第96話 料理

 俺は今夜の作業を終えて地底空間のリビングでお茶している。


 妖精女王ティターニア様の気配で妖精少女は騒いだ。


「行くんだわさー。

 硬い地面なんてぶち壊すなのよー。

 もう一気に行っちゃうんだわさー!」

「落ち着きなさい、妖精少女パック


 だけど、お掃除妖精ブラウニーさんが止めた。


「すぐ下に妖精女王ティターニア様が居るとしたら、力任せにすれば妖精女王 《ティターニア》様にだって身の危険があるかもしれません。

 ここは慎重に行きましょう。

 ご主人様ももう疲れています。

 一度休んで英気を養って挑みましょう」


「むー、まどろっこしいなのよー」


 妖精少女パックは悔しそうであったが、元々この場所にたどり着くまでに数か月かかっている。冷静に考えれば、一日待ったからってどうと言う事はない。

 

 今日は結構掘り進めたと思う。前以上に俺の身体が強くなっている気がするのだ。

 17歳だし、成長期だし、日々労働して、ヤキトリ食べて、先日は豚肉も食べた。俺の肉体は一回り成長している。

 働いてかいた汗を温泉で洗い流した俺は、自分の肉体を見てそう思ったのである。


 温泉を出た俺にお掃除妖精ブラウニーさんが冷やした紅茶とクッキーを出してくれる。

 これ、これ!

 楽しみにしてたんだ、甘いモノ。

 俺はお茶を一口飲んでから、クッキーをかじる。

 丸く焼き上げた上品な物体。二種類あってチョコらしい色のと、普通の黄色いヤツ。

 うまっぁああああああああああああああ。

 サクッとして、舌の上でホロっととろける。残るのは上品な甘み。お次はチョコレート色。

 いっけるうううううううううううううう。

 こっちは軽くビターが効いていて、でも甘みも強くてバランス良い。

 忘れてたっ!

 スイーツってこんなに旨かったんだなー。


「ご主人様、あのなんか泣いておられる様にみえるんですが…………」


「俺はカンドーしているんですっ!

 美味い、美味すぎる。じゅう〇んごく饅頭か!

 とにかく、すげー久しぶりのクッキーなんです」


 鉱山で昼食用に氷砂糖みたいの貰っていたけど、アレは舐めるとドロっと甘みがあるだけ。疲れた体には良いんだけどさ、味もそっけも無いんだよな。


お掃除妖精ブラウニーさんの料理は素晴らしい!」


 俺はちみっちゃいメイドさんを褒めちぎった。お掃除妖精ブラウニーさんも満更じゃ無さそうな笑顔を浮かべる。


「あらぁー、ご主人様ってば正直者。

 良ければ、これも持って行きますか」


 ちみっちゃいメイドさんが見せてくれたのはサンドウィッチ。色とりどりの具が煌めいて、真っ白い柔らかそうなパンに挟まれている。


「欲しいっ!

 欲しい、欲しい、ほぉしぃいいいいいいいいい」


妖精少女パックに訊いたら、朝ご飯はご主人様の家でお食べになっていると言うので、今日の昼来る方用にご用意してたんですが…………」


「じゃ、俺が食べちゃまずいな」


「大丈夫、まだ時間はありますからその分は別に用意しますわ。

 ご主人様は好きなだけ召し上がってください」


 俺はこらえ切れずに、一個口に放り込んでしまった。赤い野菜がサンドウィッチの断面から見えている。トマトとハムにチーズも付いてる。

 ぐはぁああああああああああああああああっ!


「美味しい!

 パンが柔らかい。

 野菜も新鮮、ハムとチーズの塩っけもたまらない。

 少しマスタードも効かせてますね。

 さいこーっす。

 ビバ、お掃除妖精ブラウニーさん」


 なんかもー、違い過ぎる。収容所で食べてるメシはアレはエサとでも呼ぶべきもの。コレは天上の美味だろう。


「すいません。

 コレ皿ごと貰っていっても良いですか?」


 図々しいけど、俺はブラウニーさんに訊いてしまう。

 だって、だって……旨いんだもん。


「イズモ、普段どんなご飯食べてるのなのよ?」

「ご主人様、普段いったいどんなお食事を?」


 まー、嚙み切れないパンと具の無いスープかな。たまにパンはカビ生えてたりして。アレがフツーな様な気がしてしまっていたが、久々に旨いモン食べて分かった。

分かってしまった。アレはひどい。マトモな人間が食べるものでは無い。


 なんとなくこの世界の食事はあんなンがフツーと思い込みそうになっていた。イケナイ、イケナイ。セタントだって、味がしないと文句を言っていた。本来この世界だって美味しいモノも旨い料理もあるのだ。あの収容所がレベルの高い料理と縁が無かっただけである。


「持って行ってください。

 こんなサンドウィッチ程度で泣くほど感激されるとは。

 ご主人様が不憫でなりません。

 これからは毎日私たちがお料理御馳走しますからね」

「サンドウィッチ食べるだけで、泣き出すとはだわさ。

 イズモがヘンなのには慣れたつもりだったけどなのよ。

 さすがにビックリするんだわさ」


 気が付くと俺の目からは涙がこぼれていた。

 えーーーっ?!

 自分で自分にビックリするな。泣くほどなの。

 どれだけ、俺粗食に耐えてたんだ。

 むぅ、思い返してみると確かにヒドイ。エサばっか食わされてた気がする。

 そりゃ、クッキーやサンドウィッチ食べただけで泣きそうになっちゃうよなー。


 ちみっちゃいメイドさんは、俺が泣いてるのにいたく同情したらしい。やってやるわ、と拳を握りしめて決意の表情。


「ご主人様、安心してください。

 妖精少女パックからヤキトリの材料も預かってます。

 フツー、我々妖精は植物や果物しか調理しませんが。

 ご主人様のためです。

 お肉も加えて、タップリ作って差し上げます」

 


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