第2話
「今回は依頼金が決して多くはない。故にあまり派手なことは出来ないな。」
「そうですね。情報屋に頼る訳にもいきませんし、どうしましょう?」
「今回は私が直接学校に潜入しよう。ちょうどいい人がいたと思うけど。」
「確か依頼してきた少年と同じ年齢の男が一人いましたね。」
「ちょうどいい。よし、じゃあ来週の月曜から潜入開始だ。」
「了解しました。手配しておきます。」
私は部下と話し合い、依頼者の学校に直接乗り込む事にした。高校生になりきって登校というのも私が想像していた楽しみの一つだった。私は今までに無い経験に心を躍らせていた。
ついに登校の日が来た。学校へ着くと担任の先生に教室まで案内された。
「清水くんだよね。噂は聞いてるよ。転入試験満点だったんだってぇ?すごいね。」
「いえいえ、運が良かっただけですよ。」
他愛もない話をしながら歩いていると教室に着いた。
「みんな、席について。転校生を紹介するわ。」
先生がみんなに伝えた。
「皆様はじめまして。清水颯太と申します。よろしくお願いします。」
私は例の’話術’を使って本気で落としにかかった。とはいえ、私の力は大勢の人間に対して一方的に話すときは効果が薄い。それ故、ここで全員を落とすのは無理だった。
(とりあえず、悪い印象は与えてないだろうし、よしとするか。それに本番はこれからだし。)
私は心のなかでつぶやいた。
「依頼者の加藤伸行君だね?俺が分かるかい?」私は依頼者の席まで言って小声で話しかけた。
「えっ、もしかして、『殺され屋』さんですか?」
「ここでは清水颯太と呼んでくれ。」
「分かりました。いやぁ、それにしても驚きましたよ。まさか僕と同じ学校に来るなんて。」
「潜入して見てやってるのさ。君のいうひどい仕打ちっていうのはどんなものなのかをね。」
「わざわざありがとうございます。」
「いいよ、礼なんて。面白そうだったし。」
ーそれに本当は依頼を受けた時点で君がどんな仕打ちを受けていようが、知ったこっちゃない。ー
「ん?何か言いましたか?」
「いや、なんでもない。そんなことより、俺に学校を案内してくれないか?来たばかりでよく分からないんだ。」
「分かりました。昼休憩に案内します。」そう言い残して、彼は自分の席に戻った。
「この問題を…転校生、お前分かるか?」先生が私に訊いた。
「-2<a<4です。」
「正解だ。随分と速かったが答えを見たんじゃないだろうな?」
「そんなまさか、ただの二次不等式を解くだけの問題にそんなに時間いりませんよ。」
「その通りだな。いいか問題を難しく考えるな。ここはこうやって…」
(少しずつでいい、確実にみんなからの人望を手に入れる。そうしなければ、試したいことが試せない。)
ようやくつまらない授業が終わった。高校の内容なんて私にとって難しい事はない。授業が終わった後も気を抜かず、姿勢を正して教科書に目を通していると、加藤が先生の元に近寄っていった。
「先生、この問題が分からないので教えていただけませんか?」
「すまんな、先生は忙しいからまた今度な。」先生はそう言い残して教室からさっそうと出て行った。
すると加藤が私の元へ来た。
「あんな感じでいっつも何もおしえてくれないんです。」加藤が言った。
(なるほど、これだけじゃ一概には言えないが彼があまりこの環境に満足していないのはよく分かった。)
「問題を見せてみろ。」私は加藤に言った。
「え?あぁはい。これです。」
「なるほどな確かにこれは難しい問題だ。先生が解けなくても無理はないかもな。」
私はわざと他の人にもわずかに聞こえそうなボリュームで言った。
「まぁでも、俺なら解けるよ。これはまず平方完成して、つぎにaについて場合分けをしてでもこの場合分けをするときに注意が必要で…」
休み時間を使って私は彼に解き方を教えた。
「なるほど。分かりました。ありがとうございます!」
(君が感謝しているかどうかなどしごくどうでもいいが、人望は必要だからね。利用させてもらったよ)
その後の授業でも当てられるたびに先生の予想を上回る解答をし、自分は優秀な人間だと周囲にアピールした。
そうして、昼休憩になった。クラスのみんなは弁当を持ってきているようだが、私は知らなかったため弁当など持ってきていなかった。どうしようかと困っていると加藤が近寄ってきた。
「一緒に昼ご飯食べましょうよ。」
「あいにく、俺は弁当を持ってきて居なくてね。」
「あぁ、そうなんですね。じゃあ僕の分すこし分けてあげますよ。」
「いや大丈夫だ。」
「遠慮しないで下さいよ。僕、助けられてばかりだから少しでも力になりたいんです。」
「遠慮などではない。俺は自分のつくった料理しか食べない。気持ちだけ受け取っておくよ。」
言った途端少し無理があったかなと思った。だが、案外そうでもなかった。
「あぁそうだったんですね。分かりました。すみません、僕だけ食べてしまって。」
「気を遣わなくていい。それと敬語をやめてくれないか。学校の中だけでもいいから。さすがに同級生に敬語を使うのは目立つ。」
「そうですね…あ、そうだね。分かった。」
喋っていると一人の男が近寄ってきた。
「おーい伸行、お前もう転校生と友達になったのか。早いな。」
「まぁね。あ、紹介するよ。こいつは僕の友達の健太。」
「小川健太でーす。よろしく。」
「清水颯太です。よろしく。」
「いやぁ、転校初日からすごいね、君。先生に当てられても焦らずに答えられてたし、それに伸行の分からなかった問題まで解いちまうなんて。」
「勉強を教えるのは好きだから。もし、健太君も分からないことがあったらきいていいよ。俺でよければ相談に乗るし。」
「ありがとう。おれ本当勉強ダメだから助かるよ〜。」
一通りしゃべり終えると昼休憩が終わった。
その後は特に音沙汰無く一日が終了した。
(とりあえず、さいさきのいいスタートを切れたかな。中々無い機会だし、明日からも楽しんでいくか。)
私は心の中で意気込んだ。
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