第50話 海豹妖精《セルキー》

「おーい、海豹妖精セルキーちゃーん。

 来た来た、イズモあれ。

 あれがお友達なのよー」


 妖精少女パックが指を差す。俺は川岸に立っていた。近づいて来る灰褐色のモノ。

 ナニあれ? ナニあれ?

 丸っこい顔が水の中から出て来て黒い瞳が俺を見つめる。

 かわえええええ。

 アザラシじゃん。

 アザラシって……海の生き物じゃなかったっけ?

 いや日本でも荒川や多摩川にアザラシが上がって来たとゆー話があったな。その時に聞いた気がする。海外でも湖から川に住むアザラシが居て、ロシアのバイカル湖周辺ではバイカルアザラシなんて呼ばれる淡水にしか棲まないアザラシが居る。


 アザラシが近付いて来る。顔を出したまま立ち泳ぎ。黒いおメメと困ったような顔、鼻から左右に出たおヒゲがキュート。

 岸まで上がってきて、妖精少女パックに話しかけるように鳴く。


きゅっ きゅきゅきゅーーー


 鳴き声もカワイイな。


海豹妖精セルキーちゃん、紹介するのよ。

 イズモ、妖精の友人フェアリーフレンドなんだわさー」


 アザラシちゃんは手びれを動かして頭の方にやっている。まるでかぶり物を脱ぐような動作。……と思ったら。


「は、はじめましてです。

 海豹妖精セルキーと申します。

 よろしくどうぞ」


 そこには女の子が立っていた。髪の毛は灰色、黒くて大きい目が可愛い少女。全身にピッタリした水着を着ている。

 ん?

 この娘、どっから急に現れたの?

 そして何だってビショ濡れなの?


「…………今のかわいいアザラシは何処に行ってしまった?……」

「かわいいなんて……そんな照れます」


 女の子は手に皮らしきモノを持っている。うりゃっと皮を頭にかぶる。

 すると。

 そこにはアザラシがいた。丸っこくて、真っ黒いおメメのぷりちーな生き物。

 ぷりちーな短い手びれを頭部にやる。

 すると、そこには……

 皮を手に持った女の子。全身ビショ濡れで黒い瞳で俺を見つめる。


「……なんとなく分かった。

 よろしくな、俺はイズモだ」


 それ以上俺は問い詰めなかった。だって……なんか訊くだけムダっぽくない?

 妖精だし、ファンタジーだし、どうやって一見アザラシっぽい生き物から一見人間の女の子風に変身してるの、とか。

 その身体のラインがハッキリ出る服はナイロン製なんでしょうか、とか、スクール水着風に見えるのは自分の気のせいでしょうか、とか。

 お胸が割と膨らんでいらして、腰の辺りも膨らんでいらして、ぽっちゃり系ではあるけれど、キチンとウエストは締っていらっしゃるボディーはモノホンで詰め物無しでしょうか、とか。訊ねたいコトは山ほど在る。在るけど……胸の中に仕舞っておこう。


「パックちゃん、お久しぶりです」

「セルキーちゃん、元気だった? なのよー」


 妖精少女パック海豹妖精セルキーは旧交を温めている様子。

 身長20センチほどの小さい妖精少女パックと普通の人間の女の子サイズのセルキーだけど、仲は良いようだ。


海豹妖精セルキーちゃんが困ってるってウワサ聞いたから、イズモ連れて来たんだわさー」

「……ナニか問題が在るなら、力になるぞ」


 スク水風のモノに身を包んだ少女が俺を見て頭を下げる。


「ありがとうございます。実は…………」

「待てい!

 その話は吾輩が引き受けた筈で有るぞ」


 セルキーちゃんの話を聞こうとしたら、割り込んで来た声がある。

 声が聞こえたけど何処に居るの?

 俺は周辺を見回すが、誰もいない。

  

「何処を見ているのであるか?

 吾輩は上である!」


 俺は視線を天に上げる。そこにそれがいた。馬を駆る鎧の騎士。天に円を描くお月様を背景に騎士が空を飛んでいた。


……………………


妖精少女パックさん、妖精少女パックさん」

「ナニなのよー、イズモ?」


「あのお馬さん空飛んでますよ…………翼も無いのに」

妖精馬アハ・イシュケ なのよー。

 羽なんか無くても空くらい飛べてアタリマエなんだわさー」


「そうですか…………

 あの騎士、鉄鎧着てますよ。

 妖精って鉄がニガテなんじゃ無かったですっけ?」

「金属全部がニガテなワケじゃ無いなのよー。

 アレは多分理想の妖精銅オリハルコン製なんだわさー」


 ウソつけっ!

 妖精って付ければナンでもアリか?!

 オリハルコンとかゆーな。ゲーム好きな子供時代思い出してトキメいちゃうだろ。

 妖精と言えば俺が黙ると思ってんだろー。

 ……実際黙るけど。

 だってツッコムとさー。俺だって前世の記憶が在る人間で、妖精が見えちゃったりしてるワケで。オカシイのはお前も一緒じゃ、って話にならない?


 うん。少し取り乱した気もするが、妖精少女パックがボケてくれて精神の中でツッコミしたおかげで正気を取り戻した気がする。


「……で。どちら様でしょうか?」

「吾輩を知らんとは……何処の田舎者であるか!」


「イズモ、アレはねー。

 ヘルラちゃんなのよ。

 妖精狩猟団ワイルドハントのリーダーなんだわさ」

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