第5話
「私は死んでいた。」なんてバカなことを言ってしまったが、実際には私は死んではいない。死体は当然偽物だが、ちゃんと警察も欺けるようにしている。別の死体を使って。それも、自殺した人のもので警察が見つける前に私たちが回収したものだ。日本の警察は優秀だから、ちゃんとごまかせるようにしている。私はその日から神谷の前から姿を消した。当然だ。死んだのだから。そして彼女の愛した私(正確には私ではないのかもしれないが)を殺した容疑者は彼女の恋人。さらに言えば警察は動機が分からず、手をこまねいていたが、彼女の中でははっきりしていた。そう、私と浮気していたことだ。中山は私を浮気相手だからという理由で殺したと彼女は思っている。だが、実際には中山は何も知らない。ここから先は私も完璧な予測は出来ない。だが、彼女が抱く感情を察するに、おそらくこのまま私が何もしなかったとしても復讐は完了するだろう。
それから彼女たちは滅多に会わなくなった。それもそのはずで中山は容疑者として留置場に入れられ、神谷は自分の彼氏が人殺しと言われていることへのショックからか、はたまた私が死んだと言う事実を受け入れられていないのか、ずっと家に引きこもっていた。しばらくして証拠不十分で中山は釈放された。もちろん、これも私の計画通りだ。彼が殺したわけではないが一見彼が殺したかのように見せるというのに中々苦労したよ。これで彼は社会的には人殺しではなくなった。だが、全ての人間にとって彼が人殺しでなくなった訳ではない。冷静さを欠いた人間が法が出した結論に賛同するほど普通で居られるはずがない。彼が殺してないとするのならば、他に誰が殺したのか分からない、すなわち誰を恨めばいいかが分からない。そう思うぐらいなら、裁きを下した人間も科学も全てを信じずに彼が殺したと思う方がマシだ。やり場のない怒りに苛まれるくらいなら、誰かを恨んでいたい。誰かを憎んでいたい。神谷はそう思っていただろう。ここまだったら私もきっと情報に頼らずとも想定できた。だが、彼女が彼に殺意を覚えていたことはおそらく情報がなければ推測することはできなかっただろう。彼女が一度恋人を殺そうとしたことがあるという情報がなければ。
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