第4話

 興味津々と言った様子だな、これ。

 昼休み、ようやくまとまった時間が取れるということで、陽貴のことが好きな3人が弁当を持ってやって来た。

 陽貴は今、購買に行っている。


 午前中はずっとそわそわしていたが、その度に陽貴に絡みに行くと反応が面白かった。男だと告げてなおあの反応、これからもまだまだ楽しめそうだ。


 他のクラスメイトも雑談はしているが耳を傾けている。


 弁当を広げながら俺は言う。


「聞きたいことがたくさんありそうだな。答えられる範囲で答えるよん」

「はいはい! あたしからいい?」

「もちろん」

「墨夜くんはどうして女子の制服着てるの?」


 鶴海が前のめりに聞いて来た。いきなり直球だ。


「好きだから。これの方が俺には似合うから」

「確かに良く似合ってる。あたしたちよりも似合ってるかも」

「鶴海さんたちだってかわいいじゃん」


 お世辞などではなく、本心からそう思う。まあ、俺の方がかわいいけど。


「でも、学校から許可が降りたね」

「鑓水さん、実はこの学校の制服には女子用とか男子用とかの記載はないんだよ」

「え、そうなの?」

「屁理屈だけどそう言う感じで押し切ったんだ」

「す、すごいね」


 まあ、少し問題もあったから少々交渉はしたけれど、それは今は言わなくてもいいか。そのうち察しが着くだろうし。


 鶴海が菓子パンを食べながら言う。


「でも、それなら男子の制服というか、ズボンも欲しかったかも。パンツスタイルで着こなせそうじゃん」

「六花ちゃん身長高いから似合いそうだね」

「鶴海は様になりそうだ。俺は似合わないからなぁ、あまり。制服だと特にな」


 身長の低い俺が制服のズボンを履くと、子供感が強くなりすぎてしまう。


「まあ流石にお金がもったいないけどね!」

「でもこの学校、割とかわいい制服だから良くないか?」

「だよねー! あたし、この学校選んだのそれもあるもん」

「六花ちゃん……」

「えー、女子にとっては重要じゃん」


 会話も盛り上がっているなか、黙々と食べ続け、小さい弁当箱を空にした依田が、口を拭きながら呟いた。


「2人とも、大事なこと聞き忘れてる」

「あ、そうだった。ごめんごめん」

「そうだったね。ありがとう椿ちゃん」


 どうやら事前に3人で話し合いをしていたらしい。

 代表して、鑓水が意を決して様子で口を開く。


「答えたくなかったらいいんだけど」


 その声は小声だった。


「墨夜くんは、陽貴くんのことが好きなの? その、恋愛的な意味で」

「……」


 俺は思わず固まってしまった。まあ、そりゃそうか。あんな風にしてたらそう思われても仕方ないけど。


「いーや。俺の恋愛対象は女の子だよ。だから陽貴に恋愛感情は一ミリもない」


 俺がそう答えると3人は安心した様子で肩を下ろした。


「まあ、陽貴はどうか知らないけど」

「え」


 陽貴も女の子の方が好きだと思うけどな。しかし、毎回面白いなこの人たち。


「いやー、ぎりぎり買えた」


 購買から陽貴が戻って来た。


「は、陽貴!」

「あ、はい。どうした六花?」

「陽貴は、墨夜くんのことが好きなの?」


 あれ、その質問の仕方だと、陽貴は勘違いをしてもおかしくないが。


「え? まあ、そりゃね」

「そ、そんなぁ……」

「え、何その反応……?」


 何のことだかわかっていなさそうな陽貴は、鶴海の反応に首を傾げながら椅子に座った。


「なあ、結」

「陽貴くん……」

「椿——」

「……」

「さっきからいったいなんなんだ!?」


 続く2人の反応に陽貴は目を白黒させた。

 なんか、俺が手を加えるまでもなく面白くなっていくなこいつら。


 そろそろフォローでも入れておくか、と思っていたら思いもやらぬ方向に話が転がり始める。


「でもおかしいなぁ。陽貴、あたしの胸見てる時あるんだけど」

「そうだよね。私もだよ六花ちゃん」

「私は足だけど」


 なんか、陽貴の性癖暴露大会が始まりそうなんだけど。


「え、ちょ、なんで俺急に言葉のナイフ突き立てられてるの?」

「陽貴……お前、男子高校生として仕方ないかもしれないけど、もう少し気をつけろよ」

「ぐっ、ぬぬぬぅ」


 まあでも、手を出したりなんてことはしていないだろうしいいんだけど。そこで何かしていたら、教育の時間が必要になるところだった。


「……というか、恋。このおかしな状況、どうせ恋の仕業だろ?」

「いや、そうでもないと思うけど。まあ、フォローしようとしたらなんか話が広がっていってたから」

「できればその前になんとかして欲しかったんだけど」


 疲れた様子の陽貴にわかりやすく言う。


「要するに、さっきの鶴海の質問は、お前が俺を恋愛的な意味で好きかっていう質問だったんだよ」

「はあ?」

 

 間の抜けた声を出す陽貴。

 俺たちの会話を聞いていた鑓水が、まさか、といった様子で聞く。


「陽貴くん、もしかして質問の意図を理解してなかったの?」

「確かに俺は恋のことは好きだけど、それは親友としてってことだからな!?」

「なんだー。紛らわしいよ陽貴ー」

「こっちの台詞なんだけどなぁ」

「いつもの陽貴でしょ」


 いつもこんなことしてるのか陽貴。


 誤解も解けたところで、ようやく落ち着いて昼ごはんを食べられた。でもやっぱり、クラスメイトの視線はなくならない。俺、という話題になる存在がいるのもあるけど、鑓水と鶴海と依田、3人が目を引くほどの美少女だからというのもあるだろう。


 そんな3人が陽貴のことを好きだとは。だから、男だと明かし、陽貴の思いも聞いた後だというのに、警戒心がまだある。本当に、俺は陽貴なんかのヒロインをやるつもりはないというのに。


 昼飯を食べ終えた陽貴がトイレに席を立ったタイミングで、俺は3人に向かってにこりと笑った。


「君たち、まだ俺のこと警戒しているだろ」


 3人の顔を見渡す。図星、と言った反応が揃って返って来た。


「だから、1つ提案させて欲しいんだけど」

「「「提案?」」」


 彼女たちにとってメリットがあるのは当然、俺にとってもメリットのある提案だ。

 俺は満を持して言い放つ。


「俺が、君たちと陽貴が仲良くなる手伝いをしてあげるよ」


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