第3話

 その日はいつもより少しだけ早く起きた。今から向かう場所に適した格好をして私は目的地に向かった。向かった先はボルダリングジムだ。そこで私はある女性を見つけて、ここで間違いないと安心した。そう、その女性とは今回のターゲット(名前は中山純太)の愛人である。とりあえず、私はボルダリングを楽しんだ、というよりも自分の実力を彼女に見せびらかした。男の愛人の名は神谷恵といい、よく趣味でこのボルダリングジムに来るらしい。彼女が登り終えて降りてきたタイミングを見計らって私は彼女に話しかけた。「少し腕に力を入れすぎてますね。それだと長くは続けられませんよ。もっと足に頼った登り方をしてみてはどうですか?」そう言うと彼女は不審がりながらも「なるほど。」とだけ言って再び登り始めた。疑うような様子もあったが、私が登っている姿を見ていたのもあってか、実際に私のアドバイスに従って登っていた。すると、どうやらさっきまでよりもだいぶ楽に登れたらしく、再び私の所へ戻ってきた。「ありがとうございました。凄く登りやすかったです。」彼女は私に対してそう言った。「いえいえ、たいしたアドバイスはしていませんよ。あなたの筋が良かったのでしょう。登れるようになると楽しいですよね。」私は彼女に微笑みながら伝えた。(第一ミッションクリアかな)私は心の中でそうつぶやいた。「あ、あの、もし良かったら今後もアドバイスとかしてもらえますか?」そう聞いてくる彼女を見て私は自分の勘が当たったことに喜んだのと同時に安心した。「いいですよ。」と言うと「ありがとうございます。あの連絡先を聞いてもいいですか?」そう聞いてくる彼女を見てますます私は嬉しくなった。それは当然彼女の連絡先がもらえたからではなく、自分の力で相手を操ることが出来たからである。私には特別な能力があるわけではないが、他の人と違う点があるとすれば、私が意識して喋った相手はかなりの確率で老若男女問わず私を好きになる。女性の場合は異性として魅力的に思われ、男性からは信頼される。これには声色という生まれ持っての才能も必要だが、それ以上に自身の声色からどの声のトーン、話の間の取り方、相手に対しての視線や、話し方がいいかなどを研究し訓練をつむ必要がある。私はこの仕事をするために様々なことを身につけてきた。ボルダリングもその一つである。連絡先を交換し、私はしばらくしてからその日は帰った。それから、彼女がボルダリングジムに行くときは連絡してくるようになり、私もそのスケジュールにある程度合わせて通っていた。そうして時間が経っていくうちに、趣味だけの友達という関係がだんだんと時間を掛けて変化していった。二人で食事に行ったり、映画を見に行ったりするようになった。そんな時間を過ごすうちに彼女はますます私の事を好きになっていった。(そろそろ頃合いかな)そう思った私はこのつまらない浮気ごっこに終止符を打つ決意をした。

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