第14話 新たなる交流

 星乃と休日にあってから数週間が経った。月が変わり七月になり梅雨が明けた。衣替えを終えた制服でも燦々と降り注ぐ太陽光の暑さは防げそうにない。

 あれから特に2人の関係性が変わることもなく平穏な日々が続いていた。たまに星乃の方が孝也を避けるような日もあったが。

 七月上旬のある日、孝也はいつも通り朝早くに学校に来て窓の外を見てぼうーっとしていると教室のドアが音を立てて開かれる。

 ドアの方を見ると女子が立っていた。黒髪の少女も孝也の存在に気づいたらしく近づいてくる。そして孝也の前までやってきた。

 「孝也君、おはよう」

 「お、おはよう……」

 誰だ? と困惑の表情を浮かべつつ、された挨拶は返した。孝也が誰だか気づいていなことがわかったらしい彼女は、苦笑いをする。

 「その様子だと私が誰だかわかってないですね?」

 「……ああ。よくわかったな」

 当てられたことに対して少し不満を表すようにぶっきらぼうに返事をする。

 「孝也君て人のこと興味なさそうですから。クラスでも名前を覚えてるのなんて晴翔君と遙ちゃんくらいじゃないですか?」

 「なんでそこまで分かるんだよ…… ところでお前は誰だ?」

 目の前にいる女子生徒に大方のことを言い当てられて恐怖を感じている。これ以上何か言われる前に話を逸らさなければいけないと感じた。

 そして孝也は目の前にいる女子が誰だかわからないので聞くことで話を逸らそうと思った。

 案の定、目の前の少女は待ってましたと言わんばかりの笑顔で話し始める。

 「私はこのクラスの学級委員長の松原まつばら由紀ゆきです。まあ、話すのは初めてですしあなたの性格上なら知らなくても当然ですね」

 言い方に少し苛立ちを覚えた孝也だが松原がなぜ自分に用事があるのかを知りたい欲求の方が強かった。

 「ところで俺になにか用か?」

 「今日は私と孝也君で日直ですよ。ほら立ってください。2人で職員室まで日誌を取りに行きますよ」

 「それってどっちか1人じゃダメなのか?」

 「ダメです。早く来てください」

 そう言って松原は孝也の腕を掴んで無理やり椅子から立たせる。そのまま引っ張られて孝也は職員室まで連れて行かれる。

 「失礼します」

 「……失礼します」

 対照的な挨拶をする2人。

 職員室に入ると担任が座っているところまで2人で歩いていく。その女性教師は優雅にコーヒーを飲んでいる。

 「おっ、珍しいな。2人揃ってくるなんて」

 孝也たちに気づいた担任が椅子を回転させてこちらを向く。そして担任の言葉を聞いた孝也は松原の方を見る。その動きと同時に松原は逆の方を見る。

 その光景を見て彼女は眉間に皺を寄せる。

 「何をしてるんだお前たちは? 早く日誌を持っていけ」

 担任に差し出された日誌を孝也が渋々受け取ると職員室を出る。

 「おい、どういうことだ?」

 「なんのことですか?」

 廊下を2人並んで歩きながら松原に問う。しかし松原は惚けた顔をする。

 「担任が言ってたろ。2人で来ることは滅多にないって」

 「それにはちゃんと理由があるの」

 「理由か。本当にあるのか?」

 松原の言ったことを疑っている孝也はジト目で見つめる。

 「もちろん。理由は孝也君と話してみたかったからだよ」

 彼女の言葉を聞いて呆れ混じりのため息を吐く。

 「それだけで俺の平穏な朝を邪魔したのか?」

 「私はクラスメイト全員と仲良くなるのが目標なの」

 なぜか松原は誇らしげに言う。それを聞いた孝也は彼女がより一層何言ってるのかわからなくなり考えるのをやめて思ったことをそのまま言葉にした。

 「ならその目標は遠のいたな。俺は今確実にあんたを嫌いになっている」

 孝也の本音混じりの言葉を聞いた松原は不貞腐れた。

 「じゃあ、どうすれば仲良くなれるの?」

 「そんなの俺が知るかよ」

 松原は歩きながら肩を落としてガッカリしている。それでも目を見れば諦めてないことは明白だった。

 「ええ〜困るよ。ちゃんと教えて」

 「仮に知ってたとしても言わない」

 ここまで来ると孝也も強情になり、絶対に言う気はなかった。

 「ケチ」

 頬を膨らませて文句を言うが孝也は気にしない。

 「別にケチでいい」

 そう言って2人は教室に入って行った。

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