第10章 副所長の情報
第97話 パーフェクトヒューマン
俺は宿舎で一時間ほど眠った。
爽やかに目が覚める。昨日はハイキングはしていないが、害虫退治して、温泉に浸かって、冷やした紅茶を飲んで、ブラウニーさんの作ってくれたクッキーとサンドウィッチを食べたのである。久々にマトモな料理を食べた俺はそれだけで満たされた気持ちになって気持ちよく寝てしまった。
毛布から出る際に少しだけ胸が痛む。横に金髪の子がいない状態にまだ俺の胸が納得していない。
食堂に今日は行かないでおこう。せっかくサンドウィッチ貰って来たのに、いつものカビ生えたパン食べてられるか。
その分の時間、売店の少し先ルピナスの作業場へ行ってみる。
「あれ、999番どうしたの?」
そこには金髪の美少年が居た。
「いや、ここで朝メシを食おうかと」
「ここで?
なんで」
「オマエこそどうしたんだ?」
「ルピナスが食事持ってきてくれるって。
まだ僕は正式に認められた訳じゃ無いからさ。
監視達が食べてる場所には近づかない方が良いと思って……」
「なら……良ければコレ食べないか?」
俺は貰ったサンドウィッチを取り出していた。
妖精のマント。これに食事を入れていいのか。俺はイマイチ確信が持てずにいたのだが、ブラウニーさんのお墨付きを貰った。
「あのマントの内部は
食べ物をしまっておくには最適でしょう」
俺が取り出した皿に金髪の子は驚いていた。
「えっ?!
どこから取り出したのさ。
ずっと持ってた?
…………うそっぽいな。
まぁいいや。
こんな御馳走、どうしたの?
ホントに食べていいの、なら丁度お腹空いてたし、貰うけど……」
「おっいしーーーー!
何これ、クライン家にも一応お抱えの料理人いるんだけど。
その作る料理を間違いなく上回ってるよ。
パンで具材を挟んだだけの単純なモノなのに…………
素材が良いんだね。
パン自体がものすごく美味しい。
その辺の貴族のパーティーに供される物より上等なんじゃないかな。
野菜も新鮮で見た目も良いし、このハムとチーズもレベルが高い。
久々に美味しい物を食べたよ」
「クーもそう思うか?
俺も感動した。
食べただけで泣きそうになってしまった」
「泣くのは……さすがに大げさじゃない?
ああ、でもイズモはわたしよりずっと長くここのご飯に耐えていたんだものね。
それは感激してしまうのかも」
「正直に言うと…………
泣きそうになったと言うか、泣いた。
完全に涙がこぼれてしまった」
「あはははははは。
イズモの涙。それは見たかったわ」
「いやだ、クーの前で涙を見せられるか」
「なんで?」
「……カッコ悪いだろ」
俺はクーの顔を見て、彼女も俺の目を見ていた。彼女の口元が軽い笑みを浮かべる。
「カッコ悪く無いと思うわ。
久々に美味しい物を食べて涙が出た。
いいじゃない。
いつもイズモはなんだか…………
完璧すぎる気がしていて、そのくらい動揺を見せてくれた方が……」
「俺が……カンペキ?」
カンペキって……PERFECTの完璧?!
俺がPERFECTのワケ無いじゃん。この世界の事良く分かって無いし、ここの強制収容所の事もさらに分かって無いし。すぐ動揺するし。
さらにコレはクーには気づかれちゃイケナイ事だから、気づかれてなくて良かったんだけど、すぐちょっとエロい妄想をしてしまう、アオハルな男の子だし。
「そうよ。
イズモは悔しいくらいカンペキだわ。
あんなキツイ労働をしても、平気な顔をしていて、いつもわたしを助けてくれる。
食べ物がいくらひどくてもグチ一つこぼさなくて、むしろわたしにお肉を分けてくれて。
監視や労働者に絡まれても全く動じなくて、私を守ってくれる。
わたしとほとんど年も変わらないのにスゴイ。
すごすぎる人だわ」
違うー。絶対違うよ。
仕事に関してはさー。
食べ物に関しては少しフシギだ。俺、この前まで感覚がマヒしていたみたいなんだよな。イロイロな事、坑道の埃や食堂の汚さ、ご飯のマズさ、全部以前は気にならなかった。ところが一昨日からすべてが変わった。あの狂った女神に逢って、半分くらい寝ぼけていた日本人としての感覚が完全に目覚めてしまった。
それだ。
この違和感の正体。
俺は
半分夢の中の様な気持ちだった。
俺が999番と言う青年なのか、出雲働なのか悩んだりした。
坑道の埃っぽさにはモチロン気づいていたのだが、大して気にならなかった。メシのまずさも味がしないとは感じていたが、苦に感じて無かった。
前世の記憶を取り戻した人、日本人で異世界に生まれ変わった人の一般的な状態が分からないから何とも言えないが。
俺は
俺はビックリした状態だったんじゃないだろうか。この世界の俺と出雲働である俺の意識が上手く重なって無かった。意識の焦点が結ばれていなかった。
その焦点がピッタリと合った気がするのだ。
ちょっとずつ時間経過とともに合って来たのかもしれない。
それともあの女のせいかもしれない。
『赤きたてがみのマッハ』あの女神の鬼気を叩きつけられたせいで、俺の意識がシャンとしたのかもしれない。
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