第126話 カブトムシ
「大きい声では言えない秘密だが…………
労働者たちが採取している鉱石よりイズモが持ってくる鉱石や魔石の方が多いのだぞ」
それを言ったのはフェルガさん。この鉱山の総監をしている。
そうなんだよね。それは…………他の人には言って欲しくない。
そこには長年閉じ込められていた
そんな魔石や金属の塊を俺の所に運んでくれるのは。口の堅い少年たちである。ヒルトンの街から鉱山にやってきた子供たち。
「イズモ様のご用事だよ」
「ナニをしてるかは秘密」
彼らは俺に感謝していて、仕事をしたい、と言ってきた。だから秘密は絶対厳守、と言い聞かせた上で手伝ってもらっている。
坑道で作業している労働者たちが無能なんじゃないよ。彼らはもちろん頑張っている。以前よりも作業効率は上がっていて、栄養状態も良いから労働意欲も抜群。どんどん掘り進めてくれている。
だけど、そんなの大っぴらにバレちゃうと…………労働者に意味が無い、とか、せっかく頑張ってるのに大したこと無い、みたいなー。誤解を生みかね無いじゃんか。故に今のところ秘密、ナイショ中のナイショにしている。
どこかで…………
「ダメ、絶対ダメ!
何度言ったら分かるの?
人々が見たら怯えて、パニックになってもおかしくないバケモノなの。
絶対他の人に見せるのはよしてちょうだい」
そうクー・クラインに言い聞かされている。
俺ってばクーには逆らえないしー。
それだけでもなくて、この世界の一般常識に関してはやはりクーの方が上だろうな、と言う冷静な判断もある。
「……それは本当に大きい声で言わないでね。
分かった。俺が鉱山の重要人物なのはギリギリ認めるけど…………
でもやっぱリーダーはフェルガさんね。
フェルガさんの方が向いてるよ」
「……オマエな…………
まぁ仕方あるまい。
ここまで来たら、私も逃げるつもりは無い。
たとえ王を退け、女王になるとしても、それくらいはやってやるさ!」
えええっ?!
フェルガさん、女王になるの。そっかー、王と戦って勝つとしたら…………そーゆーことかー。
ホッポ・ザムドさん。この鉱山の元所長の初老の男性は、常にフェルガさんのことを女王様と呼んでいて。それはちょっと別の意味も含まれていそうで怖かったりもするけれど。
しかし女王と言う名称はフェルガさんなら似合いそう。
さて他にも語らなければいけないこともあって。
セタントくんのことである。
俺は毎日彼の部屋を訪れている。
青ざめた顔の美少年でベッドに横たわっていて。
俺が唱えると目を開ける。
「ああ、イズモさん。
…………僕はまだ死んでいなかったんだね」
「……死にたいような言い方はよせ!
精神が弱ると肉体も弱る。本当に死んでしまうぞ」
俺の言葉には答えず、金髪の少年は薄く微笑む。その笑いにはどこか影があって。自分の死を受け入れている笑い。
クー・クラインによく似た顔が、そんな表情を浮かべるのを見て、俺は何も言えなくなってしまう。
それが毎日だったのだが。
今日は違っていた。
「そうだねー。
美少年が死ぬのは世界の損失だよ。
回復して欲しーな」
そう発言してくれた人がいた。小悪魔のような笑いを浮かべた
「グラシュティクさん、何故ここに?」
「えー、イズモ様ってば、他の妖精に魔物退治の手伝いさせたくせに。
僕には声かけてくれないんだもんな。
仲間外れにされたみたいで淋しいから来ちゃった」
特に仲間外れにした訳では無い。
「そうだねー。
僕はどちらかと言ったら、頭脳派、感覚派、芸術家向きで戦士じゃないよね」
「だから…………感覚派だからそろそろ馴れたよ。
そこに隠れている人。
出てきなよ。
もう分かるんだよ。
美少年が病に臥せって、死にそうになっているのは、アナタのせいでしょ。
病もたらす女神『黒き毒のバズヴ』さん」
グラシュティクさんがベッドの下、陰になった空間にそう言って。
その暗闇から人の姿が立ち上がった。
それは黒い髪、昏い瞳の女性であった。
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