第64話 お代官様


「999番の道具の話だ。

 さっきまで持って無かったと思ったんだけど、何処から取り出したのか。

 それが気になったんだった」

「…………服の中にしまっていた」


 しまった。シャベルを妖精のマントにしまっていた俺は何気に取り出してしまった。

 シャベル自体は何度もセタントやヒンデルに見せている。試作品を使って感想を訊いたりもしたのだが、二人の前で妖精のマントから取り出した事は無い。


 まずったな。もっと慎重に行動しないと…………


 よく考えると、ナニがまずいんだっけ?

 深夜作業をしているのはナイショにしてるものの、アレは妖精少女パックに頼まれた人助けだし。違うな、妖精助けか。

 むしろこの二人、特にセタントには打ち明けてしまった方が良くないか。

 毎日、夜セタントと共同のベッドを抜け出している。疲れてグッスリ寝ているから気付かれていないが、どこかで気付かれても何のフシギも無い。


 ふーむ……考えてみるに……妖精少女パックは俺以外の人間には見えないんだった。

 もしも打ち明けたとして…………


「あのさー、セタント。

 実はー、俺ってばー、妖精の女の子にお願いされちゃってー。

 深夜の坑道でー、妖精たちの女王様をー、助けてるんだぜー」

「そうなんだ、999番すっごい。

 やっぱりそんじょそこらの男の人とは違うと思っていたよ。

 僕尊敬しちゃうな」


 ……そんな風にはいかないだろーなー。


 それどころか…………


「で、その妖精少女と言うのはどこに居るんだい?」

「そこだよ。

 今セタントの周りを飛び回ってるだろ」

「……ナニも居ないよ」

「ほら、ここ。可愛い女の子が飛んでるだろう」

「………………」

「ちみっちゃくて可愛い女の子だって。

 ほら透き通った羽を羽ばたかせてるじゃんか」

「分かった。分かったよ、999番。

 うんうん、カワイイ女の子が飛んでるね。

 …………可哀そうにこの地獄の様な鉱山の環境に精神を病んでしまったんだね。

 大丈夫、キミの面倒は今までの恩返しに僕が引き受けるよ」


 …………オー・ノー!

 セタントの何とも言え無い憐れみのマナザシまで容易に想像出来てしまった

 ダメだ、コレ。気軽に打ち明ける訳にはいかない。しばらくはこのままナイショにしていよう。


 俺はお仕事に専念する。

 固い岩肌を叩いて崩す。この作業はツルハシに向いている。

 だけど、気になった部分を抉り取ったり、足元の岩や土をどかすならシャベルの方が向いている。

 シャベルは何度も試作して貰ったおかげで大分良いカンジになった。

 スプーンの出来損ないみたいなヤツから、前世に持って行っても誰もがシャベルと認めてくれるモノになったのだ。

 

「711番、使うか?」

「ああ、ありがとう」


 セタントやヒンデルにも貸している。俺が岩盤を崩す担当。足元の岩をどかすのはセタントの担当になる場合が多い。

 

「うん、この道具、シャベルだっけ?

 使い易いんだけど、少し重いね」


 シャベルは俺が石の巨人コバエとの戦闘に使う事も考えて頑丈に作った。結果重量も重いモノになっている。ふーむ、セタントやヒンデル様に軽量バージョンも開発するか。

 

 俺は仕事をしながら…………その一方で思考もしている。

 俺の近くで働いている金髪の美少年と老人。

 

 妖精のマントに隠した魔法石の使い道である。更に金属の鉱石も多数、妖精のマントには隠してある。

 これはどうやら、一財産の可能性が高い。

 これを使って、セタントやヒンデル老をこの鉱山から脱出させられないだろうか。

 正直言うと、どうしたら良いのかはサッパリ分かっていないのだが。

 

 フェルガ副所長に相談してみるか。

 セタント・クラインの姉の知り合いだと言う貴族の女。

 副所長なのだ。収容してる人間の一人や二人放免させる権限を持っていそうじゃないか。

 

 ただしあの女は怖い雰囲気なんだよな。元軍人だって言ってたっけ。元じゃなくて現在も現役の軍人なんだったかな。獰猛な犬なんか連れちゃってヤバイ雰囲気。


「ふぇーるがちゃん、魔法石これあーげる。

 だから、この二人無罪放免にしてくないかなー」

「なんとっ?!

 これはお・た・か・ら~ん。

 ふっふっふ。

 副所長の権限を持ってすれば一人や二人ただちにこの鉱山から解き放ってくれるわー」


 …………こんな風に上手く行くとは思いづらいんだよなー。


 あり得るパターンとしては…………


「フェルガのお代官様、こちらの菓子を献上いたしますので。

 なにとぞこの二人を自由の身にしてやって下さませんでしょうか。

 平に平にお願いでございます」


「菓子だと、そんなモノで……ムッこれは……

 魔法の光に輝く菓子か。

 フッ、999番そなたもワルよのう」

「ナニを仰いますやら。

 お代官様には敵いません」


「フフフッ。

 ものども、この999番を取り押さえよ!」

「なっ、何故でございます?

 フェルガ様~」


「こやつ、何処かに魔法石の鉱脈を隠し持って居る。

 どの様な手を使っても在処を吐かせるのじゃ。

 水責め、火責め、ムチにローソク、何をしてもかまわん」

「ひえーーー。

 お許しを、お代官様、お代官様~~」


「それでも吐かぬとあれば致し方ない。

 我が愛犬アンドリューに半身を喰わせてしまえ」

「それだけは、それだけは。

 なにとぞ、なにとぞお許しください。

 なんでもお話いたしますっ」


 …………何故か時代劇風味になってしまったが。

 それでも、こっちの方が現実味がある。


 フェルガ副所長か。なんだかセタントとも因縁があるみたいだしー。

 美少年を愛人にするとかデンジャラスな発言する人だしー。


 それでも、である。

 この鉱山の労働環境はよろしくない。年老いたヒンデルには重労働すぎるし。育ち盛りのセタントにはいくら俺がトリ肉を分けてやっても栄養環境が悪すぎる。

 二人は長くいない方が良いのは間違い無い。

 俺か。俺はまーいーや。ここの環境でも大して問題無い。

 それに妖精少女パックの問題も在る。地下坑道で妖精女王を助けるため俺は働いているのだ。頼みを引き受けたからにはやり遂げたい。

 それまで、俺はこの鉱山を離れるワケにはイカない。


 ただ……そうなると……俺はセタントと、ヒンデル老と別れる事になる。

 この世界で親しくなれた数少ない人間である。正直逢えなくなる事を考えただけで淋しくなってしまう。


 …………明け方ベッドに帰ってきた時に、あの金髪の子の寝顔が見られない。

 それは…………


 俺の心の何処かが、そんな事になったら生きていられない、と叫ぶ。


 そんなバカな。俺は17歳で17年生きて来たし、プラス実は出雲働として30ウン年生きて来たのだ。セタントとは出会ってまだ一か月程度だぞ。なぜ会えなくなるだけで死にそうになるんだ。


 だから、俺は迷いながらもグズグズとしていた。 

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