第16話 報告と少しの嫉妬

 昼休み、授業間の休み時間ともに松原から逃げ切り、放課後に日誌を書いていた。もちろん、同じ日直である松原も一緒にいる。

 目の前に座っている松原は孝也が日誌を書いているのにも関わらず、話しかけてきた。

 「孝也君は何が好きなんですか?」

 「なんだろうな」

 「じゃあ趣味とかありますか?」

 「なんだろうな」

 もう気にする事をやめた孝也は適当にあしらっていると松原がついに机を両手で叩いて駄々を捏ね始めた。

 「ちょっとは真面目に答えてよー」

 「いやだよ。俺になんの得があるんだよ」

 書く事を一回やめて真面目な顔で松原を見つめる。

 「私と仲良くなれるっていう得かな」

 満面の笑みで松原は答えた。その言葉を聞いた孝也は顔を顰めて引いていた。

 「なおさらいらない。ほら日誌かけたから職員室に持ってけ」

 松原に書き終えた日誌を差し出すと松原は両手で受け取る。

 「孝也君も一緒に……」

 「行かない。俺にも用事があるからな」

 松原が言いかけたところで遮って断る。用事というのはほかでもなく図書館で星乃が待っているということだ。

 昼休みに空き教室に逃げ込んでいた孝也は自分が日直と言う旨を星乃に連絡し、放課後図書館に行くのが遅れるという事を伝えていた。

 性格上、人をいつまでも待たせていると思うと申し訳なくなるので早く行かなければと思っていた。

 孝也は席から立ち上がり、鞄を背負うと松原には挨拶もせずに教室から走って出ていった。残された松原は呆然と立ち尽くしていた。

 「絶対に仲良くなってやる……」

 1人教室で呟きながら両手で持っていた日誌を少し握り潰していた。


 図書館へ走っていった孝也は勢いよくドアを開いた。息を切らしながら中に入ると星乃は1人長机で勉強をしていた。

 「お疲れ様です」

 星乃はドアが開いた音でこちらに気がついた。孝也は星乃の前に行き、鞄を下ろして椅子に座ると彼女がねぎらいの言葉をくれた。

 「ああ、今日は本当に疲れた……」

 「何かあったんですか?」

 勉強の手を止めて星乃は首を傾げる。

 「ちょっと厄介なやつに目をつけられてな。もしかしたら図書館に来れなくなるかもしれない」

 「厄介な人ですか……それってどんな人ですか?」

 星乃は孝也の言う人物に興味を示してきた。普段は孝也は自分の話をしないのでそれだけで彼女からしたら興味の湧く話だろう。

 「クラスメイト全員と仲良くなるとか言ってる変人だ」

 孝也が思うにこれは変人扱いなのだが、どうやら星乃はそうは思わなかったらしく目を丸くしていた。

 「いい人じゃないですか。三河さんとも仲良くしようとしてくれてるんですよね?」

 「別に俺は仲良くなりたいとは思ってないからな。ただ迷惑なんだよ」

 本当に困ったと言わんばかりに頭を抱える。

 「でも確かに三河さんが図書館に来なくなるのは困ります」

 そのことだけについては彼女も同感のようで眉尻が下がり困っている様子だ。

 「図書館だけじゃなくて学校そのものに来なくなるかもな」

 「そうなったら私は三河さんの家に行きますね」

 冗談のつもりで言ったのだが、真顔で何事もなく言う星乃に孝也は目を丸くして驚いた。

 「なんでそうなるんだよ」

 「だってもうすぐテストですよ?」

 星乃に言われて、思い出したように孝也は頷く。

 「そうか、そろそろテスト期間か。でも、もうすぐって言ったって後2週間はあるだろ」

 「この学校の生徒の大半はこのくらいの時期からやってますよ」

 「それはそれは努力家なことだ」

 自分には関係ないと言った様子でテキトーな事を言う。孝也の態度を見ていつから始めるか気になったようで星乃は首を傾げて質問をした。

 「三河さんはいつからテスト勉強始めるんですか?」

 「そうだな……三日前から」

 しばらく考えてからいつも何日前から始めているのか真面目に答えた。それが事実なのだから特に気にしなかった。それが普通だと思っていたから。しかし、それを聞いた星乃は驚いていた。

 「三日前からやって学年2位なんですか!?」

 珍しく少し声を荒げていた。何をそんなに驚いているのかわからない孝也は少し頭をひねる。

 「学校のテストなんて作ってる先生の癖とかパターンさえ見つければ対策なんていくらでもできるからな。三日前からでも十分だ」

 「そんなに短い期間で勉強してるんですか……?」

 呆れた様子で少し頭を押さえていた。その姿を見た孝也は補足的に説明を始めた。

 「いや、まあ授業の内容を理解してるからできる事だけどな。他の人に勧めても誰もできたことないけど」

 「それは三河さんの勉強方法が変なんです」

 星乃は少し不貞腐れたような言い方になっている。何がそんなに気に入らないのか、全くわからない孝也だった。

 「ま、学校のテストなんて結果だよ。どれだけ勉強したかよりもどれだけ点数がいいか、だからな。それだけを考えた方法だな」

 「もういいです。静かにしていてください」

 「…………」

 呆れた様子だったが、少し強めに言われた孝也は驚いて何も言えずに黙ってしまった。それからは帰宅時間になるまで沈黙が続いた図書館だった。

 「私がこんなに努力して1位なのに、なんで……」

 静かになってからしばらくして孝也には聞こえないほど小さい声で星乃は呟いていた。

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