第15話 新たなる面倒

 それから松原は休み時間には毎回話しかけてくるようになった。晴翔や遙と話している時には無理にでも会話に入ってくるので孝也は彼女から逃げるように教室から去る羽目になっていた。

 今は昼休み。松原はちょうど先生に呼ばれて教室にはいない。孝也が机で突っ伏しているとビニール袋片手に晴翔が話しかけてくる。

 「よう。大丈夫か?」

 「いやこんなに疲れたのは久しぶりだ」

 体を起こしてから晴翔の質問に答える。

 「今日は珍しい人に話しかけられてるな」

 ニヤつきながら興味津々な顔をしている晴翔。しかしその顔を見ても苛立つ気も起きないくらい疲れている孝也は頭を抱えながら答えた。

 「ほんとに迷惑だよ」

 「しかしなんであんなに話しかけられてるだ?」

 さっきのふざけ顔とは一転し、晴翔はうでを組んで真面目な顔をする。

 「なんかクラスメイト全員と仲良くなりたいんだと」

 「ああ。確かに松原さんクラスの奴らのほとんどと話してるよな。俺も何回か話したことあるし」

 晴翔は空いていた隣の席に座り、袋の中からサンドイッチを取り出して食べ始める。孝也もカバンの中から弁当を取り出す。

 「それで俺とは話したことなかったらしいから目をつけられた」

 「はははっ、それは大変だな」

 後ろにのけぞるように高笑いをする晴翔を見て殴りたくなってきた孝也は語気を強めた。

 「笑い事じゃないんだよ」

 「そもそもお前が松原さんから逃げないでちゃんと話せばそれで終わるんじゃないのか?」

 サンドイッチを食いながら珍しくちゃんとした意見を言ってきた。

 「そんなんだったら今朝で終わってるはずなんだよな……」

 晴翔の意見を聞いた孝也は朝の事を思い出しながら呟くように言う。

 「もしかしたらたかちゃんのこと好きなのかもよ!」

 2人で話してるところに突然、遙が混ざってきた。先ほどまで彼女は他の友達と話していたはずなのだがいつの間にか晴翔に後ろから抱きついていた。

 「確かにありそうだな」

 晴翔は遙といちゃつきながら首を縦にふる。

 「いやねーよ」

 その言葉を孝也は即座に否定した。

 「わかんないよ〜由紀ちゃんに気持ち聞いてみないと」

 「いやどう考えてもあれが俺を好きなはずないだろ」

 「孝也は恋愛初心者なんだからそういう気持ちはまだ理解できないんだよ」

 晴翔がドヤ顔をしながら上から目線に言ってくる。その態度に少しムカついた孝也は冷たく返事をする。

 「そんなこと知りたいとも思わないね」

 「あ、由紀ちゃん戻ってきたよ」

 その時ちょうどドアの方を見ていた遙が孝也の肩を叩きながら教える。

 それを聞いた孝也は食べ終えていた弁当を急いで片づけて、机と同じ高さまで姿勢を低くしてぐに松原がいるドアとは逆のドアから教室を抜け出した。


 孝也が教室から抜け出した後、すぐに松原が晴翔と遥のところにやってきた。

 「2人とも孝也君がどこにいるか知りません?」

 松原からの問いに2人は一度顔を見合わせ、すぐに彼女の方を見て晴翔が答えた。

 「知らないな。ね、はるちゃん?」

 「私たちもいつもたかちゃんと一緒にいるわけじゃないからね。ごめんね、由紀ちゃん」

 顔の前で手を合わせて遙が謝ると松原は首を横に振る。

 「謝らないで。孝也君は自分で探すよ」

 松原がそこから去ろうとすると遙が引き止めた。

 「ねえ、由紀ちゃん。どうしてそんなにたかちゃんと仲良くなりたいの? まさか好き、とか?」

 遙は興味津々に目を輝かせて松原に問う。

 しかしその言葉を聞いた松原は笑いながら否定する。

 「違うよ。孝也君には今朝嫌いって言われちゃったからなんとかして友達になりたいって思ったの」

 晴翔がその言葉を聞いて苦笑いをする。

 「あいつが心を開くのはかなり時間がかかるぞ」

 「うんうん。私たちもあそこまで行くのに実際2年ぐらいかかったしね」

 「そっか……じゃあなおのこと頑張らないとね! 2人ともありがとね」

 気合を入れるように両手をぎゅっと握った後、松原は2人に手を振りながら教室を出て行った。残された晴翔と遙はお互いを見る。

 「もしかして孝也に悪いことしたかもな」

 「ま、たかちゃんなら大丈夫だよ」

 晴翔の心配とは別に遙は全く気にした様子はなかった。それに釣られるように晴翔も別の話をし始めた。

 「そうだな。それよりはるちゃん、今日は帰りどこ寄ってく?」

 「駅前に新しいケーキ屋さんが出来たんだって! そこ行こうよ」

 孝也のことはすっかり抜け落ちて2人だけの世界に入っていった。

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