第8話
佐々木玲奈が死んでから多くの生徒が命を落としていった。このときの死者数は私(清水颯太)が死んだときよりも遥かに多かった。私は思っていた以上に思った通りに事が運び喜ぶのと同時にたった1ヶ月ちょっとしか時間が無かったとはいえただの生徒会長の死の効果が自分の死よりも大きかった事に悔しさを感じていた。
彼女が死んでからしばらくすると部下から再び電話がかかってきた。
「ボス、今すぐ来て下さい。依頼者があなたに会いたいと言っています。」受話器越しに部下が言った。
「分かった。今すぐ行くよ。」そう言い残して、私はすぐに事務所に向かった。
事務所に着くと加藤が待ち遠しそうに貧乏揺すりをしながら待っていた。
「アポ無しで突然来るとは最近の若い子は礼儀がなってないね。少しは私の気持ちを考えてみたまえ。」私は後ろから彼に言った。
私の発言で私に気づくと彼は怒りの感情をむき出しにして私に不満をぶつけた。
「人の気持ちを考えていないのはあなたの方でしょ!僕の友達の命を奪っておいて!」
「なるほど、彼も死んだのか?」
「今更とぼけるんですか?こうなる可能性をあなたなら予想できたでしょう?どうして止めなかったんですか?」
「だって、依頼のときに一言も言ってなかったじゃないか?友達が死なないようにしてくれなんて?」
「ふざけるな!」彼は荒げた口調で言い放ってから私に殴りかかろうとしてきた。
彼の拳が私の頬に届く前に私の部下が彼の腕をつかんで押さえつけた。
「まぁまぁ、そんなに怒るなって。むしろ誇るべきだ。彼は学校の評判を落とすという君の願望を文字通り命を賭して叶えんとしてくれた。素晴らしい友じゃないか?」私は彼に言った。
「どうしてそんな態度が取れるんだ!人の大切なものを奪っておいて…謝れ!」
私の発言を聞いて彼は部下の押さえている腕をふりほどこうと全力を出したように見えたが、とても普通の高校生の力でふりほどける押さえ方ではなかった。私を殴り飛ばしたいという気持ちとそれができない自分の無力さからか彼の目からは涙が溢れ出していた。
あの時なぜ私は彼の怒りの業火に油を注ぐような発言をしたのか今となっては思い出せない。自分(清水颯太)が死んだ時点で死ぬと思っていた小川健太が佐々木玲奈の訃報を聞くまで死ななかった事に対してのやり場のない怒りを発散しようとしていたのか、はたまた考えたくはないがもしかしたら、私はあの時本当に心の底から思っていた事を口にしただけなのかもしれない。
「いいか?私は依頼を遂行するために尽力した。もし依頼が遂行できていないと分かったなら私にまた文句を言いに来い。だが、もし依頼が遂行できているのであれば今回の件で私は君に文句を言われる筋合いはないし、君に謝る必要はない。分かったら今すぐ帰れ。我々はもう君にようはない。」
私は部下に手を離すように首で合図した。これ以上抵抗しても無駄だと思ったのか、彼は涙を流しながら事務所から去った。しばらくして私も事務所を後にした。
数日後、何気なく新聞を手にとって見ると、見出しに大きく「○○高校で自殺者続出」と書かれていた。私はそれを見て一人で笑みを浮かべていた。今思い出してみてもひどい話だ。だが、自分でも本当に愚かだと思うが、この事件が終わった後も私は依頼者の目的を達成できればいいと言う考えをすぐに捨てはしなかった。ある人の「死」が私の心を動かすまでは。
殺され屋 ひなみ おおがい @Hinami-Oogai
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