第19話 6日目 2022年5月19日 (木)

 自分の咳で目が覚めた。時計を見ればちょうど0時。昨夜寝たのは11時ちょっと前だから寝始めてから一時間しかたっていない。寝ながら咳をすると背中が痛む。起きるのもやはり一苦労だ。

 それでもしかたなく起きてうがいをする。やはり何か喉に閊えている。どうも昨晩デザートに食べたブドウが悪さをしているらしい。普段なら皮ごと食べるチリ産のブドウをわざわざ皮をむいて食したのだが・・・。とにかくうがいをするとベッドに戻る。起き上がるのもだが、寝るのも一苦労である。結局、2時半と4時に目が覚め、4時に起き出した。寝るとどうも背中が痛いのだが起きているとそれほど感じないからである。

 痛みが比較的強くあるのでもしかしたら熱があるかと思ったら、体温は35.8°血圧は128/78脈拍は77と割と平常である。


 テレビは給付金の誤振り込み話の話で盛り上がっている。本来なら家庭に配るべき一軒あたり10万円の給付金が一人の男に振り込まれてしまい、その男が4360万円の金を返却しないという前代未聞の話である。山口県の阿武町という町での出来事で、くだらない事件のおかげで全国にその名が広まってしまったらしい。この話を聞いて日本というのは本当にいろいろな意味で衰えたしまったなぁと感じた。

 フロッピーをいまだに使っているとかそんなのは実はどうでもいい些末さまつな話でネットを使っても同じようなミスは起こりうる。

 そもそも①町の職員がミスをした(余計な伝票を書いたらしい)②上司がそれを見逃した(余計な伝票を書くことを想定していないから見逃した)③銀行がそれをそのまま処理した④振り込まれた金を使ってしまったという経緯である。「素晴らしい日本」なら、①~④の少なくともどこかで、(本来ならすべてで)ロックがかかる筈なのにその全てでロックがかからなかった、という事実がそこにある。この男が本当に金を使いきったかは別として、とにもかくにも責はこの男が100%負うべき話である。そんなミスがなければこんな犯罪はしなかっただろうなどという同情のような話は噴飯物で、そもそもこの男はその何にしろ人の金をちょろまかすような程度の男であって同情の余地など欠片もない。断罪すべきである。

 しかしながら、こんな初歩的なミスが何段階も見逃されるというのは社会システムの劣化に他ならない。職員のミスを仕方ないと許すわけではないが、問題は②と③である。そもそもチェックというのは様々な想定外の事態も含めてチェックをするのが本質で、想定外のことがあったから見逃しましたなんてチェックはチェックになっていない。そんな言い訳が許されると思っていることが不可解である。金融機関が言われるがままに一つの口座に振り込んでしまったというのも不思議な話である。それは処理としては言われた通りの処理であるが、その処理がどんな結果をもたらすのか処理をした人間が分からないというのが不可解である。銀行にもその送金をチェックする仕組みが存在したならそのチェックも含めて不可解な話だ。

 そんな不可解なことを平然と擁護しているのが今の日本の劣化そのものである。僕ならそんな行政の街からは引っ越すし、そんな銀行は二度と使わない。当たり前の話である。

 もう一つは知床半島で悪天候をついて出航した観覧船が沈没したという話である。これもひどい経営者とひどい船長の話であるが(もちろん経営者の方が罪は100倍重いと感じる、そもそもそんなことができない経営者が経営をするという事が罪なのである)どうも、国交省のチェックもおざなりだったらしい。無線も機能しておらず沈んだ場所も時間も良く分からないというのは一義的には会社の責任だが、そんな会社を放置しておく行政の問題である。

 要はチェックとは何なんだ、ということなのだ。かつて海外でのオペレーションをやった経験からすると世界的にはチェックには二つの系統がある。今の流れで行くとヨーロッパは、基本的に自己申告を重視してまずはそれをベースにするが、チェックが入りもしチェックで不正が見つかると結構徹底的にやられる。チェックは事故が起こってからという事ではなく、様々な手段(その中には告発も入っている)が使われるようだ。それに比べてアメリカは最初のハードルが結構高い。

 そうしたチェックの仕組みを日本の企業は往々にして「非関税的障壁」ではないか、というような態度で臨む。しかし、チェックの仕組みには会社として学ぶべきスタンダードが結構ある。もうちょっとちゃんとグローバルスタンダードを勉強するべきだと思うし、こういうことが起きるたびに「性善説」に基づいた仕組みとかいう愚かしいコメントを言うのは止めてほしい。性善説なんていうのはチェックとは真反対の発想で、そもそも性善説とは社会の箍を緩める言い訳に使うような代物ではない。人間の本質は何かという議論である。

