十二歳の小学一年生
それから六年が過ぎ、
だが彼女は、これまで一切、学校に通ってこなかった。通わせてもらえなかった。だからカリキュラムを一コマたりともこなしていなかった。それ故、年齢は十二歳だが、一年生扱いで学校に通うことになった。
つまり、彼女が小学校を卒業するのはたとえ順調に過ごせたとしても十七歳ということになり、中学を卒業するのも早くても二十歳の時ということになる。こればかりは飛び級制度などがない以上はいかんともしがたかった。
もっとも、そんな制度があったところで、彼女の学習能力が果たしてそれを可能にしたかどうかは疑問だが。
なぜ彼女がこの年齢になるまで学校に通えなかったのかは後程また語るとして、彼女の命さえ奪いかけた両親による育児放棄は彼女の脳に深刻なダメージを与えていた。過度の栄養不足により脳が委縮。その上、適切な治療も措置も受けられなかったことで、知能も、未就学児にさえ及ばないかもしれないという状況だった。
それでも、学校には通わなければいけない。
この直前に彼女の保護責任者となった人物は、彼女を学校に通わせることには躊躇いもなかった。彼女が学校のカリキュラムについて行けるかどうかさえ興味を持たないような人物だった。ただ通わせなければいけないと言われるからそうするだけだった。
そんな山下沙奈の保護責任者となった人物の名は、
彼の人形には、とにかく熱狂的なファンがついていた。それはもはや信仰と言っていいかもしれない。特に、彼の人形の目が、人々を惹きつけるのだそうだ。
深淵からこちらを覗き込んでいるかのような、魂を鷲掴みにされるかのような、恐ろしく、美しく、狂気に満ちた、とても人形のそれとは思えない目が。
そして、山下沙奈は、まるで彼の人形そのものが動き出したかのような少女だった。闇の向こうからこちらの世界を覗き込んでいるとしか思えない、憎悪や嫉妬や怨嗟といったあらゆる負の感情を捻じ込んで何も引かずに煮詰めた上で発酵させたかのような、恐ろしい目をした少女だった。人ぐらい、眉一つ動かさずに殺せそうにさえ見える。
神河内良久が彼女を引き取った理由の一つが、そこにあったのかもしれない。自らの人形作りの参考にする為に。
事実、彼女と共に暮らし始めて以降の彼の人形は、更に凄みを増したと評判になっていったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます