第65話 シャベルナイト爆誕

 さて深夜の労働である。


「はーい。

 今日もガンバってなのよー」

「うっしゃー。

 行くぜー」


速度上昇アクセル

筋力強化ストレングス


「おおっ、イズモ気合が入ってるのよー」


 妖精少女パックが夜の坑道を飛び回る。透き通った羽を羽ばたかせるちみっちゃい少女。


「もっちのろんだぜー!」


 シャベルパワーである。

 現在俺は最下層に閉じ込められている妖精女王ティターニアを救うため、下へ下へと坑道を掘り進めているのだ。

 下へ掘るのにツルハシは不向き。突き崩した土やら岩やらは素手でどかさなきゃいけない。

 そこへ行くとシャベルは最強! であった。

 エイッと地面に突き差し、シャベルごと上へ放り上げればいーのだ。

 俺は効率よくガンガン穴を掘り進んでいるのである。


「がーんばれっなのよー!

 がーんばるんだわさっ!」


 俺が調子良いので、ちみっちゃい少女も御機嫌。元気よく辺りを飛び回る。今日の服は緑色か。

 

妖精少女パック、お前服を作ってくれる妖精がトモダチに居ると言ってたな」

「うん。

 絹の妖精シルキーなのよね」


「その彼女、紹介して貰えないか?」

「ええっ?

 どうするつもりなんだわさ」


「服を作ってくれないか、頼んでみる。

 靴職人妖精レプラコーンちゃんと一緒だよ」

「ああ、そーゆーコトなのよね。

 うん、分かっただわさ。

 訊いてみるなのよ」


 人間の町に出かける、遠大な計画の一部である。先日出かけた時はここの作業着を着て行って失敗した。

 ならば、フツーの服を着て行けばいいのだ。この鉱山の売店には売っていないから、作ってもらう必要がある。

 これで服が手に入れば、計画が前に進む。あの村の夫婦には顔を覚えられてるかもしれないから、今度は町の方へと行ってみよう。


 よし、徐々にではあるが、確実に前進してるぜ、俺。


 ドスン、ドスンと音がする。

 俺は今、下層の坑道のそのさらに下へ掘って掘って掘り進めた穴の中に居る。上から振動が響いて来る。

 また害虫か。


 フッフッフ。

 石の巨人コバエ金属の巨人ゴキブリめ。現在の俺には新兵器があるのだ。


 穴から地上へ出た俺。その前方には三体の金属の巨人メタルゴーレム。その5メートル前後の巨体に寄り添うように2メートル程度の石の巨人ゴーレムも数体。


 見るがいい。

 俺の新兵器。


 シャベルサーベル!

 土木作業用円匙刀剣!


 シャベルの試作中に出来たシロモノ。

 先の金属部分を大きく尖らせ、片側へと湾曲させている。その様子は半月剣に似ている。鉱山作業をするにはやりにくいが、戦闘用にはもってこい。なにより見た目もカッコイイ。

 ……言っておくが、シャベルとサーベルをかけたりはしてない。オヤジギャグじゃ無いからな。ホントーに違うからな。


 そしてもう一つ。


 シャベルシールド!

 土木作業用円匙保護盾! 

  

 これはルピナスに頼んで試作品の出来損ないを少し改造して貰った。シャベルの柄の部分を短く腕に括り付ける事が出来るようにした。先端の金属部分は広く厚く円形を保たせて、相手からの攻撃を受け流す。


 剣と盾を構えた俺。


 シャベルナイト!

 土木作業用円匙の騎士!

 

 と呼んで欲しい。



「いえー!

 シャッベルナイトーーーッなのよー!」


 妖精少女パックが俺の要望に応えて歓声を上げる。

 ありがとう、ありがとう。俺は軽く礼を返す。

 目線は巨人ガイチュウどもから外さない。


速度上昇アクセル

筋力強化ストレングス


 俺は土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルを振りかぶって、石の巨人コバエの中に突っ込む。

 巨人狩人ゴーレムハンターの称号を手に入れた俺は、すでにコイツら相手ならラクショー。


 サーベルで石の巨人コバエの図体を切り裂き、見えてくる魔法石を華麗に奪う俺。

 瞬く間に数体の石の巨人コバエが動かない石の塊に化す。

 お宝の方はと、赤魔石ルビーが2つに青魔石サファイヤ1つ、緑魔石エメラルド2つ、黄魔石トパーズ3つか。まずまず。黄魔石トパーズは結構使うからな。数があっても困らない。


 そして自分たちより一回り小さい子分どもが一瞬で倒されたのに、慌てている金属の巨人ゴキブリ


 見せてやろう、必殺技。


 シャベルヘルファイヤビーム!

 土木作業用円匙地獄の炎熱光線!


 俺は赤魔石ルビー金剛魔石ダイヤモンドを握りしめて唱える。

 俺の土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルが赤く輝き、その先端から光が放射されるのである。

 


 金属の巨人メタルゴーレムがやって来る。5メートル近い巨大な化け物。一体だれだけの重量で在るのか、移動するだけで坑道の中にズシンズシンと震動が響き渡る。

 威容の巨人。普通の人間なら見ただけで逃げ出す。もしくは恐怖で一歩も動けなくなるだろうその見た目。鈍い金属の光に覆われ、全身の形は人間を模してはいるが、生物で無い事は明らか。頭部には目も口も無い。目鼻を思わせる窪みがあるだけ。

 二本の脚らしき物が動くが金属で出来たそれがどの様な仕組みで稼働しているのか人の身には想像もつかない。嫌悪感を催させる駆動音を発し近付いてくる。

 腕の先端は握り拳を模している。物を掴む用途に使うには不便と思える、巨大過ぎて精密には作られていない指を握りしめている。現在は掴む必要など無い。相手を殴りつける事さえ出来れば良い。その腕で殴られたなら、地上最大の生物と呼ばれるアフリカ象さえ、一撃でその原型を残さない灰塵と化すだろう。


 人間に敵う筈の無い、神々とも争いを繰り広げたと言う巨人フォモールの末裔とも言われるそれ。

  

 俺が横に構えた土木作業用円匙刀剣シャベルサーベルが光に煌めいた。

 かと、思った瞬間。

 

 三体の金属の巨人メタルゴーレムの上半身と下半身がズレる。

 巨大な腕と頭部を付けた上半身が落っこちる。まだ歩こうとしていた下半身がバランスを崩し倒れる。


 あの…………今ナニが起きたんでしょうか?

  

「すっごい、すごーーーいんだわさーーーー!!!

 金属の巨人メタルゴーレムを三つも一瞬で切り裂く魔法なんてハジメテ見たなのよ!。

 チョーかっけぇぇぇぇええええなのよーーー!

 土木作業用円匙の騎士シャベルナイトサイコーなんだわさーーーー!!!」

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