第14話 GRANT


  ※※※※


 去年。四月。

 森山凛乃は両親の飲み物に睡眠薬を混ぜてから、頃合いを見て自宅に火を放った。

 そうして逃げ出したあと、しばらく都内に隠れていた。身元確認をスキップする安価なネットカフェで眠り続け、持ち出した両親の金で飢えをしのぎながら情報を確認する。

 そして、いつまでも寝泊まりしている彼女を店員が不審がったタイミングで別の街に移動した。

 既に自分のやったことは、練馬区一家殺人事件として報道されていた。ただ、自分は容疑者ではなく、行方不明になった被害者夫婦の一人娘、という扱いだった。

「私がやったのにな――」

 そう思いながら毛布にくるまった。

 次第にネットカフェの受け付け時点で怪しまれるようになると、今度は廃ビルに寝袋を敷いて過ごすようになった。ミネラルウォーターを買い込んで、部屋の隅で体を洗う。

 お金も少しずつ底を尽きていく。やばい、と思った。

『家出少女です。16歳。泊めてくれる男性を募集しています』

 パクったスマートフォンでSNSにそんな投稿をすると、DMを解放して待つ。本当に体を売る気はない。いざとなったら、刃物で脅して金品を奪ってしまえばいいと思っていた。

 案外、返信はすぐに来た。

 ただ、奇妙な文章だった。

『今の名前も記憶も捨てて、新しい自分になりたいと思うことはない?』

 それが、のちに「お兄様」と呼ぶことになる瀧千秋とのファーストコンタクトだった。

 

 下北沢の一部屋に招かれると、そこには長身に眼鏡をかけた爽やかそうな男だけではなく、自分と同い年らしい二人の少女が待ち構えていた。

 森山凛乃は、その二人に見覚えがあった。

 一人目は雨宮時子。彼女は二年前に起きた世田谷区刺殺事件の容疑者だった。

 報道によれば、雨宮時子はカルト宗教にのめり込んだ母親によって教団幹部に差し出されて性的暴行を受け、数日後、母親と教団幹部の両名を刃物で殺害して逃亡。現在に至るまで行方不明である。

 二人目は里中聖歌。去年起きた豊島区一家惨殺事件の生死不詳の一人娘である。

 あとで聞いたところ、彼女は脳に先天性の障害があり、状況にかかわらず大声で笑い出してしまう特殊体質の持ち主だという。母親の無関心のなかで酒浸りの父親に「笑うな」と殴られ続け、ある日、ハンマーで両親の頭蓋骨を殴打して逃亡。こちらも現在に至るまで行方不明だった。

「え、え――」

 森山凛乃が戸惑っていると、瀧千秋はにっこりと笑った。

「彼女たちは、もう以前の彼女たちじゃないんだ。今は『時雨』と『聖里伽』だよ」

 そう彼が答えると、時雨と呼ばれたほうの女の子がゆっくりと近づいてきた。三つ編みの長髪、水色縁の眼鏡、ジャンパースカート姿。

「辛いことも、苦しいことも、もう私たちにはありません。森山凛乃さん。あなたも忘れたいことがあってここに来たのでしょう?」

「は、はい――」

「瀧兄さんにきちんと伝えれば、それは叶います」

 そのとき、ヒ、ヒヒ、ヒッ――と聖里伽が引きつり笑いを起こした。もう、彼女は殴られ続けた後遺症でそういう笑い声しか上げられないのだ。

 片目の隠れたセミロング、ブレザー姿。

「ここにみんなで住んで、お兄ちゃんの言うことを聞くだけでいいんだよお? もう警察には捕まらないしい、ごはんも食べ放題!」

「私、私は――」

 森山凛乃は二人の少女に取り囲まれながら、瀧千秋のほうを見た。

 彼は「君の望みを言ってごらん」と言った。「僕はろくでもない人間だけど、君を助けてあげられる。君を、助けたいんだ。――僕は誰にも助けてもらえなかったからね」

 その言葉を聞く頃には、森山凛乃の心は完全に流されていた。


「――全部、全部なかったことにしてください! 私があの両親から生まれたことも、あの両親にされてきたことも、全部最初からなかったことにしてください!

 もう、なにもかも空っぽにしてください!」


 そんな風に泣き叫ぶ森山凛乃を、瀧千秋は優しく抱きしめた。それは、演技にまみれた彼にしては珍しいことだが――心からの優しさで、彼女を受け止めていた。

「分かったよ、全て忘れてしまおう。残酷な現実から、いくらでも目を背けよう」

 瀧は寂しそうに言った。

「――今日から君は『凛』だ。目覚めたら、もう『森山凛乃』はどこにもいない」


  ※※※※


 そして現在。静岡県。

 九条アヲイは映画の撮影スタッフといっしょに、伶泉学園までの道のりを歩いていた。最初、監督にその学校のパンフレットを渡されたときは漢字が読めずに、

「ひや、いずみ――?」

 と首を傾げた。

「いえ、それはレイセンと読むようです」

 映画監督の加賀美はそう答えた。

「へえ――」

 そうして学園に辿り着いた。

 映画の内容は、台本を読んで頭に入れている。交通事故でピアノを失った音楽志望の男子学生は、ある日、校舎の屋上にて美しい歌声で歌う女子生徒と出会った。それが映画のヒロイン。彼はヒロインに自分の曲を彼女に歌ってほしいと願い、やがて深く関わっていくようになる。

「歌と演技を両立できる役者がほしかったんです。もちろんそれは難しかった」

 そう加賀美監督は言った。

「そこで、最初からシンガーの人を役者に選んで、演技指導をするほうが演出で工夫できると思いまして」

「なるほど」

 アヲイは頷く。

 辿り着いた学園の中庭には、一人の女子生徒が立っていた。

 172cmの長身。ワンレンボブ。厳しい目つき。すごい美人だと思った。顔立ちに知性みたいなものが漂っていて、どことなく、リョウに雰囲気の似ている子だなとアヲイは感じる。

「お世話になります」

 女子生徒は頭を下げた。

「エキストラ生徒役の取りまとめを行います、生徒会会長の藤長ユエです」

 彼女の伸ばした手に、アヲイも手を伸ばす。

「あー、えー、主演とかやる、九条アヲイです。どうぞよろしくです」

「感傷的なシンセシスのギターボーカルのアヲイさん、でしたよね?」

「え? うん、そうだよです」

「うちの生徒にもファンがけっこういますから。みんな喜びますよ」

「そうなの? そっか」

 アヲイはユエと握手をした一瞬で、なんとなく彼女の心を察した。

 もちろん、具体的なものではない。

 でも、彼女は彼女なりの煉獄を生きている。セクシャリティの苦悩なのか、それ以外も含むのかは、断定はできない。そして、それに対してアヲイができそうなことはなんにもない。それだけが分かった。

 ――世界にはいくつもの物語があって、その全ての登場人物になることはできないのだ。

 アヲイはジャケットのポケットに両手を突っ込んで、両手を見上げた。きっと今ごろは、藍沢テトラ先輩もなにかしらの厄介に見舞われているのだと思う。だけど、それを解決するのはもう私の役割じゃないんだろうな。

