へカ向ニ争戦

「じきに立つ。おっ母、行ってくるよ。」

「あぁ慶次、何であんたが、何であんたが乗らなあかへんねん、何で死ななあかんねん」


おっ母は俺の手を握りながら泣いている。

俺は、俺が生まれた時から女手一つで育ててくれた親へ恩返しすら出来ないまま天皇陛下にこの命を捧げアメ公を殺すのみ。


「慶次さんっ、彩湖の事は任せてね、」

「あぁ、ありがとう」

「何でっ、慶次さんが、慶次さんがぁぁぁぁ

後数日あればっ彩湖に会えたのに」

妻の君恵は悲しんでいる。

そのお腹にはあと少しで生まれる俺たちの娘がいた。

しかし俺は絶対死ぬと分かっている。

死ぬ為に戦場へ向かうのだ。

もう諦めた。


「ならば俺が死んだら鳥になって会いに来こう、すまない、すまないっ」


ピィーという汽笛がなり汽車は動き出す。

それは生者を黄泉の国へ運ぶ三途の渡し舟の様に。


「おっ母、君恵、今までっ、ありがとう!」


俺は佐藤慶次。3年の訓練を経て戦争に召集され、人間兵器桜花の搭乗員、特攻隊に配属された悲しい兵士の一人だ。


俺はこのまま汽車で訓練場まで向かう。

その途中たまたま俺と同じ桜花の搭乗員に話しかけられた。

「なぁ、お前さん。お前さんも桜花の搭乗員か。おっと、ここ座らせてもらうぜ。」

「あぁ、来週に桜花に搭乗する佐藤上等兵だ

よろしく。」

「俺は5日後に搭乗する坂上上等兵だ。5日だけの付き合いになるがよろしく頼む。」


俺達は固く握手をする。

彼の顔はヘラヘラと笑っていながらもその影には既に覚悟を決めた顔がそこにはあった。


坂上上等兵は外の景色を見ながら呟く。


「何でこうなっちまったんだろうな。」

「アメ公は爆撃を辞めねぇし大東亜共栄圏もおしまいだな。」

「満州を傀儡国にするだけではなく。英国、米国、欧州にまで手を出そうだなんてアホらしい話よなぁ。」


その後は妻の話をしたりしているうちに坂上上等兵とはとても仲良くなれた。

どうせどちらも死ぬのならそれまでは仲良くしたいものだしな。

そして目標の駅に止まる。

その後少し歩き目標の空軍基地に到着する。


そしてそこに配属されている兵士が迎えにきて来れた。

「よく来た兵士よ。私達は君達桜花の搭乗員を敵の戦艦まで運ぶ部隊だ。

ここにいるのは右から順に紀野上等兵、鞍馬上等兵、上島上等兵、私が隊長の小賀少尉だ。」

「5日後に桜花に搭乗する。坂上上等兵。」

「来週に桜花に搭乗する。佐藤上等兵だ。」

「よろしく頼む。」


その日の夜に食堂の人達は豪華な料理を作ってくれた。

「たんと、お食べ。まだやり残した事もいっぱいあるじゃろう。これでちょっとでも満足してくれたら良いんだけどなぁ。」


おばちゃん達が腕によりをかけた料理はとても美味しかった。でも、もう君恵の作った料理を食べる事はできない。


「ありがとう、とても美味しいよ。」

「あらやだ褒めちゃって、煽てても何も出ないわよ!」


おばちゃんのお陰でしんみりした空気が少し楽しい雰囲気になった。


「何で桜花何てもの作ったんじゃろうな。」

「爆撃弾だけだと精度が圧倒的に落ちる。

だから、人間にやらせらるんや、」


そう言った小賀少尉は震えていた。

「わしは20人近くの桜花の搭乗員を運んできた。神風なんかも吹くわけないっちゅーに。もう、この国は終わりなんじゃ。」


その言葉を最後に誰も喋らなくなった。


俺は手紙書いて、おばちゃんに遺書としてこれを最後の日まで預かってもらうようにした

「分かった。確かにおまんさんから受け取ったよ。」

「あぁ、頼みました。」


そして、5日が過ぎた。

「佐藤、俺は最後にお前に会えて良かったよ。昨日ピカドンが落とされて何万人も死んだ。この戦争は歴史に残る。俺は戦死者の中の一人として名を刻んでやるよ。来世で、また友になろう。」


