第3話

転校してから一ヶ月が経過した。あの後も私は人望を集めるよう努めた。

(そろそろ学校ってのも飽きてきたし、次のフェーズに行きたいな。とはいえ、今計画を次の段階に移してもきっと上手くいかない。やるならもっと他の生徒からの人望が必要だ。)

そんな事を考えながら歩いていると、とある女子生徒とぶつかった。

「あ、すみません。急いでて。」

「ハンカチ落としましたよ。気をつけて下さいね。」

私は笑顔で優しく伝えた。するとその様子を横で見ていた加藤が言った。

「いやぁ、いつ見ても可愛いな、玲奈さんは。きっと急いでいたのも生徒会の仕事が忙しいからだろうなぁ。」

「あの子が生徒会の役員か?」私は尋ねた。

「彼女は佐々木玲奈さん。ウチの学校の生徒会長で才色兼備って感じの女性だよ。男子からも女子からも凄い人気なんだ。」

加藤がそう答えたのを聞いて私は良いことを思いついた。

「君の依頼を達成するためにはあの子を味方に付ける必要がある。協力してくれるね?」

「もちろん協力するよ。何をすればいい?」

「とりあえず、あの子の情報がもっと欲しい。何か知っていることは無いか?」

「うーん、僕は彼女の友達でも無いし、特別な事は知らないけど…強いて言うなら彼女は吹奏楽部の部員だよ。」

「なるほど、分かった。」

「それだけで大丈夫なの?」

「また必要になったら訊くよ。」

「分かった。」

家に帰り私は作戦を練った。とは言っても私の場合であれば彼女ともう少し話す機会があれば彼女から好かれることはおそらく簡単だろうと考えていたので、たいした作戦など立てていなかった。

 翌日、私は佐々木玲奈の様子をうかがっていた。加藤からの情報は期待出来そうになかったので自分で集めることにしたのだ。彼女を観察していると思わぬチャンスが訪れた。部活が終わった後、彼女は同じ吹奏楽部の子達と帰っていた。そこにはちょうど前日に休んでいた私(清水颯太)の友達がいたのだ。なるべく多くの人と友好関係を築いてきた事がここでも生きてきた。この機会を逃すわけにはいかないと思った私はその子に話しかけにいった。

「昨日休んでいた分のノートよかったら使って。分からないこととかあったら、全然訊いてくれていいから。多少は役に立てると思うし。」

「あ、ありがとう。わざわざごめんね。」

「いやいや、気にしないで友達なんだし。」

そんな会話をしていると、佐々木玲奈が会話に割って入ってきた。

「あ、君ってこの間の。」

「へぇ、覚えててくれたんだ。」

「この間はごめんね。」

「気にしないで。玲奈さんは生徒会長だし、忙しかったんでしょ?」

「本当ごめんね。」

「いやぁ、凄いよね。生徒会長の激務をこなしながら成績も優秀で。もし分からなかったら訊いてっていつも友達には言ってるけど、玲奈さんに俺が教える事なんてきっと無いよね。」

私は彼女と会話を交わしながらどれほど彼女からの人望が得られたか試す実験兼さらに好感度を上げられるように話を持って行った。

「そんなことないよ。テストでたまたま出来てるだけだし、もし分からなかったら頼っていい?」

「もちろん、いつでも訊いて。」

連絡先を交換し、私は彼女たちと別れた。その日の夜、早速彼女から連絡が来た。勉強の質問だった。私は丁寧に答えた。その後、彼女は勉強とは関係ない話をし始めた。他愛もない会話を交わしていくうちに、私は彼女はすでに私の’話術’で落ちた事を実感した。

(これで充分だろう。)

私は計画を次のフェーズに移すことにした。

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