「ユエはさ」とアヲイは言う。「世界をゼロからやり直せるなら、どうしたい?」

「すごい突拍子もない質問ですね?」

「なんとなくね」

「個人的なことに深く関わりますし、回答は差し控えたいと思いますが」

「ま、そうだよね」

 アヲイは胸のポケットからハイライトを出して、咥えて火をつけようとした。

「弊学は禁煙です」

「え~? ダメ?」

 そう駄々っ子っぽくユエを見たら、ぴしゃり、と注意するような顔つきだったので大人しくライターを引っ込めた。

 ――やっぱり、なんかリョウっぽいよな~、このひと。

 アヲイは、もういちど空を見上げた。なにかとてつもないことが起きる。根拠は全くないが、そういう予感だけがあった。

「ねえ、ユエ」

「――はい?」

「もしかしたら色々ヤバいかもね」

「どういうことですか?」

「さあねえ――第三次世界大戦ってわけじゃないけど」

 アヲイはそう言って、南西のほうを睨んだ。

 ――テトラ先輩がなにかやらかす。そのせいで全てがおかしくなってしまうだろう。


  ※※※※


 同時刻。沖縄。

「――できた」

 そう藍沢テトラは言って、ヒデアキのことを部屋に招き入れた。「そういう状況じゃないのは分かってるけど、なにかしなくちゃって思って手を動かしたら、不思議――なんだか自然にできちゃったの」

「――そうなんですね」

 ヒデアキは深く頷いた。そうなんだ。

「最初に、ヒデアキくんに聴いてみてほしい」

「分かりました」

 ヒデアキはヘッドホンを頭に付けて、テトラさんの再生ボタンを待った。

 十四年ぶりの、テトラさんが自分のためにつくった曲。どういうものになるか、正直、俺でも想像がつかない。

「じゃ、再生スタート」

「はい」

 そして曲が始まる。


 不思議な入りだ、と思った。

 デビューアルバム『暗黒/光明』のなかのいくつかの曲が、深いエフェクトをかけられた状態で断片的に反復されていくなかで、やがてゆったりとしたパーカッションに取って代わられていく。

 そこに、シンプルなボーカルがまず乗り始める。歌われているのは、ただ、孤独を恐れて誰かに抱きしめてほしいと願う心。それを叶えてくれる『あなた』に対する、甘えと罪悪感の入り混じった感情。

 フレーズを1周したあとでエレキギターとベースが鳴る。――しかし、それはラブソングと呼ぶにはあまりに不穏、というか、攻撃的なサウンドで、ともすれば曲全体の雰囲気を迷子にしかねないものだ。

 そんなサウンドがスピードを上げて行くと、ピークに達したとき、転調してサビになだれ込んでいく。さらに激しさを増すギターのなかで、歌声はいっそう純粋に、『あなた』への想いをつのらせていった。

 そこには、関係を深めていくことへの恐れと、自分の心に踏み入ってくる相手に対する裏返しの苛立ちが伺える。

 そして、一転して間奏のパートでは、再び穏やかでシンプルなパーカッションに戻っていくのがこの曲だった。

 波のように、深い愛着と激情が立ち替わり入れ替わるかのように。

 再び歌が始まると、今度はギターではなくピアノが伴奏役になる。メロディ自体も違っていた。『あなた』に対する歌い手の気持ちではなく、この世界、この街に生きる全ての恋人たちを俯瞰する視点で言葉が紡がれる。

 その視線は、シニカルなようでいて、優しく、しかし感傷に踏み込まない。星座の物語を眺めるように、全ては遠い出来事としてあるようでいて、博物館に刻まれた歴史を見つめるように、実はとても身近なところにある。

 サビには転じない。ダン、と、ピアノが不協和音を叩き鳴らして全てが眠りにつく。

 五秒後。

 無音のなかから、最初のサビがアカペラで歌い直されていった。このときの声に説得力がなければ、たぶん、この曲は意味を成さないだろうと思えた。そのくらい、――なんて言えばいいのか、ヒデアキには難しかったが――テトラさんの歌声が、最も切実に響くパートだった。

「この手を離さないで」と、彼女は歌った。

 数ループ後に、その歌声はまたバンドサウンドに乗せられる。しかし、今度はそこに不穏さや攻撃性の余波は微塵も感じられない。ボーカルに当てられたコーラスエフェクトと相まって、長いトンネルを抜けた大団円じみた締めくくりを迎える。

 ここまでで約6分20秒。


 ――それが『エヴリアリの群青』だった。


 ヒデアキはヘッドホンを耳から外した。

「なんだろう――」と彼は呟く。「なんて感想を言ったら、あの、俺――」

 そうして振り向くと、

 ホテルに藍沢テトラの姿はなかった。

「え?」

 どこに行ったんだろう? 目の前で聴かれるのが恥ずかしくてどこかに行っちゃったのだろうか?

「テトラさん? どこですか?」

 そうしてヒデアキが部屋のドアを開くと、そこに広がっているのはホテルの廊下ではなかった。


 新宿駅の地下に似た、無人のホームだった。


  ※※※※


 アヲイは屋上の柵に背を預けた。台本では、そこで歌を歌っていた彼女の声に気づいた主人公が、慌てて階段を駆け上ってドアを開けてくる。そういうシーンだ。

 アヲイは伶泉学園の制服を着ていた。スカート履くの、メッチャ久しぶりだ。

 ――さて、役に入りますかね。

 そう思い、彼女は目をつぶる。


 そんなアヲイの姿を、弁財天スピカは、モニター越しに見つめていた。見学の名目で現場に紛れた、要は、職権乱用であった。

「アヲイ様、素敵すぎる――!」

「そうだね」

 隣に立つ川原ユーヒチが苦笑した。

「最初は映画って聞いてどうなるかと思ったけど、この感じだとトラブルなく終わりそうだな」

「ああん!?」

 スピカはユーヒチに噛みついた。「なにそれぇ!? アヲイ様がマトモに演技できないってことぉ!? そんなわけないじゃあん!!」

「ごめんごめん、そういう意味じゃないよ」

 ユーヒチは頬をかいた。「ただ、アヲイは、他の人とは色々違うからさ。俺が心配するに越したことはないんだよ」

「はぁ? ――ほんと、あんた気にくわないよねえ。アタシのアヲイ様のこと、分かってる風に言ってさあ」

「そう聞こえた?」

 ユーヒチが振り向くと、スピカは、ぐぬぬって感じで黙った。打ち上げの件があって以来、理由は全く分からないが、彼女はユーヒチの顔をまともに見て喋ることができなかった。

 ――男のくせに! アタシはこんなヤツに動揺なんかしてないんだもん! だってアタシはアヲイ様一筋なんだから!

 だいたいこいつ、アヲイ様のなんなの? アヲイ様は男になびいたりしないのに!

