第8章四部への転章

第125話 それから

 まぁそんな訳である。

 スリーブドナードの魔物は大量に撃破された。

 魔物退治した対魔騎士クー・クラインと勇敢な兵士たち。

 その武勇は近隣に鳴り響いた。



「ウワサ、聞きましたで。

 イズモはんにクーはん。

 こんなハデなことすんなら、先に教えといてつかーさいよ」


 すぐに現れたのはうぃるっちであった。

 舞踊劇ページェントの座長で調子の良いおじさんである。

 出来るだけ詳しいことを教えてくれと俺に頼み込んで来たのである。



「そうは言われても……俺は参加していないし。

 詳しくは知らないぞ」

「ええでんがな。

 実際の話じゃのうてもネタになるような面白い話が聞ければそれで」


「ほっほう。

 スァルタム・クラインはいなかったんでんな。

 対魔騎士の中の対魔騎士ナイト・オブ・ナイツが不在でぴーんち!

 替わりにフェルディアッドとローフがいた……?

 誰でっか、それ」


「なんと……クーはんの兄弟子やけど、子供の頃からの犬猿の仲。

 もう一人は美形、ハンサムな男も必要や。

 そいで対魔騎士の中の対魔騎士ナイト・オブ・ナイツとスァルタムはんにクーが認められた。

 たまりまへんな。

 ほなら、こうしましょ。

 次代の対魔騎士の中の対魔騎士ナイト・オブ・ナイツの座を巡って争う三人の対魔騎士ナイト

 しかし、スリーブドナードに魔物が溢れていると知って、彼らは戦いを止め協力するのであった。

 みたいな……展開や」


「ん-、クーはんはこれでええとして……

 やっぱ話題性として、イズモはんの出番も欲しいわ。

 あんさん話題の人でっせ。

 多少は出番無いと客も納得せぇへん。

 なんか無いでっか?」


「俺は今回は何もしていない…………

 そう言わんと……

 妖精さんに頼んだ。

 しかも美女の妖精……?

 ええでんな、戦士を助ける美女の妖精」


 そう言えば……うぃるっちに頼もうと思ってたんだっけ。


魔法技士クラフツの少女……?

 ほしたらイズモはんの弟子ってことにしますわ。

 そいでしたら、イズモはんは影から魔物討伐を助ける大物っぽいカンジになります。

 ルピナス・エインステインはんですな。

 子供っぽく見えるけど、才能あふれる魔法技士。

 ええですな、人気出そうな人物や」


 そんな話をうぃるっちとして。

 瞬く間に舞踊劇ページェントとなって。

 国中に広まったらしかった。


 以前はセタント・クラインと言う名が有名で。クー・クラインはあまり知られていなかった。だが、今回はクーの名前である。

 美女将軍クーが英雄として知れ渡ったのだ。

 男どもにはもちろん大人気。

 女性にも、女なのに将軍なんて、かっこいい! として人気絶頂であるらしー。


 良いのかな。そんな国中に憧れられる女性が俺の奥さんなんて…………

 畏れ多くてビビッてしまう気持ちもあるのだけど。それでもクーと離れることは出来ない。俺はクーと別れたら生きていけないし。多分……おそらく……絶対にクーも同じ様に思ってくれていると信じている。



 そして、結果としてさらに貴族たちが、フェルガさんの側に着いたらしい。

 各地から貴族の使者がやって来て、フェルガさんはメチャ忙しそうにしている。最近は若い男性が来て、フェルガさんの手助けもしているらしい。


「マイヤー兄、貴族相手の交渉を手伝ってくれるのはありがたいのだが…………

 そろそろマクライヒ領に帰らなくて良いのか。

 領地を放って来ているんだろう」

「良い。

 フェルガのためなら、領地などどうなろうがかまわん」


「だぁああああっ!

 良いから帰れ、うっとうしくてかなわん」


 せっかく手伝ってくれた人をフェルガさんは追い出してしまったらしい。


「フェルガ、では一度帰るが……また近いうちに来るぞ」

「来るな!

 良いか、部下のもの。

 絶対に領地まで帰れよ。

 マイヤー兄が途中で何か言い出しても聞く耳持つな。

 もしも破ったら、私が許さんからな」



「はい、フェルガ様、間違いなく」

「……許さん、たってよ。

 オレらマイヤー様の配下で、フェルガ様の部下じゃ無いんだぜ。

 なんで、かしこまって言うこと聞くんだよ?」


「バカたれ、聞こえるぞ。

 ……良いか、マクライヒ家で一番敵にしちゃいけないのがフェルガ様だ。

 長兄のマーリン様も次兄も三男も、フェルガ様に夢中なんだ。

 フェルガ様に言われりゃなんでもするぞ。

 もしもオレらを殺せ、なんて冗談でもフェルガ様が言ったら、本当に殺されるぞ!」

「……分かった。気をつける」


 

 前に訊いた話だと…………国中の貴族の三分の一ほどがフェルガさんの味方。逆に言うと三分の二は敵。

 だったものが逆転したらしい。

 既に半数以上が味方。残り半分も様子見でどっちつかず。国王を表だって敵にはしたくないけど、鉱山やフェルガさんともつながっておきたい。

 本気で国王派はおそらく相当に少ない。


 フェルガさんはこんな風に言っていた。


「国王の親族はしょうがない。

 残りは王族と親交が深いだけで大した能力を持たない輩が多い。

 こっちに寝返っても、既得権力を奪われるだけと分かっているのであろうよ」


 そんなものかな。


「じゃあ、もう国王よりフェルガさんの方が大勢力ってこと?」

「そうだ。

 だが、私のでは無いぞ。

 私は仮に総督になっているのであって、本来のリーダーはお前だぞ」


 違いますよ。そんなの引き受けてないもん。


「リーダーでなくとも。

 私の勢力が伸びているのは、金属鉱石と魔石が以前以上に手に入っているからだ。

 大きい声では言えない秘密だが…………

 労働者たちが採取している鉱石よりイズモが持ってくる鉱石や魔石の方が多いのだぞ」

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