第6話 やってきた面倒

 星乃が声を発したことで返事をせざるを得なくなった。できるだけ真顔を保ちつつ、口を開いた。

 「俺の時間的余裕を聞くなら大丈夫だが、精神的に言えば無理だな」

 質問に対する回答に顔を顰める。心底何を言ってるのかわからないと言った様子だ。

 「どういうことですか?」

 周りに聞こえないようにできるだけ声を小さくする。幸い晴翔と遙も一歩後ろに下がっていた。

 「お前がここに来たことで俺に注目が集まることで精神的に疲れて無理だってこと」

 「そういうことですか。それはすみません」

 孝也が言ったことに納得した様子を示す。それを知って気を使ったのか彼女も声を小さくした。

 「それで、なんのようだ? できれば早く言ってくれ」

 「今日の放課後予定はありますか?」

 うるさかった教室はいつの間にか静寂に包まれていた。教室にいる生徒は会話をやめて2人がなんの会話をしているのか耳を澄ませている。しかし、それでも2人の会話は聞こえなかった。

 「いや、特にないな」

 部活をやっているわけではないので放課後はいつもすぐに家に帰っていた。考える必要がないから即答した。

 「それでは図書館に来てくれませんか?」

 孝也の心の中でどうしてクラスがわかったのか? とか色々と聞きたいことはあったがここで長時間話すことは孝也の学校生活に致命傷を与えかねなかった。

 「わかった、何時に行けばいい?」

 仕方なく了承する。

 「では放課後、4時30分くらいに来てください」

 星乃は考えた様子はなかったので最初からこうする気でここまで来たのだろう。

 「わかった。ほら用事が済んだなら早く教室に戻れ」

 できれば早くこの状況を終わらせたかったので素っ気ない態度を取ってしまった。それでも彼女は気にした様子はなかった。

 「わかっています。それではまた放課後に」

 星乃は丁寧に一礼してから教室を出て行った。その瞬間、教室の中が一気に騒がしくなった。先ほどまでの状況をそれぞれ考察している。しかも孝也にも聞こえるような大声で。一部の男子は孝也のところまで歩いてくる。

 「おい、三河。お前星乃とはどういう関係だ? なんの話をしてたんだ? 教えろ」

 金髪に染め、ピアスを両耳に3個ずつ開けており、制服を着崩しているいかにもチャラ男を全身で表しているやつが詰め寄ってきた。

 こんな頭の中に何も入っていなさそうなやつ本当にいるんだな、と心の中でこっそりと思いつつ小馬鹿にしたように笑う。

 「なんでそんなこと知りたいんだ? 別に俺とあいつがどんな関係だったとしても君には関係ないだろ。おっと、授業が始まる時間だ。それじゃ」

 言いたいことを捲し立てるようにしゃべり、その勢いに圧倒されているうちにその場から離れる。孝也は自分の席に着くと同時に教師が入ってきた。

 教師が来たことでチャラ男も席に戻り、他の奴らも各自席に戻ったのでひとまず表立って注目を浴びることは無くなった。それでも授業中に睨んでくる奴もいたが。

 それから各授業の間の休み時間に男女問わず、いろんなやつから話を聞かせろ、どういう関係なの、など似たような質問をするためにわざわざ席までやって来たので全員適当にあしらった。少し不思議に思っていたのはいつもなら一番最初に来るはずの晴翔と遙は何故か何も聞きに来なかったということだった。

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