第9話 休日、偶然の出会い
あれから東海林に絡まれることはなかった。たまに遠くから睨まれたり、故意でぶつかってくることはあったが気にしてもしょうがないので全て無視していた。
数日後、色々とあった1週間だったがようやく休日になった。
孝也は近くのショッピングモールへ買い物をするために出かけていた。本当は昼まで寝ていたかったのだが、日用品の殆どが切れていたので近くのスーパーではなく、少し遠い場所まで来ていた。
買い物リストを手に必要なものをカゴに入れていく。
店を出るときに気がつけば両手にいっぱいになったエコバッグを提げていた。
「はあ、大体こんなもんか」
近くにあったベンチに座り、買い物リストを眺める。全て買えたことを確認して腕時計を見ると時間は昼の12時を過ぎていた。
ベンチの背もたれに体を預けてぼーっとする。孝也の腹から空腹の知らせが届く。
腹が減っている孝也は昼飯をここで食べいくか悩んでいた。財布を開くとまだ金はあった。しかし両手に持たなくてはいけない荷物が邪魔だった。
しばらく考えて結論を出した。
「仕方ない。昼飯は家に帰ってからにするか」
買い物袋を両手に持って立ち上がって出口の方へ歩き始めようとしたその時。
「三河さんですか?」
よくよく考えればこんなにたくさんの人がいるのだから同じ苗字の人もいるだろうし他の人に声をかけたのだろう。
孝也は昔、自分のことを呼んだと思って返事したら自分じゃなくて恥ずかしかった過去がある。なのでそう簡単に返事をしたくなかった。
振り返らずに歩いていくと服の袖を引っ張られた。流石に自分に用事があるんだとういうことがわかり振り返ると目の前には私服の星乃が孝也の服の袖を摘んで立っていた。
「偶然だな」
「顔が引き攣ってますけど」
自分では意識していなかったからわからなかった。星乃はいつも通りの穏やかに微笑んでいた。
「なんでここにいる?」
愛らしい笑顔でじっと見つめてくる星乃に孝也は質問する。
「買い物です」
星乃は手に持った買い物袋を見せてくる。
彼女がここにいる理由に納得していると周囲の人間の視線が気になった。孝也の方ではなく星乃を見てる人が多いようだったが、少なからず一緒にいる孝也も見られていた。
「そうか、じゃ俺は家に帰るから」
注目されるのが嫌いな孝也はすぐにその場から逃げたくなった。
「待ってください。よかったら一緒にお昼でもどうですか?」
帰ろうとした孝也を星乃は再び引き止める。
「重いから荷物を早く持って帰りたいんだが……」
「あ、すみません……気が付かなくて」
彼女は孝也の小刻みに震えている腕を見てすぐに謝った。
「引き止めてしまってごめんなさい。それでは、また学校で」
その言葉を残して彼女も歩いて行こうとする。振り返る一瞬、見えた表情が暗かった。
そんな顔をされたらこっちが悪いみたいじゃないか。
孝也は無意識のうちに彼女に声をかけていた。
「ちょっと待て、星乃」
「なんですか?」
振り向いた星乃を見て何も考えずに引き止めてしまったことを後悔した。
「その、あれだ。俺の家で一緒に食うか?」
「いいんですか?」
彼女は孝也からの予想外の誘いに目を
なんとか頭をフル回転させて出した言葉に孝也自身もびっくりしていた。
幼い子供が欲しいおもちゃを眺めているみたいに目を輝かせていた。もはや断れない雰囲気になってしまった。
「別に1人分だろうが2人分だろうが大して変わりはしないしな」
少々ぶっきらぼうな言い方をした。彼女に期待の眼差しを向けられてもうどうでも良くなってしまった。
「本当にいいんですか?」
「今度聞いてきたらこの話は無かったことにするからな」
「わかりました。それではよろしくお願いしますね。三河さん」
星乃に気づかれないくらい小さいため息を吐いて歩き出す。
「じゃあ、家まで案内するからちゃんと着いてこいよ」
「はい!」
そうして2人はショッピングモールを後にし、孝也の家に向かった。
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