第121話 帰り

 夕方。山がオレンジ色に萌えている。

 ザワザワとした物音に俺は気づかされた。山に進軍していた兵士たちが戻ってきたのだ。


「おっ、戻ったんだな」


 ルピナスも言う。

 あの後、ルピナスは大変であった。 延々とグチを言いまくる。


 あー、もう、あのスケベ中年め。私がイロっぽすぎる大人女子だから、劣情を催すのも理解出来なくは無いが。家でやれ、貴族なのだから第二夫人も愛人も作れるだろう。そこで発散すれば良かろう。

 脂ぎった手で私の肩や腰に触れおって、私の肌がベトベトになるだろ。鳥肌も立つからな。アブラドリだぞ。いやだいやだ。

 しかもやることが徐々にエスカレートしてきて、制服としてスカートを着用しなければ、使ってやらんとか言い出すし、食事の時あーんしろとか言い出すし。ついには着替えまで覗こうとするし。

 殺してやろうか、と何度思ったことか。なんであんなのが魔法技士クラフツなんだ。納得がいかん。

 しかも国でもトップレベルとして尊敬されてるんだぞ。そこで修行させてもらえるとゆーから、喜んだと言うのに。待っていたのはスケベ中年に手を握られる日々で、雑用ばっかで魔法炉には触らせてさえもらえなかった。むきいいいいいい。


 分かった。大変だったのは分かったから落ち着け。

 宥めるのが大変であった。本来ならば。

 キミはイロっぽすぎる大人女子では無い。ロリコン中年好みのロリ巨乳だ。しかもゴーグルを掛けているから眼鏡属性もある。メガネ、ロリ、巨乳の3点セット。そりゃろくでもない親父が興味を示すのも当然。

 くらいの言葉は返したかったのだが。ルピナスは本気でイラついていたし、彼女の言葉が真実ならほとんどとゆーか、まぎれも無いセクハラである。

 セクハラにあっていた女性には優しくせねばイカンだろう。


 うん、分かった。そんなのが魔法技士クラフツとして知れ渡っているのは間違っている。ルピナスの方が100倍は良い。

 自分がルピナスこそ魔法技士クラフツとして有能と世に広めても良いぞ。


「なんだと、そんなこと出来るのか?」

「うーん、多分なんとかなりそうな気がする…………

 やってみよう」 


 舞踊劇ページェントである。自分が庶民にまで名前を知られちゃったのはこの舞踊劇ページェントの影響であるらしい。

 そいで俺は舞踊劇ページェントのネタ造りを座長のうぃるっちさんに頼まれている。

 ならば。

 ルピナスをすげー魔法技士クラフツとして出演させることも出来そう。

 そう、それだ。そうすれば、俺が天才魔法技士クラフツとゆー話も薄まりそう。もっと早く思い付けばよかった。


 そーんな話をルピナスとしている時に、山に魔物退治に行っていた兵士たちが戻ってきたのである。


 大勢の兵士をフェルガさんが出迎えている。


「ご苦労であった。

 諸君らの働きで、鉱山も麓の街の人々も平和を取り戻せる。

 食事も用意してある。

 今宵は食事をして、汚れを洗い流して、ゆっくり休むが良い」


 兵士がおおおお、と歓声を上げている。

 やっぱ、フェルガさんには天性のリーダーシップがありそう。


「やったぜ、ここのメシすげー旨いらしいぜ」

「俺も楽しみにしてた」


「それよか風呂だよ、風呂。

 お湯に全身浸かるのなんて初めてだからよ。

 緊張しながら昨日試したんだけど、メチャ気持ちいいぜ」

「マジか。俺も試そう」


 ガヤガヤとした兵士の間を通り抜ける。と、見つけた。真っすぐな金髪の美少女、クー・クライン。


「クー、ご苦労様。

 ケガは無いか?」

「あっイズモ……僕は大丈夫だよ。

 なんのケガも無い。

 結構な数の魔物を倒せたと思う」



 俺とクーの目線が合う。分かってもらえるだろうか。親しい人相手だと視線を合わせただけで精神が触れ合った気持ちになる。クーは軽く口元に微笑みを浮かべたし、俺の口角も上がっている。


「今、兵士たちの点呼をとっている。今のところ兵士たちにも重傷者はいない。

 軽いケガや、川に落っこちて溺れかけたなんてのはいるけどね」


「そうか……なら良かった」

「うん。

 魔物がまた湧いてくるとしても、しばらくは安心して眠れるね」


 兵士たちが荷物を降ろしている。


「魔物は食堂の方へ運び込め。

 貴重な食材だ」

「ええええっ?

 魔凶鴉ネイヴァンはともかく、

 このくっさい半豚半馬ナックラヴィー食うんすか?」


半豚半馬ナックラヴィーの肉はメチャ旨いんだぞ。

 ただし内臓を傷つけないように注意しないといけないけどな。

 バラす時、内臓を切ってしまうと毒液が巻き散らかされて大変なことになる」

「うえええええ」


「第8班、異常ありません」

「ご苦労様」


「クー、こっちも全員無事やで」

「フェルディアッド、良かった。

 さすがね」


「こっちもじゃ」

「ローフも……上手く面倒みてくれたのね」


「かっかかかか。

 正面切って戦かわす経験積ませといたからな。

 ちょいとケガしたようなヤツはおるけど。

 やべぇキズは負ってないはずや」


「加減を知らないくせに……調子に乗らせるとローフは危険だな」

「なんやと、俺はちゃんとうまいことやったるわ。

 自分の部下を見殺しにしたりせぇへん」


「なら良いけどね!」


 フェルディアッドさんやローフさんに預けた兵たちも無事みたい。


「これで1班から20班に別動隊まで全員無事だね。

 あれ…………13班だけまだ報告が無いな」


 クーはまだ後始末で忙しそう。とりあえず彼女の無事も確認したし、一端作業に戻ろうかな。


「クー、俺は魔法炉のところで作業している」

「分かった。

 こっちも片づいたら行くよ」

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