第12話 静かな午後の時間

 昼食を取り終えた2人はお茶を飲みながらソファで寛いでいた。しばらく2人とも黙っていたのだが星乃が口を開いた。

 「三河さんって料理上手ですよね」

 「急に何言ってるんだ?」

 孝也は心底不思議そうに顔を顰める。星乃はお茶を一口飲んでから答える。

 「前に頂いたカップケーキも今日作ってくれたオムライスもとても美味しかったので正直、驚きました」

 「別にあんなの大したことじゃないさ。あれぐらい誰にだって作れるだろ」

 彼女の言葉を否定する。普段から料理をしている孝也はその凄さがわかっていなかった。

 「そんなことはないですよ。私はあまり料理が得意ではないですから、三河さんのことすごいと思います」

 「料理が得意じゃないってなんか意外だな。てっきりなんでもできるやつだと思ってた」

 「私だって苦手なことぐらいありますよ」

 彼女は困り顔のような自虐的な笑みを浮かべている。その顔を見た孝也は少し罪悪感を感じた。

 「ま、そうだよな。俺も苦手なことぐらいあるし」

 お茶を一口飲んでから慰め程度になればと思い、軽い口調で言った。

 「三河さんの苦手なことってなんですか? 気になります」

 暗かった表情がなくなり、真剣な顔をして星乃はグッと身を寄せて近づいてくる。空いていた一人分のスペースがなくなった。孝也が言った一言に妙な食いつきを見せる。

 「そうだな…… こうやって人に近寄られること、とか?」

 彼女自身が距離が近いことを意識していなかったようなのでふざけ半分のつもりで笑顔で言った。

 「……す、すみません!」

 星乃は顔を真っ赤にして急いで離れる。顔が赤いことを自覚してるのらしく両手で顔を覆って隠していた。手では隠せなかった耳は熟れたリンゴのような色をしていた。

 そんな姿を見て孝也は微笑ましく思っていた。

 「冗談だよ。ま、距離感は気をつけろ」

 孝也は空になったマグカップを持ってキッチンに移動する。星乃はソファの上でまだ顔を覆っていた。

 「焦った……」

 孝也自身、キッチンで星乃にはバレないように背を向け、口元を手で隠して呟く。顔こそ普通だったが耳もほんのり赤くなっていた。

 そして孝也はキッチンから動けなかった。星乃もソファの上で膝を抱えて丸くなり、一切動かない。壁掛け時計の秒針が刻む音だけが鳴り響いている。

 焦ってキッチンに逃げたは良いものの、することがなさすぎてお茶を淹れて飲んでいた。

 カウンターから星乃を度々見ていたが全く動く気配がないので心配になりソファまで近づき、顔を覗く。するといつの間にかすぅすぅと寝息をたてていた。

 孝也は2階から毛布を持ってきて星乃が起きないようにそっと掛ける。

 「……ん、すうぅ……」

 幼子のような顔で気持ちよさそうに寝ている星乃の隣を起こさないように距離を置いて座る。

 孝也も無言でソファの背もたれに体を預ける。

 「なんか、疲れたなぁ……」

 一言、静かに呟き、そっと目を閉じた。

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