辺を散策する。五反田方面は坂がなくて歩きやすい。目黒川沿いを歩いて行けばそのまま東京湾に出る。以前、自転車に乗っていた頃はよく自転車で東京湾まででかけたものだが、さすがに徒歩で行くには遠すぎて、せいぜい北品川の旧東海道あたりまで・・・江戸時代にはそこから品川沖が望めたはずなんだけれど。
夜の体温は35.8℃。血圧は121/74と少し高め。脈拍は58。夕食はチャプチェと高野豆腐に枝豆をつけた。枝豆げ市場に出回ると夏がもうすぐ、と思う。
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