第2話
鳴瀬はLINEを閉じた。次に動画のアプリをタップ。「レトロな部屋」と検索。すでにページが作られていた。コタツにミカン。丸くなっている猫。ブラウン管テレビが置かれていた。
午後九時に見られるように、リマインダーが設定されている。
鳴瀬は一番下の動画をタップした。
「パスワードを入力してください」
鳴瀬は、先ほど重吾から送られてきたパスワードを入力した。
「レトロな部屋にようこそ」
重吾の声だった。
「どうも、はじめまして重吾です。大学一年生です。今日は五月三日。午前十一時。今回はですね、シリーズ企画、第一弾。自分のルーツをたどる旅」
拍手の効果音が鳴る。
「と言っても、自分の家系は、歴史の教科書に載る程、すごくはありません。それに、最近になって興味を持ったので、ごく身近な所から、動画にしていきたいと思います」
カメラは、商店街を映した。ほとんどの店が、シャッターが下りている。看板は読めるものもあれば、塗装が剥がれ、僅かな文字の輪郭が残っているのもあった。
「ここ一帯は昔、夏は避暑地として、冬は近くのスキー場の泊まり場として、栄えていました。現在はこの通りになっています」
上り坂を歩くと、そこに旅館があった。
「見えてきました。ここが、おじいちゃんが経営していた旅館です。部屋は大体、一〇部屋かな。幼稚園の頃は、秋ぐらいに来ていました。あまりお客さんが来ないので。近くの山の中を駆けていました」
玄関の前に立つ。
「最後に来たのが、中学二年だったかな。住み込みで働いた事があります。もちろん、お金はもらっていませ駆けて
笑いながら重吾は言った。
「今は、経営してません。不況でお客さんが来なくなっちゃいました。おじいちゃんも、一昨年に亡くなりました。働いていた人達も、だいぶ前に、みんな辞めてしまいました。もうすぐ取り壊すそうなので、最後の記念として、動画に上げようと思いました」
カメラが、左側に振られた。
そこは庭だった。池もある。
「ここで、よく遊んでいました。ずいぶん手入れはされていません」
雨戸は、完全に閉められている。縁側の先は辺り一面、草が生えていた。くるぶし程。その中に、一段と目立つ花が咲いていた。
黄色の花が一輪咲いていた。花びら一つ一つが、中央に向いている。
「何の花だろう。まあ、いいや」
再度、玄関を撮した。
「では、中に入りたいと思います」
引き戸を明け、中に入った。陽の重吾がわずかしか入ってこない。旅館全体が、暗かった。
「以外と、綺麗にされてますね」
カメラのライトを点ける。土足のまま、廊下を歩く。何も置かれていなかった。戸はすべて閉められている。重吾が歩く度、ミシミシと音がした。
「雨戸やら扉が全て閉じられているので、とてもカビ臭いです」
奥へと向かっていく。
「扉はきっちり閉じられていて・・・・・・ん?」
重吾が立ち止まった。一番奥の部屋の前に、一抹人形が置かれてあった。
「なんで」
ぎぃ・・・・・・
振り返る。ライトは、開いたままの、細長い扉を照らした。十秒ほど、何も動きはなかった。ゆっくりと、開いた扉の方へと近づいていく。
掃除用具が入っていた。
重吾の荒い鼻息が聞こえる。そのまま数十秒、掃除用具だけを映している。
「今日は、これぐらいで止めておこう」
旅館から出ようとしたその時だった。
ガタン!
階段から物音がした。
カメラが突然ブレだした。何を写しているのか、全くわからない。
しばらくして、カメラ全体がネズミ色になった。重吾の荒い息づかいが聞こえる。
ブレブレのカメラが、はっきりと景色を映した。さっきまでいた旅館は、遠くから撮っている。
「これで、終わりにします」
その言葉を最後に、カメラは切れた。
「完全なホラーじゃん」 鳴瀬はタブレットをチラ見した。二つ目の講義が始まっている。
再びスマホに目を向ける。新しい動画をタップした。
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