 なんてちょっと熱くなっちゃうね。だが、日本をよくしたいなら現状を肯定してはいけない。少なくとも問題が発生したならその問題を繰り返してはいけない。問題が発生することよりも、繰り返されることの方が社会にとって問題である。

と、思いながら昼食にはそばを食べる。


 蛍光灯が切れてしまったので天気も晴れだし、昨日考えていた通り大井町まで行ってついでに介護用ベッドを見てこようと思った。介護用というと足腰が立たない人向けのベッドという趣があってちょっと聞こえが悪いが体がこうなってしまうと背に腹は代えられない。

 山手通りをゆっくりと五反田まで歩いてそこから大崎の駅の近くを通って区役所通りへと抜けていく。以前はここにソニーの工場があり、良く交渉に行ったものだ。今もソニーのビルがあるがだいぶ景色は変わった。

 区役所の近くのナチュラルローソンでスポーツ飲料を買い、喉を湿らせてから大井町の駅まで歩く。やはり足取りはかなり重い。正直言ってきつい。帰りは電車に乗って帰ろう・・・、そう思いながら量販店に入る。

 この量販店は比較的良く使う方であるが近年、家電量販店からの脱皮を図っているようで家具屋と提携し、なんだか家の設備を売ったりして、色々と藻掻いているみたい。結局家電量販と言うのは「安売り」を軸に急速に発展はできるが発展した先の儲けはあまりないらしく、その点スーパーと同じようなものらしい。

 ベッドはパラマウントだけではなく、フランスベッドやシモンズなども売っていたが、たった二週間お世話になっただけではあるがやはりパラマウントにしようかなぁ、と思ってしまう。こういう効果というのは馬鹿にならない。昔PC周辺の機器の販売や医療機器の販売をしたときにいわゆる学生向けの販売というのを何度か挑戦したことがあって、儲けはでるどころか原価の回収も難しいのだが、そうした学生の何割かはやはり使い慣れたものを買うもので、「損して得を取る」ことはやはりあるのである。

 学生のときに実習用として使用したメーカーのものに対するロイヤルティは極めて高いという調査結果を得て、以前医療機器メーカーに勤めていた際に新規製品について学生向けのプログラムを作り将来数十年の事業の基礎を作ろうかと思った矢先、その製品の開発を突如中断してしまったので馬鹿馬鹿しくなって会社を辞めた。もともとそんなに長く勤めるつもりもなかったが、中小企業でもいいものを作りきちんと体制を整えれば世界に打って出られると思って協力してきた。売掛金の回収、ISOのスタンダード作り、中国での(きわめて厄介な)医療機器承認など一定の成果を上げつつあったが、腰砕けする経営者と一緒に仕事をしてもいいことはない。

 ということで・・・?

 僅か二週間の使用でパラマウントにしようと決める。店員に話を聞いて、高さ調整のない1∔1モーターのシングルという一番安いのにしようと心に決めたが一度家に持ち帰ることにする。ベッドのサイズが部屋に合うかどうかも見極めなければならない。狭いところに住んでいるとこういう時は不便である。

 32/30の蛍光灯のセットを買う。パナソニック製でわざわざ日本製と打ってある。それは結構なのだが、今年の初め突然ドラム式洗濯機が故障したときに同じ店で買おうとすると殆どが中国製であった。わずかに日立のものが日本製だったがサイズが合わないのでしかたなしにシャープの中国製を買うことにしたけど、ドラム式洗濯機は安いとはいえ10万円を超える。なぜ2000円もしない蛍光灯を日本で作り、ドラム式洗濯機のような付加価値の高いものが日本で作れなくなったのか・・・日本のメーカーはよく考えなければならない。蛍光灯に日本製と銘を打って喜んでいる場合じゃないのである。


 帰る前に久しぶりにハンバーガーを食べた。550円のセットメニューで頼んだが飲み物の量が多すぎる。とはいえ、昔はそんなことは考えたこともない。ということはこれは明らかにこちらの問題であって、ハンバーガー屋さんというのは若者やファミリー層がターゲットなのであると改めて実感した。周りを見ても子供連れの母親とか、若者が多い。安いコーヒーショップで老人が屯しているのと若干景色が異なる。そういえば昔、マクドナルドで100円バーガーとか出していたことがあってその時はたくさんの老人がマクドナルドにいたような気がする。しかし・・・ハンバーガーと老人は似合わないのかもしれない。

 ハンバーガーを食べたせいか元気が戻り、結局帰りも歩くことにした。結果として久しぶりに手術前と同じくらいの歩数を歩いた。14864歩。だが手術前にはなんともなかったこの歩数がとてもつらい。大井町への行きはともかく、帰りは時折ガードレールやベンチに腰を下ろして休まざるを得なかった。寄りの体温は35.8℃、血圧は112/60、脈拍は88と高い。

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