 スピカが歯を剥き出しにしてユーヒチを威圧する。

 そんな様子に、撮影スタッフが「そろそろ始まるので、お静かに願いますね」と言った。

 スピカもユーヒチも、それを聞いて口を閉じる。

 映画のシーンが始まった。


 ――主人公役の俳優が「ハッ、ハァッ」と息を切らしながら階段を駆け上がって屋上のドアを開けた。そこに、ヒロインのアヲイが物憂げに立っている。

「ねえ!」と彼は叫んだ。「さっきの歌、もしかして、君が歌ってた?」

「――誰?」

 アヲイは彼を睨んだ。現実のアヲイとは、表情も姿勢も違う。役そのものだ。だが、演技ではない。役柄の登場人物の人生を《思い出して》再現しているだけだ。

「――あたしに用?」

 そうアヲイが訊くと、彼は「え? 俺は、ええっと、その――」と口ごもる。

「用がないなら、消えて。ここ、あたしの特等席」

「えっ、あのっ」

「――なに?」

「用は、ある、あるよ! 俺、君の声が好きだ! あの歌、なんていう歌なの? す、すげえじゃん!! プロ並だよ! 俺、音楽やってて、その」

「で?」

 アヲイの表情に動きが見える。

 歌を褒められた、それに対して、ヒロインはほんの少し顔色に嬉しさをにじませる――にじませるだけだ。あからさまに喜んだりはしない。

 そういう人生を送ってきたヒロインだ。

 他人に期待はしない。裏切られるのが怖いからだ。でもそれは、ヒロインの、世界に対する愛情の裏返し。

 アヲイはカメラの前でそれを《思い出す》ことができる。

「俺と! 音楽やろう!」

 彼はそう言った。「俺が作曲! で、それを君が歌うんだ! うわっ――すげえ――絶対いいじゃん! なあ、どう思うっ!?」

「くだらないな」

 アヲイは目をそらした。

《あたしを褒めてくれたのに、結局は世間からの評判のほうが大事なんだ?》

 そういう表情で歩き始めると、彼の隣を素通りして屋上から去っていった。


 そんな演技を、モニター越しにスピカとユーヒチは眺めていた。

「最高にクール――!」と呟いて、スピカは口もとを押さえながら感極まっている。「この映画、いい感じになるって。まあ百合じゃないのはムカつくけど」

「だな」

 ユーヒチのほうは、とりあえず、アヲイがつつがなく仕事を終えられそうだ、ということに胸を撫で下ろしていた。


 アヲイのほうは「カット!」という合図を聞いてから、いったん記憶を打ち切り、階段の踊り場で元の自分に戻る。

「ぶはぁっ――」と息を吐いた。少し汗もかいているのが分かる。「やっべえ、思ったより疲れるかも、これ――」

 そう言った。が、

「ま、八木さんがくれた仕事だし、ちゃんとやるよ」

 と笑った。

「私は私がやることをやるから、世界のほうはテトラ先輩に任せたぜ」


  ※※※※


 凛は飛行機のなかで眠っていた。初めは神経を集中させて護衛に徹する気でいたのだが、お兄様に、

「これから最後の決戦だよ。起きて見張るのは交代制にして、ゆっくり眠るといい」

 と言われ、時雨や聖里伽に頷かれると、疲労に耐えられず意識が落ちていくのを感じた。

 が、気がつくと沖縄だった。

「え、交代制じゃなかったんですか?」

 そう凛が訊くと、聖里伽がヒヒヒ――と引きつり笑いを起こした。

「凛、いつも頑張って疲れてばっかりだよねえ。セリカは疲れてないから、起こさないであげたんだあ」

 そう彼女が言うと、時雨も笑みを浮かべる。

「凛の責任感の強さは美点だと思っていますが、あまり一人だけで抱え込まないでくださいね。私たちは仲間なんですから。元々のしがらみも、名前も、記憶も捨てて新しい家族になったんです――お姉さんだと思って甘えてくれていいんですよ?」

「時雨――」

 凛は少し顔が赤くなるのを感じた。それを見て、瀧千秋はフッと笑う。演技じゃない。本当に気を許している笑顔だ。

「僕は、僕自身の復讐に決着をつけるために沖縄に来た。でも――」

 彼はそこで眼鏡の位置を直した。

「君たちとは出会えてよかったよ。僕は姑息で、卑劣な男だ。生きていて、誰にも本性を明かしたことがない。でも、君たちの前ではありのままの僕でいられるんだ。最低、最悪、冷酷な僕のままでね」

 そんな彼の、思いがけないタイミングの、しかしあっけらかんとした告白に、時雨は微笑み、聖里伽はヒヒッヒヒヒッと歯を見せる。

 凛も、心が安らぐのを感じる。お兄様といるときは、自分が親殺しである事実を忘れることができる。まあ、そんな両親の顔も名前ももう思い出すことはできないのだが。

 この感情は偽りだ。植えつけられたものだ。

 ――でも、だとしても私はお兄様のことが好きだ。

 それは本当の気持ちじゃないって誰かに責められたら、堂々と言い返すことができる。本当の気持ちなんて辛いだけだから要らないんだ、と。

 不思議なことに、お兄様は私たち三人の体を求めたことがいちどもない。

 私たちの脳をいじれるのだから、好きなだけ愛玩道具にすることもできただろうに。お兄様の、そういう、妙なところで潔癖症な部分も私には心地いいんだろう。

 ――飛行機が那覇空港に着陸した。ここで小型飛行機に乗り換えて久米島に直行する。到着するころにはきっと、真夜中になっているに違いない。

 それでいい。

 だって、私たちは昼の世界の住人じゃない。

「『昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか』」

 凛がそう呟くと、聖里伽が「ニーチェじゃ~ん!?」と口笛を鳴らした。

 瀧千秋は微笑む。

「ニーチェは僕も好きな哲学者のひとりだ。女難の相が出ているところに好感を覚えるね」

 そうして、彼はシートベルトを外して立ち上がる。

「行こう。――藍沢テトラと決着をつけなくちゃいけないんだ」

 彼のあとを、凛、時雨、聖里伽が順についていく。それぞれセーラー、ジャンパースカート、ブレザー姿で、傍目には彼は夏期講習合宿の引率をする塾講師かなにかにしか見えないだろう。

