第3話

 商品の紹介だった。


「レトロな部屋へようこそ。今日もお願いします。今日はですね、カメラを紹介したいと思います。みなさん、使い捨てカメラって知っていますか? これです」


 出てきたのは、スマートフォンぐらいの大きさだが、とても分厚い物が出てきた。


「これはですね、二十世紀の時、スマホが無い時代に、このカメラで撮っていたそうです。一個、五百円。二七枚しか撮れないんですね。ピント合わせもできません。しかも、すぐその場では見られない。現像という作業をしなくてはならない。当時の人達はきっと、緊張感を持って撮影していたと、思われます」


 そう言いながら、撮影用のカメラの前で、どんな形をしているのか、見せていた。


「画素はどれくらいなのか。これは、現在のカメラよりも、鮮明ではありません。ここで、色々と言ってもつまらないので、実際にやってもらいましょう」


 場面が切り替わる。そこには、男女が写っていた。


「どうも、初めまして、鳴瀬です」


「琴です」


「今日はですね、写真を撮りたいと思います。今、私達は旅行と撮影を兼ねて、海に来ています。この使い捨てカメラで、思い出を撮っていこうと思います」


「旅行の内容は、私達のカップルチャンネルにて、やっていますので、ぜひ、観に来てください。」


「では、撮影風景をどうぞ」


 鳴瀬は、自分の撮影用カメラを持ち、琴が使い捨てカメラを持った。


 二人はまず、説明書を読み始め、カメラをカリカリさせながら、撮り始めた。


「撮れた?」


 鳴瀬がいつものように、確認をしようとした。


「わかんないよ」


 笑う琴。


 今度は、自撮りを始めた。


「これ、ちゃんと撮れたの?」


「さあ」 


 苦笑する二人。


 その後も、楽しんでいる様子が流れている。


 BGMは、重吾が作ったようだ。


「では、無事に二十七枚撮りました」


「どんな写真になっているのでしょうか。どうぞ」


 また場面が切り替わる。それは、現像された写真だった。一枚一枚、丁寧に見せてくれる。


 その時、琴からのLINEが入ってきた。



 いま、ヒマ?



 重吾の新しい動画を見てる。使い捨てカメラのやつ。結構良い感じ


 タブレットをチラ見。気がつけば、二つ目の講義も終わっていた。鳴瀬は、少し下にスクロールして、グッドボタンを押した。




 今日のJパークさ。行けない


 なんで?


 友達がさ、いきなり引っ越す事になった。今日、丸一日手伝う


 毎日投稿は、大丈夫?


 なんとか大丈夫。友達のお父さん、アメリカで働いてて。今すぐこっちに来いって。昨日、友達は退学届け出したみたい 


 そっか……


 明日さ、Jパーク行こう。撮影もかねて


 そうだね


 また明日



 

 鳴瀬は重吾に、飲みに行けると、LINEした。


 午後八時。重吾からの返信はなかった。既読さえつかなかった。


「おかしいな……」


 午後九時。重吾の動画と、鳴瀬と琴の、カップルチャンネル動画が、上がった。鳴瀬はもう一度、LINEをした。



 

 動画、ちゃんと上がっているぞ




 だが、既読がつかない。


 鳴瀬は電話をかけた。


「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」


 その機械的な声に、鳴瀬は戸惑った。もう一度、自分がかけた番号を確認する。


 確かに、重吾の電話番号に間違いない。


「どうして……」


 鳴瀬はどうする事も出来なかった。

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