第114話 魔物退治

 まー、そんな訳で5千人の兵士はクー・クラインの指揮下に入った。とりあえず、スリーブドナードの魔物を退治して戴く。


 フェルディアッドさんとローフさんは言っていた。


「俺ら毎日働き詰めなんやで、なのに魔物が減った気がせぇへんねん」

「マジやで。俺はバケモン毎日ぶっ倒せてうれしいけどなぁ。

 そいでも10匹近く、毎日狩ってるのに、全然減らんわ」


 金髪ロン毛の美青年のフェルディアッドさん。口を閉じていれば正統派ハンサム。口を開けると陽キャ、チャラ男、男の敵。

 痩せぎすで背が高い言動のローフさん。口を閉じようが開こうが、目つきがキツいチンピラじみた言動の男性。


 この二人の対魔騎士ナイトに俺はスリーブドナード鉱山の留守を頼んだのである。

 それまでは俺が魔物退治していたんだけど…………

 対魔騎士ナイトって魔物退治の専門家であるらしい。スズメバチバスターズみたいな。俺は専門家じゃない訳で、専門家にまかせてしまいたいじゃん。

 だけど。

 一日5体~10体かー。それじゃゼンゼン駄目。ガイチュウが増えるに決まってるよ。一日に30体から50体は倒しておかないと。

 足りない分、適度にヘルラさんや他の妖精さんもガイチュウ駆除手伝ってくれたらしい。

 それでも、スリーブドナードの周辺の魔物の数は増えまくっていた。

 そこに5千人の兵士が来たのだ。それは魔物を退治するっきゃないでしょ。


「無理に手伝わなくて良い。

 ただ、人々に危険が及びそうだったら俺に知らせて欲しい」


「うん、任せておいてっ」

「分かりました。イズモ様」

「ぐるっぐるるるるる【私は人間どもの宿舎を作っていて眠いのだ。帰っていいか?】」

「分かったんだわさー」


 最初の弾むような声は蛙乙女妖精アスレイさん。

 次の声が海豹妖精セルキーさん。

 乗り気でないのが毛むくじゃら妖精フェノゼリーさん。

 次はおなじみのちみっちゃい子。


妖精少女パック、フェノゼリーさんを住み家まで送ってあげてくれ」


 彼女には5千人分の宿舎を超特急で作り上げて貰った。これ以上無理をさせるワケにはいかない。



 兵士たちはスリーブドナードの山に進んで行く。


「俺たち…………最初は鉱山の連中を倒す……って話じゃなかったっけ?」

「知らん。俺は魔物を退治するって言われたぞ」

「そうかな、王の命令で鉱山を乗っ取った連中を倒してこい、とか言われたような…………」

「だから、魔物がスリーブドナードの山を乗っ取って、鉱石を採油する作業が進まない、ってことだろ」


「まー、いーんじゃねーの。

 エメル王女が良いって言ってるんだし」

「どっちにしろ、魔物は人間の敵だものな」

「同じ人間を敵にするより、気分が良いよな」


 兵士の中にもおかしーな、と思う人間はいたようだが。なんとなくみんな従ってくれた。


「にしても……全員に新しい金属武器と防具が配られるなんて」

「すげぇ太っ腹だよな」

「新品の金属武器なんて俺ハジメテだぜ」


 兜はなんちゃってステンレス製。盾は木製に周囲を金属で囲ったもの。鎧はチェーンメイル。それから、槍。


「この槍さー、中央に魔石みたいのが入ってないか」

「まさか、魔石じゃないだろ」

「アタリマエだ、親指大だぞ。本物なら俺らが一生遊んで暮らせる品だ」


「でも……この煌めき…………ただのニセモノとは思いにくいんだが」

「アホウ、見慣れないからそんな風に思うだけだよ」

「うん、まー、そうだよな」


 槍には刀身に魔石【親指大】を埋め込んだ。


「イズモ…………ナニ考えてるの?

 魔石から魔力プシュケーを取り出して使うのは対魔騎士ナイトしか出来ないんだってば」

「それは聞いたけど…………

 気休めくらいにはなるかと思って」


 どうなんだろう。俺は対魔騎士ナイトでも魔法技師クラフトでも無いのだが。魔石から魔力プシュケーとやらを貰って利用している。

 イーガンやオーラムくんに魔石を刀身とした武具を貸したところ、身体強化ストレングス速度上昇アクセルに近い使い方をしていた。彼らが若くて器用なのかもしれないが。

 もともとフツーの人間にもある程度、魔力プシュケーを扱えるのではないだろうか。

 ただし、魔石は貴重で高価な品。だからその利用者は特に魔石の扱いの上手い人間に限定された。そんな人間たちが対魔騎士ナイトとして呪術師ドルイドとして、貴族になっていったのではないだろうか。

 これはアクマで、そうじゃないかなー、と俺が想像しているだけで。実際の事なんて歴史家でも研究者でも無い俺に分かる筈が無い。

 しかし、この予想があっていれば、フツーの兵士たちも魔力プシュケーを多少は使える。そうなれば…………魔物との戦いの際、お守りくらいにはなる、と思ったのである。


「はぁ……まぁ良いわ。

 イズモのやることにイチイチ反応していたら身がもたない。

「あっ、クー。くれぐれも言っておくけど…………」


「シャナ湖のことね。

 分かったわ、絶対近づかないようにする。

 にしても、イズモがそんなに慎重になるなんて…………

 一体何が在るって言うの?」


 あの湖に『赤きたてがみのマッハ』が出ると言うウワサはあるが、あまりみんな本気にしていない。

 俺も狂った女神に関して詳しく説明はしていない。

 今となっては本当にあの危険な女神にあったのかさえ怪しく思える。俺、悪夢でも見てたんじゃ…………


「とにかく、注意して欲しい。

 あの湖は危険なんだ」

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