 実際は、最悪の殺人鬼なのだが。

「レッツゴー」

 と彼は言った。


 同時刻。久米島のスカーレットホテル808号室。

 サランがトカレフを握りしめ、ジュンギがワイヤーを構えると、クォンヌクがドスをヒュンヒュンと振り回し、そして、シオンが聖書を読んでいた。

 沖田レインが彼らに向き直る。その隣には、黒井という休職中の刑事も座っていた。

「いよいよ君たちの出番だ。確かな情報筋によれば、先ほど那覇空港で瀧千秋らしき人物が確認された。0時を回れば、ここに来る」

 そう言った。

「やりかたはプロの君たちに任せるよ。あんまり細かい指示を出してもやりにくいだろ?」

「当たり前だ」

 サランはそう答えた。「俺は俺のペギンの仇を討つ。それだけだ。日本人に口出しされたくない。勝手にやらせてもらう」

「そうかい?」

 それからレインはジュンギとクォンヌクを見た。

「君たちも意見は同じかな?」

「オレは」とクォンヌクは言った。「狙いの瀧千秋は他に頼むわ。周りを固めてる女たちの掃除は任せてくれ」

「理由は?」

「ニッポンの女は肉が柔らかくて切り甲斐がある。抱くにしても殺るにしてもニッポン製は最高だぜ――」

 そう彼は言って、下劣極まる笑みを浮かべた。灰色に染めた髪を全て逆立てた、タッパのある四白眼の男だ。

「あいつら押しに弱くて、ガイジン相手だと簡単に愛してくれるからな。母国の、気が強えだけのアバズレとは大違いだ」

 そんな彼の言葉にレインは肩をすくめる。

「趣味の問題に口出しはしないよ。どうぞご自由に」

「あんたも綺麗だぜ、レインさん?」

「残念だけれど、僕には性別も性的欲求もないんでね」

「そりゃ男の良さを知らないだけさ。オレならちゃんとあんたのことも『教育』できる」

 クォンヌクはそう言うと乱暴に椅子から立ち上がる。

「キル数たんまり稼いだら、ご褒美をくれよ? 王様」

 そうしてレインの下顎を、つっと人差し指で持ち上げた。彼女は、クォンヌクの無礼に対して微動だにしない。

 ジュンギが「よせ」と静かに言った。センターパートの黒髪に涼しげな一重まぶたで、唇に黒のルージュを引いた中性的な男だ。

 サランが舌打ちをする。

 クォンヌクは「ただの冗談だろ? マジになんなよ」と笑った。そうしてレインから優しく手を離した。

 ジュンギは島の地図をずっと睨んだままだ。「俺は皆の方針に従うよ。これは仕事だ。給料分の殺しをやらせてもらうだけだ――」

「職務熱心な人がいて心強いよ、ジュンギくん」

 そうレインは笑った。

 そんな会話のなかで、シオンはなにも言わなかったが、最後に、

「久米島空港のエントランスをここから狙える銃、調達してるか?」と言った。

「もちろん。こちらが用意した狙撃銃で1000~2000m先を狙い撃てる」

 その返事に、シオンはやっと笑う。ロングストレートの髪に、漆黒のドレスを纏う女。

「この島に来る瀧とそのお仲間たちは四人じゃない。ワタシが撃ってすぐに三人になっちゃうね?」


 こうして。

 瀧千秋、凛、時雨、聖里伽。

 VS

 沖田レイン率いる、サラン、ジュンギ、クォンヌク、シオン。

 そして、

 ホテルでじっと待っているだけの藍沢テトラと浜辺ヒデアキ。


 最後の戦いが始まった。


  ※※※※


 そして、真夜中の久米島。

 瀧千秋とその女たちは空港に降り立った。

「警戒を解かないでね」と瀧は言った。「あいつらは僕たちがここに来ることを予期している。要は、相当の準備はしてるってことだ」

「はい」と凛が答えると、

「まあ関係ないけどね」と瀧は笑った。「僕の力を使えば、この島にいる全ての人間が人質で、凶器になる。あいつらはそれを見捨てられない。だから最初から姿を現して短期決戦に持ち込むだろう。長引けば長引くほど僕たちが有利だからね」

