第61話 父親

「父は対魔騎士ナイトとしては間違いなく実力者ですが……

 正直言って、人間同士の戦で指揮官には向いていないし。

 ……本人も望んでいない」


 セタント・クラインが言う。

 ふーむ。普段のセタントは優等生みたいなイメージ。あまり親の悪口を言うキャラでは無いのだが。

 反抗期から出た辛辣な言葉なのかもしれないな。金髪の美少年は16歳だと言うし、親に生意気な口を叩くのもアタリマエなお年頃。別に不良化したワケじゃない。親から離れ独り立ちするために必要な時期なのだ。

 その一方で悪口では無く、肉親だから言える素直な事実なのかもしれない、とも思う。

 だからぁ、俺は対魔騎士ナイトの役割も人間同士の戦で指揮官に必要なモノも分かって無いんだってばー。

 とりあえず、口を挟まないでおこう。


 ヒンデル老人の方はある程度、納得してるみたいだ。さすが年を重ねてるだけはある。


「確かに対魔騎士ナイトと言えば、魔物たちから弱い人間達を護ってくれる英雄じゃが…………

 現在の国王が期待してるのは、そんな事では無くて。

 コナータ国やライヒーン国との戦争に役立ってくれる事なんじゃな」


 事情が良く分かんないで困ってる俺を察知してくれたのか。やたら説明くさく会話してくれるヒンデル老人。

 さっすがぁー。出来るヤツだと思っていたんだ。


 そう言えば以前、ルピナス・エインステインも言っていた。「もう対魔騎士ナイトの時代じゃない。これからは魔法武具クラフトの時代だ」

 その時は何のハナシやら分からなかったが、段々と呑み込めてきた。


 魔物やらのファンタジー要素は良く分からないが、元の世界でもおそらくは在ったであろう流れだ。

 人間は生きていくために自分達を襲う猛獣と戦わなければいけなかった。それだけでは無い。同じ人間同士でも違う部族、違う国の人間との諍いも起きる。

 最初は個人の強さが重要だっただろう。身体が大きいヤツ、ケンカが強いヤツ。そんなヤツらが戦で功を上げて英雄になる。

 だけど……徐々に戦は近代化されてくる。人数は増えて、100人、1000人を越える軍隊となっていく。兵達も武装していく。最初は木の棒だったモノが、鉄の剣を構え、鋼の鎧で身を守る。

 武装した兵隊が100人の中で、ちょっとばかりケンカの強い男がいるかどうかなんて大した意味を持たない。

 重要なのは兵達が素直に指揮官の言う事を聞くか、指揮するモノの用兵能力が高いかどうか。


 ルピナスが言っていたのはその中でも武装の話だ。弓矢だって徐々に進化する。木を尖らせただけの矢から青銅の矢へ、そして鉄の矢へ。その武器から身を守るため鎧も布の服から革鎧へ、そして鉄の胸当てに進化していく。

 その進化を担うのが、この世界においては魔法技士クラフツ、ルピナス・エインステインと言うワケだ。

 ルピナスも大したモンじゃないか。

 と言いつつ、彼女はツルハシしか作らせて貰えないみたいだけどな。



「はい。

 あのフェルガさんの実家、マクライヒ家なんかは兵隊の指揮官も上手くこなしています。

 ウチの父は一般兵を矢面に立たせるのをイヤがっている。

 自分が強くなったのは一般人を護るためだ、と言って。

 ライヒーンで攻め込むのも積極的じゃ無いですし。

 コナータやライヒーンとの戦争自体やめるべきだと公言しているんです」


「それは……正しいじゃろうが。

 王としては見過ごすわけにはイカンのじゃろな」


 セタントとヒンデル老の会話は続く。

 

 なんだなんだ。セタントのお父さん、すげぇ好感度高い人じゃんか。

 一般人を護るため自分は強くなった、と言って下っ端の兵隊じゃ無くて自分が前線に出る。王の機嫌を損ねると分かっていながら、戦争をやめた方が良いと大っぴらに言う。

 面識は無いけどそれだけ聞けば、すげぇイイ人だと思えるぞ。


 なんだかセタントが困った人間の様に言うので、どんな厄介な人間だと思ってしまった。

 もしかして……アレか。

 父親が立派過ぎると子供は苦労する、みたいな。

 ナニかと父親と比べられて「キミのお父さんは凄かったんだよ」なんて言われちゃう。チラリとこちらを見た目線には、それに比べてキミは……、と書いてある。

 ウルせーっ!

 親父は凄かったかもしれないが、こっちはこっちで頑張ってるんだよ!

 寝ないで働いてるんだよ。

 こっちは大学出たての社会人一年生なんだよ。

 オヤジとは親子なんだから年が離れてるんだよ。

 その年月で培った経験と能力に俺が一瞬で追いつけるワケ無いだろ。


 イカン、そりゃ俺だ。

 大学生から会社社長になったばかりの頃、年上の社員たちに頭を下げて物を教わる日々。あの頃はそんな視線で見られる事ばかりだったし、中には面と向かって言ってくる人間まで居た。そのせいで俺は働きづめの仕事中毒ワーカホリックになってしまったのだ。


 そうだ俺、頑張り過ぎないで適度にやろう。いつか訪れるであろう俺の息子のためにも、俺が立派過ぎるのは良くない。

 

 ……俺、子供生まれるのかな。アッチの世界では30ウン歳にもなったのに彼女さえいなかったモンなー。こっちの世界では鉱山に囚われて、労働している。

 ……これって、今まで考えもしなかったけど……

 もしかして彼女作ったり結婚したりするの、大分敷居が高くないか。

 年頃の女性がここには全くいないぞ。

 いや、たまには若い女性が囚人として送られてくる事もあるようなのだが……

 監視のクソ野郎どもが愛人として囲ってしまうとか言うんだった。


 じゃあ、どうすりゃ良いんだ。


 妖精少女パックとか靴職人妖精レプラコーンちゃん……?

 俺は一瞬、パックやレプラコーンを思い浮かべる。妖精ではあるけど、どちらも魅力的な女性。妖精の年齢は分からないが、膨らんだ胸元と腰、プロポーションからして立派な女性。

 

 ってゆーか、アホかーっ!!

 俺、正気に戻れ。

 身長20センチくらいのちみっこい女性なんだぞ。

 結婚はともかく、子供作れるワケ無かろーー!!!

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