第17話 突然の真実
松原から目をつけられた日から孝也の日常は一度も落ち着いたことはない。
休み時間になれば松原がしつこく話しかけてくる。昼休みにも同様にだ。
嫌気がさした孝也は空き教室や男子トイレに逃げていた。流石に松原はクラスの委員長をやっているのでそう簡単には探しには来れなかった。しかし、教室にいれば付きまとわれるのは明白だった。
ついには放課後もつけられるようになってしまい、簡単には図書館にいけなくなってしまった。
そんな日々を送っていた孝也でも唯一、朝だけ落ち着いていられた。なぜなら松原が早く来ることはなかったからだ。理由はわからないが。
そんなある日の朝、いつも通り教室に行くとなぜか松原が1人佇んでいた。普段ならまだ教室には誰もいない時間のはずだ。
ドアが開かれた音を聞いて振り向いた彼女は笑顔で孝也を出迎える。
「やっぱり来るの早いですね」
「なんでこんなに早くいるんだ?」
孝也は満面の笑みを浮かべる松原を見て顔を歪める。
「そんなに露骨に嫌がられると流石に私でも傷つくんですけど」
松原は悲しそうな表情を浮かべている中、孝也は気にせずに自分の席に行き、鞄を机の横にあるフックにかけ、彼女に向き直ると真顔で答える。
「なら、ストーカー行為をやめればいいんじゃないか?」
「ストーカーなんてしてないよ! ただ孝也君と仲良くなりたいだけ」
真剣に訴えてくる松原に孝也はどうしても疑問を持たざるおえなかった。
「どうしてそこまで俺にこだわるんだ?」
「それは私の目標が……」
「クラスの全員と仲良くなるため、だろ? でもよく考えてみろ。自分の行動がその目標を遠ざけてることに気がつかないのか?」
「それは……確かにそうだけど………」
孝也の言葉を聞いて吃ってしまう。否定をしないということは彼女自身わかっているのだろう。
「理解してるならもう俺には関わるな」
「それできない!」
松原は言われたことに対して大声で否定した。しかし孝也もただ否定されただけでは納得できない。
「なんでだよ」
「わ、私が……孝也君のこと好きだからだよ!」
勢いのままに言ってるのか松原は自分が何を言っているのか気がついてないようだった。そして松原の言ったことに一瞬理解が追いつかず、孝也も声を荒げた。
「はあ? 何言ってるんだ。冗談も大概にしろよ」
「冗談なんかじゃないよ! 私は本気で孝也君が好きなの!」
ようやく気がついたようで、とんでもないことを口にした松原はハッとした顔をする。孝也も冗談だと思っていたことを2度も言われると流石に目を点にするしかなかった。
お互いにの間に沈黙の時間が流れる。ただこのまま黙ったままでは気まずいし、クラスの人たちがやって来るのも時間の問題だった。色々考えた末に孝也は手を叩いて一つの提案をした。
「よし、この話は放課後にまた話そう。朝からする話じゃない」
それを聞いて彼女も納得したのか、同意をしてくれた。
「そうだね。じゃあ図書館はどうかな? あそこって放課後になると人がいないじゃん」
「いや、図書館は……」
図書館はやめようと言いかけた時に教室のドアが開かれ、クラスの人たちが入ってくる。時計を見ると生徒の登校時間のピークを迎えていた。
「じゃあ放課後、図書館でね!」
「ちょっと待っ……」
そう言い残して松原は登校してきた友達のところへ行ってしまった。途端にうるさくなった教室は孝也の声をかき消した。賑やかなはずの教室にただ1人呆然と立ち尽くしていた。
「よう、孝也。どうした? 鳩が豆鉄砲食らったような顔してるぞ」
「ほんとだ。珍しいね、たかちゃんがこんな顔してるなんて」
少し遅れて登校してきた2人は孝也を見て少し驚いていた。だが孝也は2人がやってきたことにも気がつかないほど頭を回転させていた。
先ほど星乃に今日は図書館には来るなと連絡をした。もちろん返信は『どうしてですか?』だ。その理由をなんていうか。孝也は心の中で頭を抱えていた。
もはや朝から疲れてしまい、思考もまともにできなくなってきた。
「一回考えるのはやめだ」
そう呟いて今ある問題を考えるのを頭の中で放棄した。
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