第95話 妖精女王の気配

 俺の視界に金属の巨人メタルゴーレムが数体現れている。

 コイツラなんて既に害虫程度でしか無いのだが、だけれどもその重量はホンモノ。フェノゼリーさんや仔ジカの居るリビングを踏みつけられたら困るんだよね。だから俺は少しばかり焦っている。


「な、なななななななななななななななななななななななななななななななななな」


 フェノゼリーさんは固まっちゃってる。どいた方が良いって言ってるのにな。


妖精少女パック、行くぜっ」

「あいあいさーだわさっ」


土木作業用円匙地獄の炎熱光線シャベルヘルファイヤビーム


 俺の愛用のシャベルから光が放たれる。金属の巨人ゴキブリはあっという間に腹がドロドロと溶け出す。


 ちみっちゃい子が飛び回るので俺も後を付いて回る。


「エイっなのよ」

「うりゃっだわさ」


 掛け声とともに魔法石を金属の巨人メタルゴーレムを奪い去る妖精少女パック。俺はその度に受け取って妖精のマントへと放り込む。


 あっと言う間に4体の動かない金属の塊の出来上がり。この金属も回収するつもりなのだけど、ちょっと待った。

 逃げようと右往左往している石の巨人コバエども。自分達しかいなくなって怖くなったんだな。だったら最初から襲って来なきゃ良いのに。

 こんなんでも2メートルはある岩の塊だ。仔ジカちゃんにとっては大迷惑だろう。

 潰せる時にまとめて潰しといた方が良い。


筋力強化ストレングス


 俺は土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルを力任せに振り回す。あんま丁寧に腹を狙うとかメンドくさい。

 半壊になった石の巨人コバエを積み上げていく。


「ちょっとー、魔法石が見えないとあたしだって取り出せないなのよー」


 ちみっちゃい子が文句を付ける。

 もう、メンドくさいなー。数体積み上げた石の巨人コバエを上から一気に叩き切る。ほとんど中央部が壊れた筈。


 これで全部ツブしたかな。妖精少女パックが回収した魔法石は大量。これでルピナスやフェルガ副所長への交渉材料が増えた。まー、すでに大量に持っているんだけどな。

 おっと、まだ一体残ってたみたいだ。

 ウロウロと逃げ回る石の巨人コバエ。仲間がみんな倒されて心細げ。少し哀れみを誘われちゃうけど、害虫だし仕方無いよね。


 俺が逃げる石の巨人コバエをツブそうとすると、誰かがコバエの前に立ち塞がっている。

 長い毛で覆われた人影。


「何事ですか、コレは!」


 石の巨人ゴーレムが重い腕を振る。風の鳴る音がする拳ををがっと受け止めたのは、毛むくじゃら妖精フェノゼリーさん。

 

「やはり、強い。

 石の巨人ゴーレムは強い魔物です。

 体は固く重く、こちらの攻撃を受け付けない。

 また、その重さの乗ったパンチを受ければ、通常の人間など一撃で倒れる」


 と言いつつ、受け止めちゃってるじゃないの。

 フェノゼリーさんの腕からは筋肉が音を立てて盛り上がる。布の服でも着ていたならハジケとびそうなフンイキ。


「現在、私が互角以上に戦えているのはこの地下空間に妖精女王ティターニア様の魔力が横溢しているおかげ。

 妖精女王ティターニア様の魔力を借りて、妖精王オウベロンの加護を受けているからこそ、この石の巨人ゴーレムと戦える」


  フェノゼリーさんが力強い宣言を放つ。同時に石の巨人ゴーレムの図体が持ち上がっていく。

 そのまま岩壁に叩きつけられる石の巨人ゴーレム。図体の一部が欠けているがまだ抗う。巨体にフェノゼリーさんが体当たり。毛むくじゃらの身体ごとぶつかる。

 ついに石の巨人ゴーレムは半壊。大きく割れているが、手だった部分がまだ少し蠢く。


「それでもっ。

 いくら妖精女王ティターニア様の魔力を借りていても、金属の巨人メタルゴーレムの様な凶悪な魔物には勝てないっ。

 だと言うのにっ。

 貴方は人間の分際で一体どうなっているんですかーーーーっ!!!」

 

 妖精少女パックがまだ動いてた石の残骸から魔法石を取り出し、こちらに飛行して持ってきてくれる。


「サンキュー、これは青魔石サファイヤだな」


 俺は重さでフラフラしてるちみっちゃい子から魔法石を受け取ってしまう。



「私の話を聞いてるんですかーーーーっ!!!!!」


 え? 俺?

 フェノゼリーさん、顔が髪の毛に隠れているので、どっちを向いているのか分かりづらいな。

 どうも俺に話しかけているっぽい。


「えーと、土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルの事でしたっけ?

 実はシャベルは土木作業用がメインではあるんですが、正式に軍にも採用されていた兵器なんですよ。

 俺が戦えてるのはこの土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルのおかげですね」


「………………違う。違います。

 そういう話をしてるのではありません。

 ……………………もう、いいです。

 話すだけ無駄な気がしてきました」


 頭を横に振っているフェノゼリーさん。

 髪の毛が乱れて、顔が見えてる。やっぱり美人さんだな。眉を寄せて悩んでるような顔が似合う。憂いの美女。


「ぐるぐるるるるるるるるるる、ぐるぐる」


 俺の視線に気づいたのか、顔を又毛の中に隠して唸りだしてしまったフェノゼリーさんなのだった。


 それはそれとして。

 害虫退治して、気分良く仕事を続ける俺。

 フェノゼリーさんは帰ってしまったのだが、ちみっちゃい子とちみっちゃいメイドさんが応援してくれる。


「がんばれーなのよ」

「ご主人様、頑張ってください。

 終わったら、お茶とクッキーが待ってます」


 クッキー!

 やっほー-い、久々の甘いもの。

 しかも! 女性の手作り! 母親じゃない女の人が作ってくれたクッキー、であってしかも俺の為に作ってくれた、とゆーお宝。記念すべきシロモノかもしれない。


 岩を掘り進める作業もメッチャ力が入る。

 今や、俺はリビングのある地下空間から相当な地下まで進んでいる。先日アスレイさんに手伝ってもらった事でかなーり効率よく進んだ。

 シャベルが手に入った事、俺の肉体も成長した事、筋力強化ストレングスを器用に扱える様になった事。全部合わせて、以前より掘削作業をスピーディーにこなせる様になっているのである。

 

 しかし、イキナリ地面が硬くなる。

 筋力強化ストレングスをかけた俺がシャベルを使い全力で突き刺しているというのに歯が立たない。



妖精少女パック、これは?!」

妖精女王ティターニア様の気配が強くなってるんだわさ」 


 ブラウニーさんがメイド服で驚きの声を上げる。パックがそれに応える。

 俺も少し感じていた。ポケットに入れている、妖精のマントが温かくなってる気がする。


「そこの地面、すごくイヤな雰囲気なのよね」

「多分、ほとんど鉄で出来ているんです。

 鉄は妖精は通れない。

 妖精の気配だって本来通さないはずなのに…………」

「なのに、こんなに妖精女王ティターニア様の気配がするって事はだわさ」


「「もう、妖精女王ティターニア様が近い……

 って事ですわ」

 って事なのよ」

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