【巻一四 劉放】終莫能磨也

「そんな白々しい言葉で、

 いちど入った国のヒビを

 磨いて埋められるもんかよ!」



其年,帝寢疾,欲以燕王宇為大將軍,及領軍將軍夏侯獻、武衞將軍曹爽、屯騎校尉曹肇、驍騎將軍秦朗共輔政。宇性恭良,陳誠固辭。帝引見放、資,入臥內,問曰:「燕王正爾為?」放、資對曰:「燕王實自知不堪大任故耳。」帝曰:「曹爽可代宇不?」放、資因贊成之。又深陳宜速召太尉司馬宣王,以綱維皇室。帝納其言,即以黃紙授放作詔。放、資既出,帝意復變,詔止宣王勿使來。尋更見放、資曰:「我自召太尉,而曹肇等反使吾止之,幾敗吾事!」命更為詔,帝獨召爽與放、資俱受詔命,遂免宇、獻、肇、朗官。太尉亦至,登牀受詔,然後帝崩。


臣松之以為

孫、劉于時號為專任,制斷機密,政事無不綜。資、放被託付之問,當安危所斷,而更依違其對,無有適莫。受人親任,理豈得然?案本傳及諸書並云放、資稱贊曹爽,勸召宣王,魏室之亡,禍基於此。資之別傳,出自其家,欲以是言掩其大失,


(漢籍電子文献資料庫三國志 459頁 ちくま3-092 批判)



○解説

 明帝めいてい曹叡そうえいがいまわの際にて後継者のサポートのことを相談をします。はじめ曹宇そううがよいのではと言うことになったのですが、曹宇が固辞。だので劉放りゅうほうと、その同僚の孫資そんしを呼び寄せ、誰が適任かを相談。ここで曹爽そうそうが候補にあげられました。一方で司馬懿しばいも呼ばれ、司馬懿にも後継者をサポートするよう伝えます。けど明帝、やっぱり司馬懿に大任を負わせるのは恐いと心変わりし、いったん司馬懿をのけ者にした状態で後継者サポートにまつわる人事の詔勅を作成。そして出来上がったあとに改めて司馬懿を呼び、詔勅を授けました。そして死亡。

 この一連の流れには凄まじく分厚い注もついていますが、まぁ割愛。劉放と孫資は明帝のそばにあって枢要に多く関わっていたにもかかわらず、決断を避けふわふわした回答ばかり。こうして曹爽と司馬懿の対立という、魏にとって致命的な災厄を招くことになったとします。孫資に関しては、別口の資料で美辞麗句を並べて「私にはサポート態勢の人事についての判断が仕切れない」などと語っているのですが、裴松之はいしょうし先生はお怒りです。


 なお然恐負國之玷,終莫能磨也。は詩経しきょうよく」の、

  白圭之玷 尚可磨也

  斯言之玷 不可為也

   白き宝玉は、多少欠けても

   磨けば美しさを取り戻す。

   王の言葉に落ち度があれば、

   もはや取り返しがつかぬ。

 からの援用です。

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