第11話 2人で昼食

 ダイニングチェアの背もたれにかけていたエプロンをつけて、キッチンに立つ。

 しばらく黙々と作っていると星乃がソファから立ち上がりこちらに歩いてきた。孝也が料理をしているところをじっと見ている。孝也はそんな彼女の行動が気になり、手を止めて顔を見る。

 「どうした?」

 「ただソファで待ってるのも退屈だったので見に来ました」

 誰かに見られながら何かをすることに慣れていない孝也は星乃をリビングに戻らせようとしていた。テレビを指でさす。

 「テレビとか見てていいぞ」

 星乃は指されたところを目で追って振り返る。そこにあった何も映っていないテレビ見てしばらく考えてから向き直った。

 「……それより三河さんが料理してる姿を見る方が新鮮なので」

 「そうか」

 その言葉を聞いて彼女がここから動く気はないと悟り、孝也は短く返事をした。

 包丁で玉ねぎを切っているときに孝也は星乃に聞かなければならないことがあることを思い出した。

 「そうだ。一つ聞きたいことがあった」

 野菜を切る手を止めて星乃の顔を見る。

 「なんですか?」

 「アレルギーとかなんかあるのか? 好き嫌いでも別に構わないが」

 彼女は即答した。

 「いえ、ないですね」

 「そうか、わかった。教えてくれてありがと」

 「お礼を言われることじゃないです」

 何の気なしに言った孝也の言葉で星乃の耳がほんのり赤くなっていた。

 孝也は再び手を動かして昼食を作り始めた。その間に2人に会話が生まれることはなく、鶏肉を切る音、そしてフライパンで炒める音だけが家に響いていた。

 それから星乃に見られながら料理を続けること約15分後、昼食を作り終えた孝也は星乃をダイニングチェアに座るよう促す。

 「持っていくからそこで座って待ってれくれ。」

 「わかりました」

 嬉しそうに顔を少しだけ綻ばせながら席に着く。

 彼女が座ったことを確認すると皿を二つ持って孝也は移動する。一つは表情を普段よりも少しだけ緩ませている星乃の前に。そしてもう一つは自分の前に置く。

 今回孝也が作ったのはオムライスだった。

 「すごい美味しそうですね」

 孝也が作ったものを見て驚いている。確かにかなりクオリティの高いものだった。

 「いただきます」

 「ああ、味の感想を聞かせてくれ」

 星乃は置いてあるスプーンを手に取り、一口分を掬うと口に運ぶ。

 「……これ、すごく美味しいです。たまごがふわふわで味もちょうどいい感じです」

 「それはよかった」

 星乃はスプーンを止めないで食べている。満足そうな顔をしている星乃を見て孝也はほっとする。

 その姿を見て孝也もオムライスを食べ始める。お互いに何を話せばいいのかわからずに黙々と食事をしている。しかし孝也はこの静かな食事を楽しんでいた。

 なぜなら目の前にいる少女が一口食べるたびに幸せそうにする表情を見ているのが面白く、そして嬉しく久しぶりに退屈しない食事をしていた。

 「「ごちそうさまでした」」

 2人は声を揃える。孝也は星乃から皿を受け取りシンクに持っていくと後ろを星乃がついて来ていた。

 「どうした?」

 「洗い物は私がやります」

 「客人にそんなことはさせられない」

 彼女の申し出を断る。しかし星乃もそう簡単には折れない。

 「遠慮しないでください。昼食を作ってもらったお礼です」

 「……わかった。それじゃあ頼む」

 星乃に洗い物を任せてソファに座る。キッチンの方から聞こえてくる食器が軽くぶつかる音や水が流れる音を聞こえてくる。孝也は目だけを動かして星乃がキッチンに立っている姿を見ていた。

 水の流れる音が止まる。

 「終わりました」

 「やってくれてありがとうな」

 歩いてきた星乃に礼をいい、ソファに座るように促す。そして星乃は一人分の間隔を空けて孝也の隣に座った。それと同時に孝也が立ち上がり再びキッチンに移動する。キッチンカウンターから星乃に問いかける。

 「お茶とコーヒー、どっちがいい?」

 「ではお茶をお願いします」

 「わかった」

 孝也はあらかじめ沸かしておいてあったお湯を使って2人分の緑茶をマグカップに淹れ、リビングまで持っていく。

 「はいよ」

 「ありがとうございます」

 星乃に手渡す。それから2人は他愛のない話を始めた。

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