第5話 平穏、のちに面倒ごと
放課後に2人で勉強した日から数日が経った。特に妙な噂を聞くこともなく、星乃と関わることもなかったので安寧の日々を送っていた。
今は昼休み。そして場所は立ち入り禁止の屋上。昼飯を食べ終わり、寝転んで日差しを浴びていた。
「何もないってのは素晴らしいな」
ただひたすら青空を眺めているとポケットでスマホが震えた。嫌な予感を感じつつ取り出してみると遙からメッセージが来ていた。
その内容を見て孝也はあまりにも驚いて勢いよく起き上がった。
『今ね〜星乃さんがたかちゃんのこと探しに教室まで来たんだけどどこにいるの〜?』
とんでもないことが書いてある。ようやく周りから視線を感じることもなくなり、平穏な日々になったと思ったのに。なんで星乃が教室に来てるんだ。
『要件は? なんて言ってる?』
取り敢えずなんで自分に用事があるのかを確かめようと思った。少し経ってから遙から再びメッセージが送られてきた。
『たかちゃんに用事があるとしか教えてくれないんだよね〜 ねえねえ、何したの? どういう関係?』
遙のにやけ顔が頭に浮かぶ。それからも大量に同じ質問を送ってくるので全て無視した。
「今は教室に行かない方がいいか。返事は適当にしておこう」
と言うわけで孝也が遙に送った内容は女子では入れない場所にいるとしておいた。
『今、トイレ。星乃には悪いが帰ってもらえ』
これだけを送って再び仰向けに倒れ、深くため息を吐いた。遙からブーイングのようなスタンプが大量に送られてくるがこれもまた全て無視した。
「なんかまた面倒なことになりそうだな……」
昼休みが終わるギリギリまで屋上で時間を潰してから教室の後ろのドアから静かに席に戻った。それでもドアの開く音は誰かには聞こえているわけで何人かは孝也が教室に入ってきたことには気づいた。その中には厄介な相手も。
「たかちゃん戻ってくるの遅〜い」
孝也が席に戻って来ているのを見つけて遥かが早速こちらにやってきて孝也に絡み始めた。
「仕方ないだろ。俺はトイレで長い戦いをしていたんだ」
言い訳を言うと遙は頬を膨らませて不貞腐れている。
「もう時間ないじゃんっ! 聞きたいことたくさんあるのに〜 授業が終わったら聞きたいことあるからここにいてよ!」
ビシッと指を指して大きい声で宣言してから自分の席に戻って行った。授業のチャイムが鳴り響く教室で孝也は小さくため息を吐いた。
昼休みが終わってすぐの授業なのと現代文ということ、しかも今日は天気が良く日差しが心地よいのもあって孝也以外の他の生徒が全員死んだように寝ていた。
孝也が寝ていなかった理由はこの後くるであろう遙からの質問をどう受け流すか、だった。授業内容なんて一切頭に入ることはなかった。
そして、授業終了のチャイムが鳴る。先生が退室してから寝ていた生徒が起き上がり教室は喧騒に包まれる。次の授業の準備をしていると遥かが近づいてきた。
孝也は席を立ち、いくあてもなく適当に逃げようとする。が制服の首襟を掴まれる。抵抗するのをやめ、振り返るといつの間にかドヤ顔で晴翔までいた。
「たかちゃん、どこにいくのかな〜?」
「そうだぞ孝也。何してるのかはわからないが、俺も混ぜろ」
面白そうだと言わんばかりの顔をしてなぜか話に混ざろうとする。どういうことか今、遥が説明していた。その間に逃げようとするが今度は晴翔に首襟を掴まれた。
「なるほど、そういうことか。それで孝也詳しく説明を頼む」
「俺だってなんの用事で会いに来たのかわかんねーよ」
頭を乱雑に掻きながら、そっけない態度をする孝也。
「またまた〜。私とはるくんに話したくないだけでしょ」
「それも半分くらいあるが、それでもほんとにわからないな」
2人からの質問を適当に受け流してると教室の中が騒めいた。他の人の視線を追うと教室のドアの前まで行く。
「おお、噂をすれば」
晴翔が口から漏らした言葉に遥が頭を縦に振っている。
そこに立っていたのは星乃だった。彼女は孝也と一瞬目が会うと迷わずにこちらへ向かって歩いてくる。孝也はそれに合わせて逃げようとするが後ろには晴翔と遙が逃さないと言わんばかりに立っていた。
「おい、そこを通せ」
「ここで逃げたって多分また来ると思うよ」
遙の言葉に少し納得してしまった。ここでやり過ごす方が得策かもしれないが、少なからず注目を集めている。目だけ動かす。男子からの嫉妬や憎悪の目を向けられ、女子からは怪訝な目で見られている。
そうこうしてるうちに星乃が目の前までやってきた。もはや孝也に逃げ場はなかった。
「今、大丈夫ですか?」
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