「ヒヒ、ヒヒヒ」

 聖里伽は引きつり笑いを浮かべながらスキップで歩く。「早くヒデアキくんに会いたいなあ。優しくしてほしいなあ?」

 時雨はため息をつく。

 そうして、長い袋に包まれた日本刀を右手に持ち直しながら、凛に顔を向けた。

「凛。両腕は治ったと聞きましたが、まだ刀を振り回せるほどではないですよね? 戦闘になったらどうする気で?」

「問題ありません、時雨」

 そう答えて、凛は改造靴の底にあるピンを外した。かかとの部分から刃物が飛び出る。

「この足でも充分ですよ」

「――十全です」

 と時雨は笑った。

 彼女の満足を確認してから、凛は再び靴の刃を戻す。

 本来ならば、このような金属類を飛行機内に持ち込むことはできない。

 なのに、なぜ瀧の女たちは堂々と武器を持参しているのか。

 理由は簡単だ。――金属検査の結果はどうあれエントランスを通すのは人間だから、そいつを操ってしまえばいい。

 沖田レインの招集した殺し屋たちは金とコネで武器を持ち込んだが、瀧のほうは、純粋な洗脳技術でどうとでもなるわけだ。

 ――ここは五分五分。

「ホテルをひとつずつ調べる」と瀧は言った。「テトラはそこに縮みこんで震えているはずだ。早く死の恐怖から解放してあげないと。僕は彼女を愛してるんだ」

「そうですね」

 凛は不敵に笑った。

 そうして、他の旅行客が出払ったタイミングで四人は久米島空港を出た。まずは移動手段を見つけなくちゃね、車を探すのがいいかな、そう喋っていた瞬間、


 ――聖里伽が瀧に向かって飛びかかり、膝蹴りで体ごと吹き飛ばした。


「えっ!?」

 時雨が声を上げる間もなく、

 聖里伽の腹部は――それまでその場所にあった瀧千秋の頭部の代わりに――ライフル弾に撃ち抜かれていた。


  ※※※※


 作戦開始だ。


  ※※※※


 聖里伽は着地後、その場に立ちすくんでいた。ブラウスは真っ赤に染まり、口と、鼻からも血が流れ出している。内臓をやられたからだろう、もう助からないのは明白だった。

「お、お兄ちゃん――!」

 と、聖里伽は声を張り上げた。「み、みんなも――逃げて――!」

「ウソだろ――聖里伽」

 呆然とする瀧を、聖里伽はじっと見つめる。

 ――そして、わずかに残った力を振り絞り、さらに彼の体を蹴り上げる形で強引に位置をずらした。

「聖里伽!!」

 凛が悲鳴を上げるなかで、

 ――今度は、聖里伽の頭がライフル弾に破壊された。


  ※※※※


 シオンは狙撃銃のトリガーからいったん指を離した。スコープの向こうで、残り三人が警戒態勢に入るのが分かる。

 もう二発も撃ってしまったから、こちら側の位置はばれているだろう。

 命中率も下がる。

 追撃するより撤退するほうが得策だった。

「本命を外されたか――? なぜ?」

 シオンは首を傾げた。なぜ相手がこちらの狙撃タイミングに気づけたのか分からない。

 ――正直に言えば、このときの聖里伽の直感と身体能力は誰にも説明がつかなかった。

 愛の力? バカな。

「まあいい、とにかく一匹死亡したね」


  ※※※※


「おいおいおいおい――!」

 すぐに起き上がった瀧は顔に汗を浮かべた。「いくらなんでも初手が早すぎるだろ、あいつら――!」

 聖里伽の体は、血と脳漿を撒き散らしながら横たわったままだ。

 たぶん、心臓はまだ無事なのに命令中枢の脳髄が壊れているからだろう、ピクピクと、まるで死にかけの昆虫のように手足を痙攣させている。

「凛! 時雨! 逃げろ! バラバラに!!」

 そう叫んで瀧は走り始めた。


 一方、凛は、聖里伽が二度も撃たれ、衝撃で吹き飛んだその角度から、敵スナイパーの位置を大雑把に把握していた。

 久米島スカーレットホテル。階層は7階から9階の間。

 ――そこか。藍沢テトラの護衛どもは。

 コソコソ逃げ隠れ回りやがって、卑怯者の歌姫風情が――今すぐ始末してやる。

 殺意に満ちた表情を隠す気もないまま、凛は目的地に向けて一直線に疾走した。

 このとき、彼女は自分が藍沢テトラへの嫉妬心に突き動かされていることを自覚していなかった。お兄様の意識を独占する、憎たらしい藍沢テトラに対する――。


 時雨は逆に瀧と同行する。

「兄さんは戦闘能力がありません! 私が守ります!」

「ダメだ!」と瀧が叫ぶ。「固まると狙い撃ちにされるぞ!? 僕から離れろ!」

「敵のいちばんの目的は兄さんひとりです! こちら側は兄さんを死守しなければ負けなんですよ!? 絶対に離れませんから!!」

 そうして、時雨は瀧をかばいながら凛の直進ルートを把握しつつ、狙われにくい木々を縫うようにして走り続けた。


 ――そんな様子を、クォンヌクは遠くから見ていた。

「オ――ッケイ!」

 彼は下品に笑った。時雨の必死な表情を見ながら強かに舌なめずりをする。

「悪くないねえ? なかなかツラの良い女だ。オレの刃物にちょうどいいぜ、ベイビー!」

 そして、ヒュン、と鋭い音を立てて風を切りながらターゲットに直接近づいていく。

「女を抱くときとは違って、殺るときは後悔があるんだよねえ」

 と、クォンヌクは呟きながら走り続けた。

「オレの優秀な遺伝子で赤ちゃんを生ませてあげられなくって、ごめんねえって気持ちさ! ハハハハ!!」


 ――そんなクォンヌクに黙って同行するのがジュンギだった。


 クォンヌクとジュンギが瀧と時雨を追跡し、凛のほうがシオン、および彼女のそばにいる沖田レインたちを追い詰める構図。

 そうしてサランは拳銃を構えて、「近づいたヤツから俺のエモノだ」と静かに囁いた。

「よくも俺のペギンを殺りやがったな――? まったく、日本人はいつもそうだ」

 殺してやる。そうサランは呟いてから、ポケットにある薬を呑み込む。

 痛覚を遮断し、その他神経を過敏にして身体能力を劇的に向上させる悪魔のドラッグ。

 通称「キャンD」。

 マイヤーズミュージックの裏組織が芸能界と音楽界に流通させている薬物とは別物の、純粋な戦闘能力増強剤。

 ジュンギも、クォンヌクも、シオンも、ほとんど同時にそれを呑み込んだ。

 ああ、脳がイカれていく。目の前の任務以外、なんも考えられなくなっていって、カラダが火照って、気持ちいいよ――! 今ならなんでもできるぞ。なんでもできる力が湧いてきてしょうがないぜ。

「ああああああああ!!」

 サランは大声を上げて、

「タキィ――――ッ!!」

 そう叫びながら、景気づけに一発だけ空中に発砲した。

「てめえら、オイ、生きてこの島出れると思うなよコラァ!! ペギンのカタキだこのクソボケが!!」


  ※※※※  ――Appendix


 瀧千秋という男の人生を知る者は多くない。

 もともと、彼は遠野千秋という名前だった。瀧姓を名乗るようになったのは、比較的後年のことになる。それに、その頃まだ千秋は「センシュウ」などという読みかたではなく、普通に「チアキ」という読みだった。

 性嫌悪症の母親が、女の子の誕生を願って出生前から付けていた名前だ。彼は生まれてくる前から女の子であることを期待され、身の回りのベビー用品さえ全て女の子用を揃えられて、読み聞かせ用の絵本もお姫様が主人公のメルヘンなものばかりだった。

 つまり。

 ――ただ男に生まれたというだけで、遠野チアキは母親から失望されたのだ。そして、そんな身勝手な母親にへこへこと卑屈に頭を下げる男が、チアキの父親だった。

 だから遠野チアキは、幼稚園から小学校低学年まで外出するときはいつも女の子の格好をさせられていた。それに対して大人たちに咎められたときは母親がヒステリックに矢面に立った。

「うちの子は、心は女の子なんです! チアキちゃんは女の子なの!! 遅れている日本じゃ分からないでしょうけど!!」

 そういう幼稚な罵詈雑言を横で聞きながら、生まれつきIQの高い遠野チアキはなんとなく察していた。そうか、母さんは僕が男の子じゃないほうがいいのか。僕が男に生まれたのが悪いのか。

 だから、母親が喜ぶように積極的に女の子のフリをした。スカートを履いて、薄っぺらい魔法少女モノのニチアサ番組に夢中になってみせた。優しくしてくれる体格のいい男子がイジメから守ってきたから、いつも、その子といっしょに遊んであげた。タケシくんという近所の子だった。

「僕、大きくなったらタケシくんのお嫁さんになろうかなあ」

「バカか? 男同士は夫婦になれねえよ」

「えへへ。心は女の子だもん!」

 だが、事件は起きた。

 チアキのことを好きだという女の子が、小学校からの帰り道にバレンタインデーチョコレートをくれた。それを喜んで持って帰ったチアキは頭から熱湯を浴びせられて何日も折檻を受けた。

 産後鬱の悪化からの精神病で錯乱していたのだろう、母親は、まだ五歳と少し経ったばかりのチアキの性器をハサミでズタズタに切り裂いて措置入院になった。

 ――女を誘惑する能力が自分の息子に、いや、娘に宿っている! それがチアキの母親には我慢ならなかったのだ。

 こうして、遠野チアキは生涯に渡って勃起と挿入と生殖の機能を失うことになった。


 当たり前の話だが、チアキは父親に引き取られた。

 そして小学校高学年になる頃には、背も伸び、声変わりも丁寧に済ませて、スマートな男性の仲間入りを果たそうとしていた。

 母親はゴミだったが、見た目だけはよかった。その遺伝子の恩恵はあったわけだ。

 彼は中学に上がっても成績が良く、どんなスポーツも得意で、そうして放課後は教室のピアノを弾いて過ごしていた。ほとんど独学ではあったが、フランツ・リストの超絶技巧練習曲の全てを彼はモノにしていた。

 そんな彼の才能は異性によくモテた。


 あるとき、父親はよくない噂をきいた。チアキは恋愛依存気味の女子生徒を目ざとく見つけては、彼女に期待させるだけさせて金品を巻き上げたあと捨てている。そういった話が耳に飛び込んできた。