そう言って船に笑って乗った彼に手を振る。


「坂上!やっぱ後で一杯やろうぜ!」


彼は笑った。俺も必死に笑った。

それが俺達の最後の会話となった。


そしてその30分後に坂上の最後のモースル信号が届いた。


1945年8月7日午前11時48分快晴、

俺は泣きながらそれを聞き取る。おばちゃんも一緒に聞いているが分からないようなので俺が声に出して伝える。


桜花発射。敵艦マデ3000、2000、1000、

我敵艦ニ突撃セリ。3、2、1、ピーーー。


そこでモースル信号は途切れた。

すると別のモールス信号に切り替わった。

敵艦ニ直撃。敵艦船体穴ガ開キジキニ沈没ス11時49分坂上軍曹殉職。


そこで終わった。俺は涙が止まらなかった。

たった5日だけの関係だった。

それ以上を国は許さなかった。

何でこんなにも悲しみしか産まない兵器を作ったのか意味が分からなかった。


その後彼らは帰ってきた。

「見事だったよ。正しく男の、最後の生き様だった。」


それだけ言うと彼らは去っていった。

俺は気づいていた。彼らの顔を涙の跡がある事を、俺は坂上の死によって死にたくない、そう強く思うようになった。

しかし、時間は俺の事を待ってはくれなかった。

最後のご飯は乾パン一つ。

「それだけでいいのかい?」

「どうせ死ぬ人間が食ったら無駄ですし」

「そんな、偉い子だなぁ。」


そう言ってぎゅっと手を握ってもらう。


「そうだ、俺死んだら夜に鳥になってそこの扉をつつきに行きます。その鳥に手紙をくくりつけてくださいよ。俺自身で妻に、娘に会って参ります。」

「そうかい、なら待っておくよ。」


俺は運ぶ空挺に乗る。

「覚悟は出来たな。」

「あぁ!任せろ!」


20分ぐらいした頃

「敵艦発見!距離は4000m!」

俺は急いで桜花に乗り込む。

「佐藤上等兵、これ以降はモースルでしか聞けない。最後に言い残す事は?」

「じゃあ頼みがある。俺が死んだ後俺の娘が元気か見にいってくれ。それで俺にも教えてくれ。」

「分かった!その言葉しかと受け取った!」

「桜花発射!」


バシュという音と共に俺の桜花は完全に切り離された。もう生きるという選択肢は無い。

俺はモースル信号に書き込む


1945年8月10日曇リ、敵艦マデ2000m。

最後に俺は書き残す。

今マデアリガトウ。サヨウナラ。

敵の戦艦の目の前で最後の文を送り切る。

我、敵艦ニ突撃セリ。ピィィィィプッ


そして俺の命は消えた。


その夜。

コンコンと音が鳴って「はーい」と返事して扉に向かう。

「どなた?」

しかし反応はない。だが扉を開けると小さな鳥が立っていた。

「まぁ、貴方まさか本当に帰ってきたの?佐藤くん。約束通りはい。」

そう言って私はその鳥に手紙をくくりつける


「いってらっしゃい!」

その鳥は強く羽ばたいていった。


「あぁ佐藤さん」

愛する夫の佐藤さんがお昼に死んだと電報が入り悲しんでいると急にコンコンと扉が鳴った。


「どちら?」

しかし、音のなった方は窓であった。

よく見ると、そこには小さな鳥が立っていた。朝には何かをくくりつけられていた。


「ふふ、伝書鳩みたいね。」

私はそれをとり、宛名を見る。

「私宛じゃないのどれどれ?」

そこにはこう書いてあった。


君恵、彩湖はもう生まれてるのかな。

俺は君ともっと一緒に生きたかった。でももう無理なんだ。この手紙は俺が鳥になって届けに来るはずだ。お願いだ。俺に彩湖を見せてくれないか?


「佐藤さん!佐藤さんなの?ほら!彩湖は元気に産まれましたよ!」


それを見ると満足そうに鳥は去っていった。

もう大丈夫だ、そう思ったのかも知れない。


そしてその5日後、戦争は終結した。

彼らは今でも人の記憶の中に生きている。

今や戦争を知るものは殆ど居ない。

彼らと同じ人間をもう出さない為にも

この悲しみを子孫に体験させないためにも、

平和を守る事が大切だ。



引用 

著 小賀翔太郎 私が送った22人の神風達

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