第103話 大声
「……3びゃくまん……」
3000000。もうコンラにはなんだか分からない数字だ。300万人分の戦力。それは…………確かにスァルタム・クラインにも何も出来ないのだろう。数字の暴力の様。その数字に表された強さのバケモノがやって来る。
いつの間にか座り込んでしまっていたコンラ。
腰が抜ける、とはこういう状態の事を言うのか。自分の体から下半身が無くなったみたいに麻痺して立てない。
「そんなのって…………」
「震えておる。
スァルタムが震えるほどなんか」
「それでは……自分達にはどうしようも無い」
クー、ロイガーレ、コナルの台詞だ。三人とも目を見開いて、何が何だか分からないと言う表情。
強大すぎる力にどうしていいか分からない。コンラもそうだ。スァルタム・クラインですら手が出せないと言うのなら、自分には何も出来ない。
「なによ、それって……なんなのよ。
なんでこんな所で急に……そんなバケモノに逢わなきゃいけないのよ」
エメルも座り込んでいる。スァルタム・クラインの言葉と周囲の
少しばかり可哀そうにすら感じる。
確かにこの王女には荷が重い事態。こんな状況、予想した事も無いだろう。
コンラは一応は軍人だ。最悪の状況に陥ることは常に予想しておけ、などと言われている。
それでも。
ただでさえ強大な魔物が。
凶化され、
そんな状況は予想出来る筈も無いが。
自分以上に動揺しているエメルを見たおかげか、コンラには少しの余裕が戻ってきつつあった。
すると、すぐに行動を起こさなければいけない事態が見えてくる。
「兵たちだ。
兵士たちを逃がさないと…………
3千人がこの場で死に絶えるぞ」
「……そうだ、父親。
彼らを何とかしないと」
「そうじゃな、わしらはなんとでも逃げられるじゃろうが」
「すでに村人は避難させている。
兵たちをどうにか……」
と思い出してみれば、兵士たちは混乱している。
近づいてくる凶化されたバケモノの群れに気づく者すらまだいない。
数体の先行してきたクァルンゲの雄牛にやられ放題にやられて、バラバラになっているのである。
「んー、こりゃひどいな。
全員メチャメチャに混乱してるじゃねぇか。
こんなのを一緒に行動させて逃げろと指示を出す、なんて出来っこねぇぞ」
「そりゃ、分かってる。
だけど、なんとかしないと……
スァルタム様、あんた一応この兵士たちの副将を引き受けたんだろ。
じゃ、なんとかしてくれよ」
「ん-、あのよ、ロイガーレ。
おまえ、大声を出す特技あったじゃんか。
アレどうやるんだ?
コツを教えてくれよ」
「ん、こんな時になんじゃ。
アレはな、土の
自分の喉と腹のの中じゃな。
ほれ大きく息を吸うには腹の力を使うじゃろ。
そこが強くなる、強くなると念じるんじゃ。
そうすりゃ何とかなる」
「喉と腹の中ね。
やってみるか…………」
スァルタム・クラインは何やら意識を集中している様子。そこに金髪の少女が近づく。
「
使う?」
取り出したのはやたらデカイ魔石。拳のサイズくらいはあるのでは…………まさかな、あんな大きさの魔石があったら、国宝ものだ。
「おおっ、変にデカイじゃねぇか。
使って良いのか?」
「うん、イズモからの預かりものだけど…………
好きに使って、と言われているから」
「イズモ…………へぇ。
それじゃ、遠慮なく行くかね」
スァルタム・クラインが目を閉じて
「……すごい。
一気に
「スァルタムの奴は、元から
いきなり音を立てて、
「わっ、わわっ、イズモから預かったのに?!」
「うぉいっ、そのデカイ
それ国宝もののサイズじゃないのかよ?!
「?!?!?!」
「あー、
周囲の人間が騒いでるのも、まったく知らぬげにスァルタム・クラインは息を吸い込む。
それは空気を裂くような大声であった。
「聞こえるかぁ?
俺はスァルタム・クラインだ。
知ってんだろ。
この軍の副将ってヤツだ。
いいか、お前ら。
全員、協力して走れ。
他の事は何にも考えるな。
あの丘が見えるな、あそこにクラインの屋敷がある。
そっち目掛けて全速力で走れ!
ケガ人がいたら隊長が担いで行け。
他の一般兵より高いゼニ貰ってんだ。
その位はなんとかしろよ。
重い武器や防具なんか捨てていけ。
高いかもしれんが、まぁ後で誰か弁償してくれんだろ。
してくれなくとも、命の方が大事だわな。
って事で、一目散だ。
全員行けやー-っ!!!!!」
それは一人の人間が出す音とは思えなかった。クァルンゲの雄牛に襲われて混乱している兵士たちにすら響き渡った。
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