第93話 甘いモノ

「まぁまぁ、男性が魅力的な女性に惹かれるのはトーゼンですわ。

 ご主人様はまだ若いですし、すこーしその視線がえっちになってしまったとしても許してあげないと」


 この寛容なセリフはお掃除妖精ブラウニーさんのモノ。

 茶色い服を着た、ちみっちゃいメイドさん。


「これだから人間の男はイヤなんです」


 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんがそっぽを向いて言っている。

 髪の毛で顔は隠されているので、ホントにそっぽを向いているかどうかは分からないんだけどな。


「ああ、毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんがあまりに……そのおキレイなんでつい視線がいってしまったかもしれない。

 別に変な意味は無いんだ。

 不愉快な思いをさせたならすまなかった」


 とりあえず俺も言っておく。必ずしも事実では無いが…………

 さっき毛の間から覗いた顔がおキレイだったは嘘では無いし、まぁいいだろう。


「あたしが魅力的でキレイなのは事実だわさ。

 だから許してあげるなのよー」


 妖精少女パックが機嫌良さげに飛び回る。

 俺がキレイと言ったのは毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんに対してであって、オマエに対しては言っていないからな。


「とにかくその仔ジカの面倒は今後も見てあげて下さい。

 親を亡くして動揺しています。

 何故人間のアナタなんかにそう思いこんでしまったのか、不思議でなりませんが…………

 アナタの事を父親替わりの様に思っている様です」

 

 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんが言う。

 俺?

 この仔ジカちゃん、俺のコトを親父みたいに思ってるの?

 ……………………


 仔ジカはこっちを見て甘えるように俺に体を擦りつける。

 よしよし。かーいーな。

 俺は頭を撫でてやる。この仔は親を亡くしたばかりだ。ここに男が俺しかいないのを感じてるのかな。

 可愛いとは思うが…………責任重大でもあるな。


「分かった。

 出来るだけの事はするんで、毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんも手伝って貰えるか?」


「アナタに言われなくても動物の世話はします」


 ツレない返事だけど、了解の意思表示と捉えておこうかな。


「山羊から絞った乳があります。

 乳離れはしているようですから、飲ませ過ぎない様にしてください。

 でも少しは与えた方が良いです」

「なるほど。気を付けよう」


「私がゴチャゴチャ言うまでもありませんね。

 半山羊妖精グラシュティグも来るのでしょう。

 彼女の方が専門です」


「いや、助かる。

 自分は野生動物と触れ合った経験がまるで無いんだ。

 細かい事でも言ってくれた方が良い」

 

 動物の世話が得意なのは半山羊妖精グラシュティグさんの方で、毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんは家具造りの方が専門だったな。


「今日はアレを作りました。

 それで…………」


 毛むくじゃら妖精フェノゼリーさんから毛に覆われてる腕らしきものが伸びて、指を差す。その先には竹で編んだ籠の様なモノが床に置かれている。中に藁や布が敷かれている様だ。


「仔ジカ用のベッドか。

 寝心地良さそうだ。

 良かったな、お前」


 俺がシカの首を撫でてやると嬉しそうに鳴く。


「トーゼンです。

 夕方、シカちゃんには寝心地試して貰った上で改良も済んでるんです」


 そっか。夜なのに仔ジカが元気だと思ったら、もう軽く寝た後だったんだな。

 

「それより、アナタのベッドはどうします?」


「俺? 俺はあまりここで寝る気は無いからいいよ」


 深夜に訪れているのだが、俺はここで作業をしている。小休憩くらいは取るけど、仮眠する気は全く無い。


半山羊妖精グラシュティグに頼まれました。

 ………………彼女と貴方二人で寝ても狭くないのを作ってね、と。

 あ、あの男若いしー、元気そうだし、二人じゃなくて三人くらいは寝れるようにしといた方がいいかもねー。と言ってました」


「あ・の・人はーーーー!」


 半山羊妖精グラシュティグ。いなくても迷惑な人だ。


「そんな用途のために作るのは不本意ではあるのですが、人間が子孫繁栄の為必要な事ではあるのでしょう。

 それでお好みのサイズは、どうすればいいんです?」

 

「…………俺はここでベッドに横になる気は無い。

 たまにアナタたちが訪れた時、仮眠する様に有った方が良いのなら、好きな様に作ってくれ」


 ……子孫繁栄って毛むくじゃら妖精フェノゼリーさん、すげー事言うな。あまり突っ込んでその話はしたくない。そんなトコロで仔ジカに別れを告げてリビングを離れる俺である。


「じゃあな。俺は仕事してくる。

 ゆっくりしてるんだぞ」


 ピー、ピィピピー


 仔ジカともう少し戯れたい気持ちもあるのだが、お茶をしに来たのでは無い。深夜作業をやりに来たのだ。

 

「よっし、ガンバなのよー」


 妖精少女パックが机の上に横になって、お茶を飲みながら言ってる。オマエはダラっとし過ぎじゃないのか。

 妖精少女パックはお茶の合間に口にナニか運んでいる。


「うまいんだわさー!

お掃除妖精ブラウニーちゃん、サイコー」


「お褒めに預かり光栄です。

 クッキーを焼きましたので。

 ご主人様も仕事が一段落したら食べてください」


 クッキー?!

 いいじゃん。俺割りと甘いモノ好きだったんだよ。

 社長机にクッキーとかチョコの詰め合わせ忍ばせていた。資料読んだり、勉強してる合間に口に放り込んだものだ。

 体動かして肉体が疲れると、肉や油食べたくなるように。頭使って考え事すると、甘いモノ食べたくなるんだよな。


 いよーっし。

 頑張るぜい!

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