「なあ、チアキ」

 と父親は呼びつけた。

「女の子に酷いことはするなよ?」

「? 大丈夫だよ、父さん」

 チアキはにっこりと笑う。

「あの子たちを僕のモノにしたいんじゃない。ただ、僕にも女の子を支配できる力があることを自分で証明したかっただけなんだよ」

 父親はそれを聞いて、今まで、事なかれ主義でなあなあに済ませてきた自分の子育てが完全に失敗していることを悟った。

 そのとき、チアキは父親譲りの近眼でもう眼鏡をかけていたのだが、その両目は、にっこりと細まっていた。

「僕は最初の異性である母さんに、とっても酷い目に遭わされたんだよ。だから逆に、僕のほうがどれだけ女の子を酷い目に遭わせても許されるべきなんだ」

 そんな理屈で、チアキの心は真っ暗だった。


 そんなチアキの人生に希望の光が差したのは、学習塾の帰り道で地元の公園、ひとりの女の子がブランコに座っているときのことだ。

 彼女は泣いていた。

「どうしたの。もう遅い時間だよ」とチアキが訊くと、彼女は首をふるふると振って、

「家に帰りたくない」

 と答えた。

 ――僕と同じだ。僕も帰りたくない。

 いや、違うな。

 帰るべき場所が分からないんだ。そんなものが世界にあるなんて思えないけど。

 チアキは隣のブランコに座る。「名前、教えてよ。僕は遠野チアキ。ここらへんに住んでる優秀な高校生。不審者とかじゃないよ?」

「――あ、藍沢」

 そう彼女は答えた。


「あたし、藍沢テトラっていう名前です」

 

 そのころ、遠野チアキは16歳。藍沢テトラは13歳だった。

 二人の関係はこのとき始まって、今も歪んだまま続いている。

 

 それからチアキは、公園で時間を潰すテトラとよく遊ぶようになった。彼女が本物の不審者に絡まれる可能性も心配だったし、なんとなく心惹かれるものもあった。

 ――不思議だな。

 彼女といっしょにいることで、自分のなかに初めて人間らしい気持ちが芽生えているらしいのが分かった。

 手持ちぶさたのテトラのために、チアキはソフトボールとグローブを買って渡した。

 キャッチボールで体を動かしながら喋れば、もっとお互いに分かり合えるかもしれないと思ったのだ。

「テトラって、良い名前だね。ギリシア語の基数詞でしょ? なんて漢字で書くの?」

「『祈』って書く。――おじいちゃんが考えてくれたの」

「ええ、すごっ! 完全な当て字? それとも由来があるのかな」

「出雲大社が四拍手だから、四で、テトラだってさ。ギリシア語で、1、2、3、4が、それぞれモノオ、ジーイ、トリィ、テトラ。で、だからテトラなの」

「へえ。いいなあ。教養があるキラキラネームだよ」

「あっ、やっぱり笑った! ひどい!」

 むっとしたテトラが、ソフトボールを勢いよく投げた。

 チアキは笑いながらボールをキャッチする。

 

 ときどき、近くのコンビニに寄ってアイスやソフトドリンクをご馳走してあげた。自分が女の子になにかをあげるなんて想像つかなかった。だけど、すごく美味しそうに飲んだり食べたりするし、思わず買ってあげたくなってしまった。

「テトラの好きな教科、教えてよ」

「ない。勉強できないし、実技も苦手。あたし、なんの取り柄もないんだと思う」

「そんなことは絶対ない」

 チアキは少しだけ真剣に言った。「どんな人間も、その人にしかできないなにかがあるんだと思うよ。じゃなくちゃ、悲しすぎるでしょ? きっと、テトラにもなにかあるんじゃないかな。思い出してみて?」

「えー」

 テトラは顔をしかめて、チョコモナカを頬張って飲み込んでから、

「――音楽の授業なら、怒られたことないかも」

 と言った。

「音楽?」

「うん。歌、いいんだって、あたし。自分じゃ分かんないけど。楽器も、下手って言われたことないな。だから音楽のことだけは、好き、なのかも、しれない」

「いいよ!」とチアキは目を輝かせた。「ほらね、僕の言ったとおり、全部が苦手な人なんていないんだ。義務教育はね、自分に向いているなにかを探すための九年間なんだよ」

 思わず嬉しくなって、テンションが上がる。

「テトラは音楽の人なんだよ! 将来、すごいミュージシャンになったりするかもね」

 不思議な気持ちだ。

 全く僕のメリットになっていない会話だ。なのに、赤の他人である彼女に、得意なことがあって、プライドになりうる分野がある、それだけのことが幸福だった。

「やめてよ」とテトラは顔を赤くして否定する。「人前で歌うとか、絶対にムリだもん。恥ずかしいよ。できないってば!」

「はははは!」

 チアキは笑い声を上げた。「どうしても不安なら、僕が伴奏者になってあげるよ。すぐ近くで、ピアノを弾いて励ましてあげる」

「えっ」

 テトラは表情を変える。

「チアキくん、ピアノ弾けるの?」

「実はね。フランツ・リストのマゼッパだって難なく弾きこなせちゃうんだぜ? 僕はさ」

「すごい! すごい! ピアニストだ!」

「おやおや」

 チアキはほんのちょっと、わざと意地悪になってみせる。

「もうやる気になってるんじゃないの?」

「え? そんなこと――ない」

「今度、公園で歌ってみてよ。ジョークじゃない。僕もテトラの歌を聴いてみたいな」

「ええ、恥ずかしいよ、やだ」

「大丈夫。夜遅くなら、僕しか聴いてないんだし。なにも恥ずかしくないよ?」

 

