第94話 な、ななななな

 俺が動き出すと、暗がりで音がする。

 多分石の巨人コバエが出す音。コイツらは俺を恐れて、リビングから離れ暗がりに潜んでいたらしい。

 俺が歩き出して、近くに来たのでワタワタ逃げたのか。

 

妖精少女パック、昼間は石の巨人ゴーレムに襲われたりしなかったのか?」


 今まで昼はこの場所に誰も居なかった筈なのだが、今となっては仔ジカがいる。

 妖精少女パックの呼びかけで、ちみっちゃい妖精メイドや他の人たちが交替でメンドウを見に来てくれる事になったのだ。


「ん--、少しだけなのよー。

 出たのは毛むくじゃら妖精フェノゼリーちゃんが何とかしてくれたんだわさ」


「ぐるぐるぐぐぐるるる」


 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんはまた人間の言葉を使わないモード。

 なんとなく雰囲気から察するに。


「トーゼンです。

 仔ジカは私が守ります。

 アナタの事までは面倒見ませんけど」


 と言ってる様な気がしないでも無い。

 

 俺に巨人狩人ゴーレムハンターの称号が付いて以来、石の巨人コバエどもは襲ってこない。むしろ逃げていくのである。金属の巨人ゴキブリが何体か発生し群れて強力になると襲ってきたりする。


 現在俺は地面を掘り進めていて、上の空間が見えない。だけど金属の巨人ゴキブリっぽい音がしている。5メートルあるデッカイ鉄の塊が歩いてるのだ。その振動音も伝わってくる。


 鉄の重さってどの位だったかな。7.8×鉄の長さ×幅×厚みで合ってたよな。もう忘れっちまうよ。あの金属の巨人メタルゴーレムどの位だろう。高さ5メートル、横幅2メートル、厚み0.5くらいか。

 とすると……3900キログラム。およそ4トン。

 マジか?!

 そんなの俺いくつか妖精のマントに入れてるの。よく俺動けるな。マントに入れると重さは感じないんだけれども。

 そりゃ地面も振動するよな。


 上からは緊張する雰囲気が伝わる。


「ぐるっぐるるるるるるぐるうる!」

【これは……金属の巨人メタルゴーレムだとっ?!】


 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんの声は緊迫した響き。内容は俺のアバウトな翻訳だけど、そんなに間違って無いと思う。


ピィーー、ピィピィ

【お父さん、怖いよ】


 仔ジカちゃんの怯えた様な叫び。

 待てっ、今すぐお父さんが行くぞ!


速度上昇アクセル


 俺はヒョイっと掘っていた穴からジャンプ。目の前では金属の巨人メタルゴーレムの前に立ち尽くす毛むくじゃら妖精フェノゼリーさん。


「バカですか。なぜ出てくるんです。

 貴方が多少強いと言う話は妖精少女パックから聞いてますが……

 金属の巨人メタルゴーレムは人間が敵対出来るレベルじゃ無いんです。

 いや、今はそんな場合じゃないですね。

 私は死に物狂いでコイツを止めます。

 貴方はその仔ジカを連れて逃げてください」


 俺の方を振り向きもせず言う女性。毛だらけで表情は分からないが、その体からは気迫の様なモノが漏れ出している。



「偉大なる妖精の王オウベロンよ。

 我に力を貸したまえ。

 この不出来な娘に貴方様の慈悲を」


 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんは膝まづいている。下半身から白い足が伸び、折り曲げられている。儀式の様な言葉を捧げている。



「この空間に漏れ出た魔力がわかりますか。

 貴様はその残滓で生を受けたと言うのに。

 何者の情けで動ける存在になったか理解出来ていない不細工なデク人形め。

 この魔力こそは妖精女王ティターニア様のもの。

 なのに妖精女王ティターニア様と妖精の王オウベロンの娘である私を襲おうとは。なんたる愚か。

 愚か者めが、思い知らせてあげましょう」


 フェノゼリーさんが宣言している。その彼女の肉体から凄まじいモノが沸き上がるのが感じられる。

 

「我は冬山の獣。

 誰も入り込めぬ雪山に足跡を残す伝承に生きる物。

 人が恐れ崇める力を見せてやろう」


 彼女は近くの石の巨人ゴーレムを手に掴み、持ち上げる。そのまま金属の巨人メタルゴーレムに対して投げつけていた。



「何をぼうっとしてるんです。

 私が食い止めると言ってるでしょう。

 貴方は逃げるんです。

 石の巨人ゴーレム程度なら私に倒せますが、金属の巨人メタルゴーレムを倒すのは…………」


 あれ?!

 俺に言ってるの?

 

 2メートルほどの石の巨人岩のカタマリを投げつけられていた金属の巨人ゴキブリ。バランスを崩していたみたいだけど、すぐに復活。歩いてくる。


 俺は土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルを振り上げ、エイっと踏み込む。金属の巨人ゴキブリのど真ん中を砕いて見せる。


妖精少女パック、頼んだ」

「あいさー、なのよ」


 俺の近くに飛んできたちみっちゃい子の腕に抱えきれないような煌めく石が現れる。


「おっとっとだわさー」


 魔法石の重さでふらつく妖精少女パックを俺はサッと支える。受け取った魔法石はと……緑魔石エメラルド金剛魔石ダイヤモンドだな。

 俺はちみっちゃい子に親指を立ててやると、妖精少女パックも返す。

 ぐーっど。


「え……え……ナニが起きたんでしょう……あれ。

 倒した……いや、そんな、まさか……」


 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんが動かなくなった金属の塊の前で呆然としている。


「フェノゼリーさん、危ないからどいていた方が良いですよ」


「貴方っ……あなた……人間が金属の巨人メタルゴーレムに勝てる筈が無いでしょう。

 なのに……何を自分が成し遂げたのか分かってるんですか……

 そんな落ち着いている場合ですか?!」


「落ち着いてないですよ、焦ってますって」


「焦っている……違う!

 違います。驚きなさい。勝ち誇りなさい。

 歴史に残る様な事を成し遂げたんですよ、貴方は!

 なんだって貴方は焦ったりするんです。

 …………焦る? なんで?」


「この金属の巨人メタルゴーレム、俺を恐れてるもんで、数体集まらないと襲って来ないんですよ」


「…………は?!……」


 そう。もうすぐそこに来ているのだ巨大な図体で地面にドシンドシンと振動を響かせる金属の塊。金属の巨人ゴキブリ


「……な、ななななななななななななななななななななななななんあななななななななんあなななな」


 危ないって言ってるのに、フェノゼリーさんは立ち止まってしまった。何故か、なななな言っている。人間の言葉キライだって言ってたものな。動物になら通じる言語なのかも。

 なんだか怯えているみたいにも見えるけど、金属の巨人ゴキブリ相手にそんなハズ無いね。

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