第66話 土木作業用円匙刀剣《シャベルサーベル》の材料

 俺の必殺技、土木作業用円匙地獄の炎熱光線シャベルヘルファイヤビームは3体の金属の巨人ゴキブリを一瞬で両断していた。


「スゴいんだわさー!

 シャベルナイト、サイコーなのよー!」


 妖精少女パックが俺の周りを騒いで飛び回る。

 


 以前試した時、地獄のヘルファイヤを遠隔攻撃として発射するのは上手くいかなかった。ゲームで良くある火の玉ファイアボール

 でもさー。俺頭の中に火の玉が飛んでく光景とか思い浮かばないんだよね。子供の頃アニメくらいは見てたけどさー。火の玉飛ばす映像なんてあったっけ。主役はだいたい剣で戦うし、魔法使い系の仲間だってもっと派手な魔法使ってた気がするんだよな。全然イメージ湧かない。


 でも熱光線ならイメージできる。発射装置の先端にエネルギーが集中して輝きだして、そこから収束された光が発射される。ロボットアニメやらなんやらで見た事のある光景だ。


 この土木作業用円匙地獄の炎熱光線シャベルヘルファイヤビームがどう言う理屈だと言われると俺だって良くは分からないのだが。

 まー多分、地獄のヘルファイヤの熱を細く鋭く集中させて放射している……みたいな。


 言うな。理屈に合わないとか言わないで欲しい。

 アルキメデスの熱光線は一応近代科学の観点から見ても在り得るモノだったハズ。

 日本ではレーザーカッターだって実用化されてるのである。熱光線くらい出したってよかろーもん。


 分かってんだよ。一応。医療や工場で実用化されてるレーザーメス、レーザーカッターのほとんどはCO2レーザー。光共振器内に二酸化炭酸ガスを導入し、反射される光をより高出力化している。

 電子が衝突することで窒素分子の振動が激しくなる。窒素分子と二酸化炭素分子が衝突しエネルギー交換が行われると、二酸化炭素分子も振動する。二酸化炭素分子が反転分布状態に達すると、わずかな光子の衝突によって誘導放出が連続的に発生しレーザー発光となる。…………だったかな。

 ウチの会社の工場だってレーザーカッターくらい使っていたのだ。技術者が喜び勇んで社長の俺に説明したけれど、ナニ言ってるかなんて分かん無いよ。もっともらしい顔で頷いていただけだった。


 多分二酸化炭酸ガス集めてたり、光共振器利用したりもして無いけどさ。多分魔法石の力借りて、近い事なんかしてんだよ。赤魔石ルビーの力で熱を発生させて、金剛魔石ダイヤモンドの力でそれを強化増幅させてんだよ。現実に目の前で起きてるんだよ。起きてる以上、これは正しい現象なんだよ。

 

 そんな風に俺は納得する。だって納得しておかないと、土木作業用円匙地獄の炎熱光線シャベルヘルファイヤビーム使えなくなっちゃいそうじゃん。

 それにさ…………


「イズモ、すごいんだわさー。

 金属の巨人メタルゴーレムを3つも一瞬で切り裂くなんて正に必殺技なのよー」


 満開の笑顔を俺に向けるちみっちゃい少女。

 この妖精少女パックにレーザーの原理を説明するなんて野暮なだけだ。ここで俺がすべき事は。


「もちろん。

 この土木作業用円匙の騎士シャベルナイトに協力を頼んだお前の目は正しかったぜ」


 そう言ってポーズを決めるコトなのだ。


 俺と妖精少女パック金属の巨人メタルゴーレムの残骸から魔法石を回収し、さらに金属の塊も妖精のマントにしまう。


 ちなみに土木作業用円匙刀剣シャベルサーベル土木作業用円匙保護盾シャベルシールドも青銅製である。


 だってルピナスにとっては鉄って貴重らしーのだ。

 ルピナスの作業場に持ってこられる鉱石はほとんど銅鉱石。その中には多少の鉄も含まれいる。だから青銅のツルハシを作り続けながら、少しの鉄粒が残る。その鉄を集めて彼女は鉄のツルハシ作ったりしてたのだ。

 鉄でシャベル作って、なんて頼んだらどうなるかな。


「るーぴーなーすーちゃん。

 あのシャベル最高だよ!」

「そうでちょ、るぴなすのサイコウケッサクなんだからー

 ……違うっ!

 子供扱いするなと言ってるだろうが」


「そいでさー。

 今度はシャベル、鉄で作ってみない?」

「…………999番キッサマー!

 鉄は貴重だと言ってるのが何故分からない。

 私は毎日毎日まいにちマイニチ毎日まいにちーっ!

 青銅のツルハシばーっか作らされてるんだぞ。

 その中で余った鉄粒を少しずつ貯めて鉄材料を隠し持ってるんだ。役に立つかどうかも分からん試作の道具の為にそんな貴重なモノ使える筈が無い」


 …………やっぱ普通に頼んでもムリだよな。


 金属の巨人メタルゴーレムが残した金属の塊、一つはブロンズだけど二つはアイアンだな。鈍い銀色の金属。多分成分のほとんどが鉄。

 正直鉄の塊と思われる材料は妖精のマントの中に幾らでも隠し持ってるのだ。

 これをルピナスに渡したら…………


「るーぴーなーすーちゃん。

 鉄が欲しいんだって?

 少しなら上げないコトも無いよ。

 そのかわりー少しだけお願い聞いてくんないかなー」

「なんだとっ?!

 これは……ホンモノの鉄の塊。

 これだけあれば、なんでも作れるでは無いか!」


「でしょう。

 ルピナスちゃんのために用意したんだよ」

「くっ。

 ナニが望みだ?

 いや、分かってる。

 男の望む事など…………

 私のカラダが目当てだな。

 私が一人前の魔法技士になって、故郷を救うためなら何でもすると分かっていて……

 カラダを要求するとは、なんと卑劣な男だ!」

 あの大きな革のマントを脱ぐルピナス。服に手がかけられ、一枚、また一枚恥ずかしそうに、その肌を露わにしていく。

 背丈こそ小学生のようだが、成人しているルピナス。大きなマントでプロポーションは良く分からなかったのだが……実は成人にふさわしく、出るべきトコロは出ているカラダだったりなんかしちゃって…………

 違うっ!

 違うってば、俺!


 まー、そんなこんなで俺は調子良く、物事が進む事にチョッピリ有頂天になっていたのであった。

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