 こうして。

 テトラは夕日の落ちた公園で、よく、千秋の前で歌を披露するようになった。

 初めて聴いたのはMy Bloody Valentineの『Only Shallow』だった。


Sleep like a pillow downward and

Where she won’t care anywhere

Soft as a pillow touch her there

Where she won’t dare somewhere

枕に沈んでいくかのように眠りましょう。

彼女が気にしない場所なら、どこででも。

枕が彼女の身体に触れるように柔らかく。

彼女が抵抗したがらないようなところで。


Sleep like a royal subject and

Think that you grew stronger

Speak your troubles, she’s not scared

Soft like there’s silk everywhere

高貴な従僕のように眠りましょう。

あなたがもっと強くなることを思い浮かべて。

あなたの困難を話して。彼女は気にしないわ。

どんな場所も、シルクのように柔らかいから。


Sleep as a pillow, comfort there

Where she won’t dare anywhere

Look in the mirror, she’s not there

Where she won’t care somewhere

ここちよい枕に包まれて眠りましょう。

彼女が抵抗したがらないような場所で。

鏡を見てみて、そこに彼女はいないの。

だって、彼女はどんな場所も気にしないから。


 テトラは歌い終わると、毎回、「どう?」とはにかんだ顔を浮かべた。

「うん、すごいよ!」と千秋は拍手する。

「才能があると思うね。やあ、今のうちにサインも貰っちゃおうかなあ!」

「もお」とテトラは頬をふくらませる。「なんか、チアキくんの喋りかたって、全部からかってるみたいだよね?」

「ええ? 本気だよ? 本気ですごいんだって!」

 そんな言い合いになって、二人でじゃれあった。

 僕は、恋してるのかな? と思うようになった。だが、思っただけで、具体的な行動にはなにも結びつかない。

 だって、僕の心は真っ黒だ。歪んだ母親のもとに生まれて、体を切り刻まれて、他人を傷つけることになんの躊躇もなくなってしまった。

 そんな僕の事情を、彼女に知られたくはない。今の距離感のままで充分だ。

 ああ、そうだ。

 僕が自分の正体を知られるのを怖いと思った、最初の相手が、テトラだったんだ。――これが初恋なんだと思った。


 そうして。

 地元の中学校の文化祭が近づいてきた季節に、テトラはもじもじとして公園に現れた。

「どうしたの? テトラ」

「あたし、ステージで歌うことになる、かも」

「すごい!」

 チアキは純粋に感動した。「でも、どうして? あんなに恥ずかしがってたのに、どういう風の吹き回し?」

「あのね、クラスのなかに、バンドでステージに出ようっていう子たちが、いてさ。――でもボーカルの子が風邪をこじらせちゃったって」

「そいつは気の毒だね。楽しみだったろうに」

「代打で、歌ってほしいって」

「いいじゃないか」

 チアキは朗らかに笑った。「やっとテトラの歌の良さにみんなが気づくんだ。いいねえ」

「でも、怖いよ?」

「――うん」

 チアキは立ち上がった。「それじゃ、こうしよう。僕は高校をサボってテトラの文化祭に行くんだ。でさ、客席で応援するよ」

「――え?」

「どうしようもなく不安になったら、壁際、いちばん奥を見るといいよ。そこに、君の歌のファン第一号がいるからね」

「――ほんと?」

「だって、良いステージにしたいじゃないか」

 チアキは、心からの優しさで微笑んだ。「テトラの音楽は世界に知られなくちゃ。僕の希望は、本当に、それだけなんだ」

「――嬉しい」

 テトラは涙ぐんだ。

「あたし、チアキくんに、色々貰ってばっかりだね?」

「勘違いしないで。テトラがすごいだけだよ。僕は才能に惚れこんで勝手にやってる、それだけの人」

「――そっか」

 チアキは、もし、彼女を抱きしめるタイミングがあるならここだろうと今でも思い出すことがある。

 でも、できなかった。できるわけがない。

 僕には女の子を愛する能力も資格もない。

 テトラ、僕の、僕だけの独り善がりで甘ったるい初恋。

 どうか幸せになって。

 さようなら。


 さて。

 もし、ここで遠野チアキが文化祭に顔を出して彼女の歌を聴いていれば、全てはちょっとだけ歪な青春物語に収まってくれただろう。

 でも、そうはならなかった。

 チアキは文化祭当日、退院した母親に襲われて生死の境をさまよったからだ。

 

 直後に再逮捕された彼女が今どこでなにをしているかは誰も知らない。噂によれば、看護師の目を盗んでベッドシーツを紐にして首を吊ったらしい。まあどうでもいい話だった。男を求めながら男を憎まずにいられない、そういう矛盾した女はいつの時代もいるものだ。そんなありきたりな物語にこれ以上の言葉を費やす必要はないと思う。

 ただ、次のことだけは記しておかなければならないだろう。

 自分の息子、というか「娘」である遠野チアキが歌の上手い女子学生に夢中になっていることを知った母親は、彼の指の神経を念入りに切り刻んだということだ。

 彼は男性機能だけではなく、自慢のピアノすら奪われたのだ。だから、もう遠野チアキはフランツ・リストの超絶技巧練習曲はおろか、可愛らしい童謡すら、まともに弾くことができなくなってしまった。


 病院で目を覚ました遠野チアキが最初に思ったのは、

 ――ああ、テトラの文化祭に行けなかったな。

 ということだった。

 自分の指に巻かれた包帯を見て、涙を流した。文字どおり、もう彼にはなにひとつ残っていなかったのだ。

 それでも少しずつ回復して、テレビを見れるようになると、彼はようやく、世界の流れに意識を合わせることができた。

 ――藍沢テトラはマイヤーズミュージックの八木啓プロデューサに目をつけられ、メジャーデビューを果たしていた。

「――え?」

 とチアキは思った。モニターの向こうで、藍沢テトラは照れるように笑いながら、インタビュアの質問に答えていた。

『ほんとに、文化祭で歌ったのは偶然なんです。それを偉い人に聴かれてたらしくって』

『へえ~! そんなラッキーがあるもんなんですねえ』

『はい』

 テトラはテレビの向こう側で笑った。

『あの、あたしのことを見つけてくれたプロデューサの八木さんには、すごい感謝してます』

『あー、八木さんね! 敏腕だよね』

『はい。ほんと、運命の出会いって感じでした』

 ――――。

 チアキはそれを黙って眺めていた。

 ――テトラを、最初に見つけたのは、僕だろ? 僕だよな?

 チアキはそれからテトラの出演番組を全て録画し、彼女の声に耳を澄ませた。だが、彼らの公園のエピソードはひとつも語られなかった。そんなもの、まるで世界に最初からなかったみたいに。

 そうしてテトラは偉いプロデューサへの恩義を語り、バックバンドのギタリストとの友情を喋り、ふふふ、と、テレビの前で笑った。

 ――僕を置き去りにして、笑っている。僕が欠陥動物だからか? テトラ? だから僕のことはなかったことにしたいのか? テトラ? なあ?

 遠野チアキは退院したあと、なるべく彼女のことは思い出さないようにしていた。しかしそれは無理な相談だった。街の看板で、テレビの番組やCMで、インターネットの広告という形で、藍沢テトラは何回も彼の視界に飛び込んできた。

 ――僕を忘れたくせに、僕をなかったことにしたくせに、僕が君を忘れることだけは許してくれないのか?

 なんて傲慢で、残忍な悪魔なんだ。

 やがて二枚組のデビューアルバムが発売されると、チアキは観念したような気持でそれを購入した。もしかしたら、曲の歌詞や、あるいは同梱されているブックレットの私小説で僕のことを描いているのではないか、という期待を捨てきれなかった。

 なにもなかった。

 ――もはや、明確な悪意で攻撃されている、とすら感じた。

 やがて藍沢テトラの歌に奇妙な都市伝説が流れ始めた。彼女の歌を聴いた人間はパラレルワールドの夢を見ることができる、と。

 チアキは笑った。毎日、いつも繰り返し彼女のアルバムを聴いている僕は、どうしてその夢を見ることができないのだろう。

 ありもしない噂話にすら、僕は相手にしてもらえないのだ、と感じた。

 代わりに悪夢をいくらでも見た。ステージの上で戸惑っている藍沢テトラを見て、チアキは舞台袖から駆け寄るとピアノの椅子に腰を下ろす。

「僕が弾くから、それに合わせて歌ってみて?」

 そう言おうとするのだが――彼の指は傷だらけの血まみれで、まともに鍵盤を叩くことができない。

 そんな彼を見下ろす藍沢テトラの表情が分からない。観客席には、母親や、女装を受け入れていた頃の自分がびっしりと座っている。


「チアキくんはなんにもできないんでしょ? もういいよ、あたしに付きまとわないで」

 夢のなかのテトラは、氷のような声色でそう言った。


 ――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!


