第120話 ルピナスとフェーリン

 と、いう訳で俺は作業をしている。鉱山から届けられた金属鉱石を物にする。鍛冶屋ちっくな仕事。

 実際には小型魔法炉と言う機械を魔法石の欠片で動かして、中の金属鉱石を思った形へと変化させる。


「……イズモは魔物退治に参加しなくていいのか?」


 言ったのはプラチナブロンドの背の低い少女。ルピナス・エインステイン。


「ああ、もちろん。

 俺は作業員で戦士じゃ無い。

 戦いは兵士の人に、魔物退治は対魔騎士ナイトの人に任せるのがスジだろう」

「いや、まぁ……それはそうなんだが…………

 しかしイズモは以前、すっげぇ魔物を一人でぶっ倒したと聞くぞ。

 ウワサを聞いただけで、実際に目で見たのではないけどな」


 スリーブドナードは魔物の溢れている山なので、俺とて心配にならない訳では無いのだが。フェルディアッドさんにローフさん。二人の対魔騎士ナイトにも付いてもらったし。クー・クラインだっている。頼れるけど、たまにメチャ恐いウチの奥さん。

 一応妖精さん達にも頼んで、出来ればフォローしてあげて欲しい、とは言ってある。


「るぴなちゅちゃん。

 テキトーなウワサを信じちゃダメでちゅよー。

 あんなの騙すためのウソがたっくさん紛れてまちゅからねー」

「ちょうなのっ?

 わかった、るぴなちゅ、ウワサは信じない…………

 ではなーいっ!

 私は子供じゃない、と何回言わせるんだ」


 確かに何回もフッてるんだけど、その度にルピナスはノッてくれるからなー。


「だいたい、お前は魔法技士クラフツでも無いのに。

 私の小型魔法炉を勝手に使っているじゃないか。

 対魔騎士ナイトじゃないから戦わないも無いもんだ」

「あー、ごめん。

 兵士の人たちや作業員の装備を新調してあげたくてさー。

 でも、ルピナスの方に使う用事があるなら、もちろんそっちを優先していーよ」


「いや……いい。

 私の方に特にどうする用事がある訳でも無い。

 むしろ、こうしてイズモ発案の魔法武具クラフト作成に力を貸していた方が修行になるし。金属の勉強にもなる」

「ありがとう。

 もしかしたら、大型魔法炉が手に入るかもしれない。

 その時は…………この魔法炉は返す。

 いや、むしろ大型魔法炉を使うのに……ルピナスの手を借りたい……かな」


「なんだと?

 大型魔法炉が手に入るアテが出来たのかっ?」

「うん……トリンダーさんが言ってた」


 トリンダーさんとは…………トリンダー・フェーリン。大貴族フェーリン家の三男さん。この鉱山とは対立する立場だったんだけど、セタントくんと仲良くなって。現在はヒルトンの街の議長となり、力を貸してくれている。


「フェーリン家には何台か、大型魔法炉があるんだってさ。

 それを提供してくれるかも」

「フェーリンが?!

 ウソだろ、あそこの人間はそんなお人よしじゃない。

 何かウラがあるに決まっている」


「なんだか……ルピナスはフェーリンのことになると厳しいな。

 なにか知っているのか?」


 以前なんと言っていたかな。なにかルピナスから聞いた気もする。

 そうだ。ふもとのヒルトンの街。あそこは元々、ルピナスの実家の領地であった。それをフェーリンにだまし取られたと聞いたんだった。 

 街を取り返したのか、と訊いたら。フェーリンは大貴族で街の運営に慣れている。ウチの親がやってももっと混乱する可能性が高い。だから復讐ような気持ちは無いと言っていた。

 とは言っても人間の感情は複雑だ。まだ引っ掛かりはあるのだろう。

 ヒルトンの街に孤児が溢れて、犯罪が増えている。そう聞いた時なども物凄く怒っていた。


「フン、気にするな。大した話じゃない。

 でもあそこの長男も党首の父親もろくな人間じゃ無いのは本当だ。

 気をつけた方が良い」

「そうなのか…………

 長男さんがここに来ると言う話なんだが…………」


「ファスターの変態が?!

 な、なんでそんな話になっている?」


 フェーリン家は昔から魔法技士クラフツを輩出している家系らしい。

 それで長男のファスター・フェーリンさんが魔法技士クラフツになっている。大型魔法炉の所有者も彼。

 兄貴、一台くらい融通できないかなー。とトリンダーさんが訊いてくれたらしい。

 それでフェスターさんはこの鉱山の魔法炉使用状況を見に来るらしい。状況によっては大型魔法炉を譲ってくれる。


「と言う話なんだ」

「いやだ。私は逃げる。

 いや、逃げている場合じゃ無いか。立ち向かわねば…………

 ううっ、しかし、立ち向かおうにも、あの助平はまともな道理が通じない。

 思い出すだけで鳥肌が立つから…………

 るぴなす、こわいんだじょ。

 逢いたくないんだじょー」


「落ち着け、ルピナス」


 俺がフり過ぎたせいかもしれないが。たまにルピナスはフッてもいないのに、幼女化を起こすようになってしまった。

 普段のルピナスは背こそ小学生並だが、理知的で、態度など俺より偉そうなのだが。現在はでっかい涙のしずくを目のはしに浮かべているのである。


「長男さんになにかされたのか?

 その怖がりようは尋常じゃないぞ」

「あの……変態は…………

 なにかにつけて私の手を握るんだ。肩に手は置くし、それで逆らわないでいると、抱き寄せられるんだ。

 だから振り払って、後ろを向いていると『怒った顔もキュートだね」などとほざいて尻を撫でやがるんだ。

 ああああ、思い出さないようにしていたのに……思い出してしまった。

 見ろ、全身に鳥肌が立っているぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る