第51話 ヘルラさん

 妖精狩猟団ワイルドハントのリーダー。

 ヘルラさん。

 身長20センチ前後のちみっこではあるのだが。金属鎧を全身に来て、兜まで着用している姿は騎士の様。兜で顔まで隠しているので分からないが、鎧のプロポーションは女性を思わせる。

 お月様を背景に馬に乗って空を飛んでいるのである。馬の方も30センチ前後のちみっこ馬。

 妖精馬アハ・イシュケ だから飛んでもフツーだと妖精少女パックは言う。

 

海豹妖精セルキー半豚半馬ナックラヴィーは吾輩がなんとかすると約束したではないか。

 妖精少女パックに頼むとは吾輩屈辱である」


 吾輩と言う一人称、軍人の様な喋り方ではあるんだけど、声はやっぱり女性のモノなんだよな。

 鎧もお胸の部分が突き出しているのだ。アレで男だったら、サギじゃね、みたいな。


「ヘルラさん、別にわたしは妖精少女パックさんに頼んだりはしていません。

 彼女はウワサを聞いて心配して来てくれただけです」


 こちらは海豹妖精セルキーちゃんのセリフ。

 灰色の髪、黒い瞳の少女。何故かスク水に似てる服を着てビショ濡れなのがチャームポイント。手に持ってる皮を頭部に被るとアザラシに変身しちゃう。こっちはフツーの人間大。女の子なので俺よりは背が低いが150センチから160センチくらいはあるだろう。


 事情は良く分からないが……

 海豹妖精セルキーちゃんは半豚半馬ナックラヴィーとやらの件でナニか困っている。しかしそれはヘルラちゃんが解決すると約束している。

 ならば……俺はお呼びじゃ無いと言うコトだな。


「分かった。

 セルキーさん、ヘルラさん、ではまたな。

 妖精少女パック、帰るとしよう」


 メンドくさそうだし、この川に辿り着くまでにも多少の時間がかかっている。セタントが目を覚ます前に帰ってしまいたい。


「えええっ、イズモ様。

 そんな…………」


 海豹妖精セルキーちゃんが俺の方を見て泣きそうな目をしている。俺、この黒い大きい瞳に見つめられるの、弱いな。


「セルキーさん、ヘルラさんは頼りになりそうじゃないか。

 彼女が何とかしてくれるんだろう?」


「そうだ。其方ナカナカ分かってるではないか。

 海豹妖精セルキー、吾輩に任せておけ」


「そんなコト仰っても…………

 ヘルラさん、川を渡れないから、半豚半馬ナックラヴィーに手も足も出ないじゃありませんか」


「いや、こないだはだな。

 間違えて剣を装備して来てしまったから、ナニも出来なかったかもしれんが。

 今日は抜かりは無い。

 吾輩の装備、今日は槍である。

 攻撃距離が長いのである。

 妖精族の至宝、貫くものグングニルであるからして。

 半豚半馬ナックラヴィーなど一撃で倒してご覧に入れる」


 槍を取り出して見せつけるヘルラちゃん。確かに彼女の身長より長い大槍。リーチは剣よりは長いだろう。…………と言っても40センチ程度だけど。


「ヘルラちゃんは、口先は威勢良いけどなのよ。

 空回りする事の方が多いんだわさ」


妖精少女パック、吾輩を愚弄すると許さんぞ」


 妖精少女パックはフワフワと飛んで行く。川を渡って向こう岸へ。


「ヘヘーン、凄んでもこれで手も足も出ないなのよー」


 ヘルラは川のこっち岸から槍を振るう。突き出してみたり大きく薙ぎ払って見たり。…………40センチてーどの槍である。川幅の方はおよそ2メートル。モチロン全く届いていない。


「……何故だっ。

 何故妖精族の至宝、貫くものグングニルが通じないのだ?」


 槍がマッタク届いてないからだと思いますが…………

 ヘルラさんはアキラメ悪く、槍を突き出すのを続けているが、トーゼン妖精少女パックには届かない。


「ヘルラちゃん、どーしたんだわさー」


 ってゆーか、飛んでるんだからさ。川の上渡って行けばいーじゃん。ヘルラさんはナニしてんの。


妖精馬アハ・イシュケ は真水がニガテで川や流水の上を渡る事は出来ないんです」


 そんな俺の心の疑問を察してくれたのか、海豹妖精セルキーちゃんが説明してくれる。


「おのれっ。

 吾輩を愚弄するとは、許せんっ。

 妖精少女パック、覚えておけよっである」


 ヘルラさんは怒っているみたいだが、そんな馬を選んでるんだからしょーがないじゃん。


「ヘルラさんは……この調子なので……

 イズモ様、やはり貴方に助けて戴けないでしょうか?」


 セルキーちゃんはヘルラさんに聞こえない様、ヒソヒソ声で俺に話す。少女が接近するので、胸元にピッタリ貼りつく水着のラインとか、濡れた髪から見えるうなじなんかが俺に良く見えちゃったりして。目の毒なので近づき過ぎない程度にお願いします。



「それは良いけど…………

 なっくらびーだっけ?

 それって何なんだ?」


 そうセルキーちゃんに訊ねる俺の鼻にいきなり飛び込んで来た。刺激臭。腐った肉のニオイ。

 クサッ!

 なんじゃ、コレ。


「コレです。

 半豚半馬ナックラヴィー!」

 

 セルキーちゃんが血相を変える。


妖精少女パック

 後ろ、後ろである!」


 ヘルラさんが慌て騒ぐ。


「へっへーんなのよ。

 脅かして、川を越えさせようなんて、そんな手には引っかからないんだわさ」


「違うのであるっ!

 妖精少女パックの後ろに居るのである!」


「……え?

 ナニ、このくっさいニオイ?!

 え、えええええええええええっ?!」


 ちみっちゃい少女が鼻を摘まみながら振り返る。


 そこに、ソレが居た。

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