 悪夢を見るのが怖くて酷い睡眠不足になった、その数週間後、遠野チアキは思い出の公園に行ってブランコに座った。

 もちろん、どれだけ待ったところで、テトラが現れるはずもない。

「はは」

 と笑いがこぼれた。

「ははは、はははは――はははは」

 テトラ。

 ねえ。僕を置いていかないで。僕を無視しないで。僕を死なせないでよ。テトラ。こんな僕が、やっと好きになれた、最初の女の子。ねえ、頼むよ、せめてたったひとことでいいから、

「ぜんぶチアキくんのおかげだよ。ありがとう」

 そう言って。

 僕を認めて。

 僕のことをいじめることしかできない母さんの代わりに、僕の母親になってよ。僕を認めてよ。僕を許してよ。なんでしてくれないの。僕のほうは、あんなにテトラに尽くしてきたのに。酷くない? 僕は酷いと思うよ。

 ねえ、テトラ、冷たくしないで。もっと優しくしてよ。僕は優しくしてきたと思うんだけどな――。

 僕にはテトラしかいないじゃないか。腐った僕は、他の人間になんかなんの関心も持てないんだよ。僕には、ねえ、テトラしかいないんだ。

 見捨てないで――。

 お願いします。

 お願いします。

 お願いします。

 ブランコに揺られながら、チアキは、泣きながらヘラヘラと笑った。涙がボタボタとズボンに落ちていった。

「テトラ、ねえ、テトラぁ――」

 そうやって泣いている千秋に、通りがかったヤンキーの集団が絡んできた。

「なんだあ? こいつ」

「一人でずっと泣いてるわ。きっしょ」

「おい、お前金持ってる? 大人しく全部出せよなあ」

 そう言って、ヤンキーの一人が遠野チアキの襟首を掴んだ。

「変に逆らうんじゃねえぞ、ナメクジ野郎がよ?」

「ナメクジ――?」

 チアキは泣きじゃくりながらヤンキーに返事をする。

「僕は、僕は、さっき酷い失恋をしたんだ。すごい女の子だよ。僕のこと、もう、まるでいなかったみたいに扱ってて。ねえ? それって酷くないかな? ねえ、僕がナメクジだからなのかな?」

「ああ?」

 ヤンキーは顔をしかめる。

「金出せって言ってんのが分かんねえのか? このメガネはよ」

「あは、ははは、ハハハハハハ!!!!」

 遠野チアキの頭のなかは、テトラへの気持ちでいっぱいになる。

 ドストエフスキーは書いている。人は、憎みながら恋をすることができる、と。それが、テトラに対するチアキの今の気持ちだった。

 ――許さない。

 テトラ、君のことを、僕は一生許さない。僕のことを忘れて成功していく君なんて、消えてしまえばいい。生まれたときから不幸だった僕の苦しみを味わって、地獄の果てまでのたうち回っていればいいんだ。

 僕が母さんに指を切り刻まれたように、君は僕に喉を焼き尽くされてしまえばいい。

 お前だけ、なんで勝手に幸せになってるんだ? 

 そんなこと、僕がいつ認めた? 僕が君の才能を見つけたんだろ?

 僕が。

 僕が。

 僕がさあ! 僕が!!

 テトラあ!!

 ――チアキはヤンキーに殴り飛ばされた。痛みはない。痛みを感じる痛覚も、人としての心も、とっくに摩滅しているんだ。

「はは、ハハハ、アッははははは――!!」

 チアキは笑ったあと起き上がる。口から血が出ているのが分かった。

 そのときのことだった。

 千秋は、自分がテトラと同じ力があることに気づいた。いや、気づいたのか、そのとき初めて生まれた力なのかは分からない。

 ――僕は、このゴミどもに、ありもしないウソの記憶を見せることができる。

 僕は人を操ることができる。

 テトラも同じ力の持ち主だ。でも、彼女は善人だからか、それを音楽活動のなかで良いことにしか使う気がないらしい。

 へえ。

 じゃあ、せいぜい良い子ぶってろよ。僕のことを忘れたくせに。

 チアキはゆっくりと人差し指を向け、さっき自分を殴ったヤンキーに呟いた。

「『俺は、遠野チアキ様の奴隷です』」

「――お、俺はチアキ様の奴隷です?」

「『今からゴミ掃除をして地球環境を改善します』」

「い、いまから、ゴミ、掃除を――」

 そう口走ったあと、標的のヤンキーは暴れ出し、お仲間連中に襲いかかった。混乱。なにが起きているかバカどもには理解できないだろう。

「く、ふふふ――」

 チアキは余裕綽々でその場から離れた。公園では乱闘が起きている。

 ――この力は、ちゃんとコントロールして、できることとできないことの区別をつけるためにとても長い時間がかかるだろう。本当なら、何人もの実験台を探して練習を積み重ねなくちゃいけない。それこそ十年単位の研究が必要になるんじゃないかと思った。

 でも、今はテトラへの想いで、我慢などできない。

 そうして藍沢テトラのファン感謝祭ステージに立ち寄ると、遠野チアキは、適当な若い男を見つけた。

「『俺とテトラは恋人だったのに、テトラはそれを無視して有名人ヅラしてやがる』」

「お、俺と、テトラは、恋人だったのに――」

「『許せないから金属バットで半殺しにしちまおう』」

「許せない――半殺し――」

 遠野チアキの洗脳を受けたあと、男はふらふら歩き出し、結局のところ数日後にはテトラのストーカー襲撃事件が発生した。――チアキは、クク、と笑いながらその場をあとにした。

 もちろん計算外はある。実行犯はいささか藍沢テトラを痛めつけすぎた。もし死んでしまったら大変だ。僕は、なるべく長いあいだ藍沢テトラに生き地獄を味わってほしいっていうのに。

 が。

 まあ、とにかく生き甲斐ができたのは僥倖だった。

 藍沢テトラ。

 お前だ。

 お前を苦しめること、それが、僕という欠陥動物がこの世に生まれてきた意味だ。やっと前向きに人生を生きられそうだよ。

 その後、遠野チアキは父親の再婚によって遠野姓から瀧姓になり、成人する前には、役所に問い合わせて名前の読みを「チアキ」から「センシュウ」に変えた。よく知られていることだが、読みを変えるだけなら簡単な手続きで済む。

 それと、お手軽な整形も済ませた。もともと整った顔立ちだが、さらに完璧にしておくに越したことはなかった。


 こうして「瀧千秋」が誕生したわけだ。

 もし今のテトラが瀧千秋を見ても、大昔の遠野チアキのことは思い出せないだろう、と彼は思った。まあ、どうせなにがあってもあの女が僕を思い出すなんてことはありえないわけだが。

 いい気になって僕を忘れた女だからね。

 十年間のうちに、瀧千秋は自分の力のコントロールを習得していった。先に凶器を渡しておくことの効果に気づいてからは、もっぱらハインリヒ・K・キュルテンの骨董ナイフを収集することに心血を注いだ。

 これは面白いと思った。ペニスと違ってナイフは男女平等だ。粗暴な男たちが女を犯すように、僕はナイフを世界に突き立てることができる。


 ――テトラ、待っててね。早く、早く、僕と同じ地獄に連れて行ってあげる。お前に幸せになる権利なんかないんだ。

 そう思いながら、瀧千秋はこの十四年間を生きてきたのだ。

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